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思い出を無理に追い出そうとせず さらけだすことで 、ゆっくり 少しずつ浄化されていく.... お互い 大切な人を失った経験を持つ二人だからこそ、相手の悲しみに向き合い 寄り添うことができるのですね✨ 江ノ島~葉山の初めてのドライブデート....👩❤️👨🚗🌊 お互い相手の 新たな一面を知ることで、更に愛を深め合っていけそうですね....💝✨
菜々子さんとの思い出をゆっくりと浄化する術を教えてもらった涼平さん。 お互い大切な人を亡くして気持ちが寄り添えるのはこの2人だからだね🥹 そして同じ海🌊の景色を涼平さんと一緒に見てほしいな🏄✨
詩帆が葉山まで来るのは久しぶりだなと思っていると、
涼平は右手にあるベージュの外観のレストランの駐車場へ車を入れた。
この店の向こう側にはすぐ近くに海が広がっている。
「ここで食べよう」
涼平がそう言ったので詩帆は涼平に続いて車を降りた。
その店の一階はカフェで、レストランは二階から入るようだ。
二人は階段を上がっていく。
店へ入るとスタッフが笑顔で出迎えてくれたので、涼平は名前を告げる。
するとすぐに席へ案内された。
「予約していたの?」
詩帆が驚いて聞くと、
「初デートはちゃんとしなくちゃね」
涼平はそう言って笑った。
店内では、土曜日の夜ということもあり多くの人達が食事を楽しんでいた。
二人は窓際の席に案内された。
窓の向こうには暗い海が広がっている。
店のすぐ裏が海なので遮るものが何もなく、窓からは夜の海がうっすらと見えた。
「すぐ裏が海なのね…」
詩帆がそう呟くと、涼平はこの店の裏の浜は森戸海岸というんだよと教えてくれた。
詩帆は、涼平がこんな素敵な店を知っているのは菜々子と来たからなのだろうかと思っていた。
そして確かめる為に聞いてみる。
「ここは菜々子さんと来た事があるのですか?」
詩帆はそう聞いてから思わず「しまった」という顔をした。
なぜなら亡くなった恋人の事を聞くのはタブーなような気がしたからだ。
しかし涼平は可笑しそうに笑っている。
どうやら涼平は詩帆の心の中を全てお見通しなようだ。
「菜々子とは来た事はないなあ。ここは加納先輩と佐野と事務所の後輩の四人で来たんだよ。仕事で外出した帰りにね」
「すみません、詮索するつもりなんてなかったのですが。あ、でも私、菜々子さんと一緒に行った店に連れて行かれても気にしま
せんから安心してください。むしろ、夏樹さんが行きたいと思った時はお付き合いさせていただきますから」
詩帆の言葉に涼平はかなり驚いている様子だった。
大抵の女は菜々子との思い出の場所へ行くのを嫌がる。
もう過去は振り返らないで、菜々子の事はもう忘れてと言われる事が多い。
だから菜々子の事はなるべく口に出さないようにしてきた。しかし詩帆は逆にそれでも構わないと言ってくれた。
(なぜだ?)
不思議に思った涼平は詩帆に聞いた。
「え? だって普通は嫌なんだろう? 元カノとの思い出の場所って、普通は嫌がるよね?」
「あ、はい。確かに気になる人もいるかもしれませんね。でも、私は大丈夫です。なんていうのかな? 悲しい思い出って無理
に蓋をして封じ込めようとすると逆に飛び出して来ちゃうような気がしませんか?だからあえてさらけ出すのもアリかなと。そ
うすればいつか時が解決してくるのかなーなんて」
その言葉を聞いた涼平は、胸がいっぱいになった。
今までそんな事を言ってくれる女性は一人もいなかった。だから感動のようなものすら覚える。
そして涼平は思った。
詩帆自身もそうやって辛さや悲しみを浄化してきたのかもしれないと。
その時涼平は詩帆の言葉に深い癒しのようなものを感じていた。
すると詩帆はさらに続けた。
「私、大学の選択授業で『心理学』を受講したんです。それ以降心理学やカウンセリングに少し興味が湧いたので、独学です
が本を読んだりネットで調べたりして少し勉強していた時期があって……。その時にそんな方法がある事を知りました」
それを聞いた涼平は、彼女は兄の死の悲しいみをなんとか乗り越えようと自分なりに努力していた事を知る。
そしてその方法を涼平に分け与えようとしてくれているのだ。
「ありがとう。じゃあこれからは菜々子との思い出の場所に行きたくなったら、詩帆ちゃんを誘うよ」
そして涼平は続けた。
「詩帆ちゃんが今まで勉強して来た事は、きっとフリースクールでも役に立つような気がするな。僕に癒しを与えてくれたよう
に、きっと君なら子供達の力になれる気がするよ」
その言葉に詩帆は笑顔で小さく頷いた。
それから二人はメニューを見て料理を注文した。
昼食が遅かったのでまだそれほどお腹が空いていなかった二人は、美味しそうな料理をいくつか頼んでシェアする事にした。
詩帆はこの店おすすめの「渡り蟹のトマトクリームパスタ」は絶対に外せないと言った。
そして美味しそうなスイーツにも目移りしている。
美味しい料理を楽しみながら、二人は楽しく会話を続けた。
詩帆がこれから行くフリースクールの事や涼平の仕事の話など、二人の間には前向きな話題が盛りだくさんだ。
レストランの窓から見える夜空には、いつの間にか無数の星がキラキラと瞬いていた。
食事を終えて店を出る際、駐車場の端に浜へ降りられる階段があるとスタッフが教えてくれた。
詩帆が行ってみたいと言ったので、二人は階段を下りて砂浜へ行ってみる。
真っ暗で何も見えないかと思っていたが、店の窓から漏れる明かりで海がうっすらと見える。
その明かりを頼りに二人は波打ち際まで歩いて行った。
「この海岸でサーフィンは出来るのですか?」
「こっち方面は、地形的に波が小さいんだよね。あと風が強いから波も崩れやすいんだ。サーフィンよりは、ウィンドサーフィ
ンとかヨットの方が適しているかもしれないね」
「海でも場所によって色々特色があるのですね」
「そうだね。ところで今度詩帆ちゃんもサーフィンやってみる?」
突然そんな事を言われたので詩帆が驚く。
「えっ? 私? 無理だと思います」
「大丈夫だよ、ロングボードなら初心者でも楽しめるから。海に入ってお兄さんが見た景色を見てみたいと思わないかい?」
その言葉にぐっと引き込まれる自分がいた。
兄が見た景色
兄が見た青色
兄と同じ海に入ったら、兄と同じ青色が見られるのだろうか?
詩帆は見てみたいと思った。
兄が見た海を…兄が見た青を…
「これからはもう寒いから、来年春以降にチャレンジしてみたら? 俺がつきっきりで教えるから」
その誘いに心が揺さぶられる。
「もしやりたいなって思ったら、その時はお願いします」
「OK !」
涼平はきっと詩帆はチャレンジするだろうと思っていた。
そしてその日が来るのが楽しみだった。
その後二人は車へ戻ると、辻堂までの短いドライブを楽しんだ。