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#執着
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「反応?」
気難しい表情を浮かべる麗香を見つめ、私はふと言葉を止めた。
確かに一瞬、楓ちゃんの様子が気になった。
何だろう……あの時の表情は。
そう、前回会った時にも感じた違和感。
化粧で雰囲気が変わったから?
……違う。
彼氏とのことを聞いた時の反応にも、どこか違和感があった。
「楓ちゃん、何か悩み事でもあるのかな……。前は何でも気兼ねなく話してくれたのに、オペ室へ配属されてからほとんど話をしなくなっちゃったから……。近いうちに、本当に飲みに誘ってみるよ」
麗香の横顔へ向けて、穏やかな笑みを送った。
「そうね。ずっと亜紀が妹みたいに可愛がってたナースだから。
あっ。何なら例のパーティーに誘っちゃう? 彼女なら調教のしがいがありそうだわ」
麗香は手のひらへ拳をぽんっと打ちつけ、楽しそうに笑った。
「パーティーって……あのパーティー!? やめてよ。あんな過激なの見たら、楓ちゃん失神しちゃう」
……本気で。麗香なら、やりかねない。
怪しげな企みを全身で漂わせる親友を眺め、呆れ混じりのため息をついた。
階段を下りると、長椅子がずらりと並ぶ中央ロビーへ出る。
高級感のあるソファーが並ぶ窓際へ視線を移した時、背の高い観葉植物の陰に見慣れた背中が見えた。
「あっ、遼いた。麗香も遼に久しぶりに会っていくでしょう?」
十数メートル離れた場所で、うつむき加減にソファーへ腰掛ける遼の背中を指差した。
「そうね……せっかくだから大学の先輩にご挨拶させていただくわ」
麗香は遼の背中をじっと見つめたまま、意味深な笑みを浮かべた。
「ごめん、待った?」
彼の座るソファーまで駆け寄り、手元を見つめる後ろ姿へ声を掛けた。
「あぁ……少しな。お疲れ」
彼は振り返りながら、すっと携帯を伏せた。
「遼もお疲れさま。……誰かにメールでもしてたの?」
さりげなく携帯をジャケットのポケットへしまった彼は、口元を緩めて答える。
「……ああ。亜紀がメールを返さないから、もう一度送ろうかと思って」
「そうなんだ。ごめん、更衣室へ入ってからメールに気づいたの。もうすぐ行くからって、そのまま返事しないで来ちゃった」
「仕事が終わった時点でメールくらいしろよ。何時になるのか分からないまま待つのは苦痛なんだぞ」
遼は短くため息をつき、立ち上がった。
「それくらい待ってあげなさいよ。毎晩、帰るかどうかも分からない旦那を、亜紀は待ってるんだから」
ゆっくりと歩いて来た麗香が、嫌味を含んだ口調で言った。
「……相川。一緒にいたのか」
麗香の姿に気づいた遼は、一瞬だけ表情を曇らせ、苦笑いを浮かべた。
「宮坂先輩、お久しぶりですね。敏腕ドクターは相変わらずお忙しいようで。羨ましいです」
麗香は挑発を滲ませる口調のまま、にっこりと微笑む。
「ちょっと、麗香……」
遼を真っ直ぐ見据えながら綺麗に笑う親友を見つめ、胸がひやりとした。
「おまえの憎まれ口こそ相変わらずだな」
遼は目を細め、鼻で小さく笑う。
二人の間で視線をさまよわせた私は、張り詰めた空気を断ち切るように口を開いた。
「ねぇ、遼。麗香を八事駅まで乗せていってくれないかな」
「ああ、いいぞ。その方が行きたい店にも寄れるし」
「お気遣いなく。私はここで失礼するわ。途中で買い物して帰りたいの」
麗香は首を横に振り、ふっと微笑んだ。
「本当に? 遠慮なんてしなくていいんだよ」
「遠慮じゃないって。本当に寄りたい所があるの。
それに……私が一緒だと、宮坂先生のご機嫌が悪くなっちゃいそうだし」
麗香は口元へ手を添え、悪戯っぽく笑った。
「そうだな、ご遠慮願う」
遼は口元に笑みを浮かべたまま、冷ややかに言い返した。
「はいはい。言われなくても帰ります。
……ところで、今日の食事はどっちが誘ったの?」
麗香は一呼吸置いてそう尋ねると、遼へ向けていた視線を私へ移した。
「珍しく今日は遼から誘ってくれたんだよ。週末ならともかく、仕事帰りに待ち合わせして外食なんて何か月ぶりだろう。……ねぇ?」
「たまにはいいだろ。新鮮味があって」
わざと遼の表情を窺う私を横目に、遼は素っ気なく答えた。
「ふ~ん。新鮮味ねぇ……。なるほどね。たまにはいいわよね」
麗香は遼を見つめたまま、意味ありげな笑みを浮かべる。
「……なんだよ。その奥歯に物が挟まったような言い方は」
「別に。ただ……男って、本当に分かりやすい生き物だなって思っただけよ」
麗香は怪訝そうに眉を寄せる遼を意に介さず、余裕の笑みを浮かべた。
「……」
遼は麗香から視線を逸らし、「返す言葉はない」と言いたげに大きくため息をつく。
「麗香……あんまり遼に喧嘩売らないでよぉ……」
私は遼の顔色を窺いながら、小声で呟いた。
「あら、私は喧嘩なんて売ってるつもりないわよ。でも……そうね。宮坂先生の額に青筋が浮いてきたみたいだから、そろそろ失礼するわ」
麗香はくすくすと可笑しそうに笑い、私へ軽く手を振った。
コメント
1件
更新お疲れさまです〜🌙 今回も読みました。亜紀さんの「楓ちゃんの様子が気になる」って感覚、すごく共感しました。化粧だけじゃない、何か違う…って感じ取るところ、看護師の観察力がリアルで。あと、麗香と遼の間のピリついた空気がたまらなく好きです。お互い牽制し合ってるのに表面上は笑顔って、めちゃくちゃ大人の関係って感じでドキドキしました。続きが気になります…!