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28
たまごはんちゃーはん
「でも、やっぱり演技が下手なんだって!すぐ帰らされるらしいよ?」
「え、てか本音も言ってないんでしょ?嘘つきってことじゃんね。」
「意味わかんないし(笑)」
今日も彼───しにがみくんの噂が聞こえる。かと言って、静止することさえしない。勇気も力も、心の強さも生憎のところ持ち合わせていない。
───もし、だなんて叶わぬことを願う自分はひどく愚かだ。
それでも、もし自分があがり症じゃなければ、人見知りじゃなければ、あいつの味方になってあげられたのならば…どれだけ良かったか。
「ぺいんと!」
ふと、肩に重みを感じる。というか、衝撃を感じたと同時に痛みが走る。
「いってぇよ!トラゾーはそろそろ手加減しろって!!」
自分の自慢の友達の1人であるトラゾーは、ダル絡みをするように俺の方に乗っかる。その姿を、もう1人の友達であるクロノアさんは微笑ましくみている。
「クロノアさん!!手伝ってください?!」
「あはは。でも、その必要はないでしょ?」
彼の言葉の意味がわかってしまうことが、大嫌いだ。
「…うまくいかなかった?」
そう心配そうに聞くのは、肩に乗っかったままのトラゾーで。優しい声に、目の前が微かにぼやける。歯を食いしばり、唇を噛む。
「うん…どうしたらいいのかなあ。」
困ったように口に出せば、肩の荷が少し軽くなる。それでも彼の逞しく、細い腕は肩に乗っかったままで。
相手は少し考えた後、 「でも、どっちの気持ちもわかるなあ。」と答えた。その回答に目を見開けば、危うく溢れそうになるそれを急いで拭った。
それに気づかないふりをする相手は、淡々と話し始める。
「つまり、相手は”誰を信頼すべきかわからない”んだよ。」
予想外の結論に、彼の方向に顔を向ける。
「で、でもなるべく優しく接したつもりだし、会ったこともあるんだよ?」
震える声でそう言えば、ふとクロノアさんから言葉が発せられる。
「そういえば、ぺいんとって役者の道に進もうって思ってるんでしょ?」
「え?あ、あぁ…まぁ、はい。」
「そのときのしにがみくんの結果、知ってる?」
ふとされた質問に戸惑いながらも、記憶の引き出しを引く。
「ええと、確か…審査員特別賞の中の1番上だった気がします。」
「…なるほどね。多分、それも原因の一つかも。」
「え、え?原因の一つって、まだ何か原因があって…それ”も”って、何か心当たりがあるの?」
あまりの困惑具合に2人も戸惑う。それでも、優しく接してくれるのは親友である証拠であり、最高の友達である確信でもあった。
「────つまりは、もう信じてくれないんだね…。」
絶望に満ちた結論に、言葉が失われたけれど、はっきりとわかったことだけは口にした。そうしたら、もう諦めることができると思ったから。
静かに頷く2人を前に、嗚咽を漏らした。拭っても拭いきれないそれは、あたたかくてしょっぱかった。
……………
「はあ。」
心の中とは正反対な天気に、僕の頬には汗が伝う。何の汗なのかは、わからなかったけれど。それでも、ひどく冷たい汗だったな。
教室の中はひどく賑やかだけれど、そんな中に混じることもできない自分は何て愚かだろう。
「すいませーん。」
教室の中に響いた声は、聞いたことのない誰かの声。 声のした方向に目を向ければ、どうやら先輩がいるらしい。
どうもスリルで、逞しい体つきもしている。謎の体質だけれど、僕のクラスの女子や男子も目を奪われている。
そんな中、彼が呼び出したのは僕だ。周りもびっくりしたが、自分自身が1番びっくりした。
「…えと、名前は…」
名札さえもつけていない先輩に聞くと、相手はにこやかな笑顔で”トラゾー”と答えてくれた。
彼はいやらしい笑みを含め、廊下を歩きながらも言葉を吐く。
「ぺいんと、もう君にダル絡みしないって。」
「…ぇ、」
微かに声に出せば、相手はキョトンとした顔をした。
そりゃそうだろう。突然の報告に、昔の友はもう自分とは絡まないと言う宣言。つまり、つまるところ…僕の友達は0人に退化してしまったわけだ。
どこで間違えたのかがわからず混乱する僕に、変わらずキョトンとするトラゾーさんに問われる。
「───望んでたんじゃないの?」
目の奥が笑っていないのに、顔全体は笑っている。そんな不気味な笑みをした彼にまっすぐと顔を向けられ、へ、と声が漏れ出た。
そんな僕に、彼は満面の笑みに見える不気味な笑みを近づけて言葉にする。
「あがり症だって言うぺいんとに腹を立てたんじゃないの?負けたことが悔しくて突き放したんじゃないの?」
「───ぺいんとにもいじめられるんじゃないかって、疑っちゃったんじゃないの?」
「っ、あ………」
焦りからか、緊張からか。頬を伝う汗が多くなる。首筋からすーっと服の内側に潜り込む。
こいつは、この人は、何がしたいのだろう。なぜ僕の気持ちがわかるのだろう。
何を…
「…何を言いたいんですか?」
僕の問いかけに、相手はくるりと背を向けて歩く。「特に言いたいことはないよ。」と告げる彼の言葉はどこか怒りと悲しさを含まれた声で。
そうして続きを喋ろうとする彼の振り向いた顔は、ひどく背筋が凍るようなものだった。
それで僕は、確信した。
彼は、確実に───
「ただ、作家としては好都合なんだよね。」
──────演技が、気持ち悪い。
コメント
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とても書き方が大好きです!内容もちゃんとしてるし... これからも頑張ってください!