テラーノベル
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『おめでとうございます!!グランプリを手にしたのは、なんと10歳のぺいんとくんです!』
鳴り止まぬ拍手、甲高い歓声、照明に照らされる金色のカップ。鮮やかな色彩が僕───しにがみの目の前には広がっていた。ひどく輝かしかった。
近所の友達である彼───ぺいんとくんとは、5歳の頃から仲良くしてもらっていた。趣味は意外にも合って、すぐに仲良くなれた。まぁ、少々相手がコミュ障だが。それでも、そんなの気にしないくらい良い子で素敵な子だった。
彼と僕の一番の共通点は、”演技が好きなこと”。そんな僕たちはある大きなコンクールに応募し、二次試験までは受かっていた。問題としては、最後の三次試験。倍率は平均よりも高く、目指すには高い壁だった。ほんと、数人しかとれないグランプリ。
『しにがみと俺で、絶対ダブル主演とろうな!』
『うん!!』
2人で出演するならこのドラマがいいとか、この役もいいとか、たくさんの想像を小さいなりの頭で膨らませていた。
本番前に、僕は高揚していたのだ。ぺいんとくんとなら、ぺいんとくんとの役なら…たとえ2番でもそれ以下でも、素敵な物語になるんじゃないかって。
でも、僕と違ったのは彼の方で。
『ぺいんとくん、寒いの?』
笑顔で聞くも、相手はステージの方を眺めて眉を顰めるだけだった。
金色の光が僕たち以外の子役を照らすステージを、ステージ袖から眺められるのは人生で滅多にない経験だ。
なのに、彼は何で震えているの?
『…ねぇ、ぺいんとくん?寒いの??』
返事をしない彼に覗き込むように顔を見ると、相手はひどく怯えた顔をしていた。
そんな顔を見てギョッとするも、相手は視線を動かさずに震えた声で喋り出す。
『…あ、のね…僕、しにがみくんに隠してたことあるの。』
『……え、』
今になって言うことではないだろう。そう言う前に、彼は話し続ける。
『僕、あがり症なの。人の視線が、すごい怖いの。』
彼は震える声で話し続ける。
その先の言葉は欲しくない。心がそう拒絶していても、彼は話す。
『手も、足も震えて、声も震えて…顔は熱くて、心臓もバクバク鳴ってて…。』
小さいなりに、その言葉の意味がわかった。
彼は、怯んでいるのだ。今頃になって怯む彼を見て、初めて彼に嫌悪感を抱いた。いや、というより怒りが募ったのかもしれない。
僕は彼の手を強引に引っ張り、舞台裏に連れて行く。相手は戸惑った顔をしながらも、連れて行かれるしか選択肢はないようだった。
『…ぺいんとくん、それほんと?』
視界の端で、彼は頷く。
はあ、と息をひとつつく。
『───だからって、助けないからね。』
『へ、』
想像してもいない言葉を聞いたような顔をしてこちらを見た。僕はそのくらい、苛立ちを隠せなかった。
ここまで頑張ってきて、あがり症で弱音を吐くのかと。
…………でも、今思えば、この考えは間違っていたんだって分かる。治したくてもなおらないものだからこそ、相手は苦しんでいる。それを彼はせっかく僕に話してくれたのに、彼は余計に心を閉ざした。
そりゃそうだな。わかってくれるかもしれない、慰めてくれるかもしれない。そう思って僕に言ってくれたのに、突き放したんだから。
『……そっ、だよね…。あはは、ごめんね……。』
当時の僕は偉そうになっていたと思う。いや、偉いと思っていた。友達の間違った道を正したんだとか正義ぶっていたのだから。
ひどく情けなく、反吐が出そうなほど愚かな話だ。
───それでも。
『”…見よう!桜!!この場所で、また…いつか!!”』
グランプリを手にしたのは、彼だった。
たった最初の一言で、会場の全員を持っていった。強引に引き寄せられるかのように。 舞台袖から見ていて、僕はわかった。
───この子は僕と違うんだ。
長く付き合っていたくせ、気づくのが遅すぎた僕は、後悔した。それでいて、彼を心の中で責めた。
全部、僕が悪いのに。
「じゃ先輩、また会えたらその時は。」
2人が別れるところで自転車を停め、先輩を自転車から下ろし、早めに帰ろうとする。
ペダルを踏み込み、腰を上げて立ち漕ぎする。後ろから聞こえた声は、嗚咽だった。鼻水を啜る音に、必死に抑えていた声。
胸が痛かったけれど、これくらいがちょうど良くて。
「───また明日、って言ってよ…。」
嗚咽混じりに聞こえたその声は、もう小さかった。
コメント
3件
神作がすぎますよ!?最初っから一気見したんですけど、貴方は神様ですか?神様ですよね!?神作をこの世にありがとうございます(*´▽`人)