気持ちを抑えるなんて、出来るはずがない。
みっともないほどの興奮と焦り。
俗に言うお姫様抱っこというやつでも出来たら違ったのだろうけれど、俺は急くあまり肩に担ぐようにして椿を寝室に連れ込み、荷物を下ろすようにベッドに放った。
押し倒す前に、彼女のジャケットから腕を抜き、髪を解く。
そうしている間も離れがたくて、唇を寄せては舌を絡める。
走ったせいで、ただでさえ肌にシャツが張り付いているのに、椿に触れていると興奮で更に身体が熱くなり、気持ち悪いとまで思った。
キスをしながら、彼女のブラウスのボタンを外し、キスをしながら、自分のワイシャツのボタンを外す。
情けないほど一人でバタバタしている。
「んっ――」
キスと、鼻から抜けるような椿の声だけで、足の間で猛る熱が痛いほど。
ブラウスの合わせ目から手を差し入れ、素肌の肩をなぞる。
そのまま、腕をくすぐるように撫でながら、脱がしていく。
ブルーのブラウスに隠されていたのは、薄いサラリとした手触りの透け感のある下着と、その下には俺が選んだネイビーのブラジャー。
俺はゴクリと生唾を飲み込んだ。
直接見るよりも、何と言うか、ベール越しとでも言うのだろうか、ぼかしが入っているようで色っぽくて興奮する。
「あの……っ」
思わずじっと、ガン見していた俺は、声をかけられてハッと椿の胸から視線を上げた。
椿がキッと鋭い目つきで、俺を見ている。
「彪さんは、おっぱい好きですか?」
なんだろう。
とても、『好き』と言いにくい。
ベッドの上で半裸でする質問としては、あながちおかしくもないのだが、こうも真剣に気合が入った様子で聞かれると、甘い空気に持って行きにくい。
「なんか……見すぎ……たかな?」
「そうではなく! その――」と、椿が視線を逸らす。
ここまで食い気味に聞いてきて、理由を言いにくそうな表情は気になる。
俺は彼女の顎を指で掴むと、正面を向かせた。
「――気になることがあるなら言って」
椿は思い込みで暴走しがちだ。
誤解は花の種ほどの大きさのうちに解いておかないと、一晩経ったら大輪の花が咲いてしまいそうだ。
視線を逸らさずに、唇が触れそうな距離で言葉を待つと、椿は結んだ唇を開いた。
「きょ、京谷さんも……おっぱい大きかった……ので……」
「麗? あ――、いや、なんで京谷さん?」
「京谷さんは彪さんの元カノなんですよね? あんな素敵な女性と付き合っていた彪さんが私なんかをお気に召すだなんて、その……理由が……よくわからず……」
で、自分と麗の共通点を探したと。
「おっぱいは好きだけど、それを理由に女を好きになるわけじゃないよ」
サラッと言ってみたが、どうも格好がつかない。
俺は彼女の顎から手を離し、コホンッと仕切り直しの意味を込めて咳払いをした。
「確かに、京谷さんと付き合っていた。けど、俺が札幌に異動になるまでの、期間限定の関係だった。京谷さんは金持ちと結婚したいと公言していて婚活中だったし、言葉は悪いけど、割り切った付き合いだったんだ。彼女のサバサバした性格は好きだったけど、椿を好きなように好きだったわけじゃない。もちろん、胸が大きいから関係を持ったわけでもない」
こうして言葉にしてみると、不誠実な男だと軽蔑されるのではと不安になる。
セックスはするが恋人ではない、なんて。
いや、だが、俺と椿も恋人になるより先に、イタしてしまったし……。
「そうですか……」
「軽蔑する?」
「まさか! その、私も、軽蔑されても仕方がないようなことを……シましたし……」
それは、俺とのことを言っているのか、倫太朗とのことを言っているのか。
気にはなるが、目下の問題はそこではない。
俺は椿の肩をしっかと掴むと、碧い瞳をじっと見つめて言った。
「俺は、この先、椿以外の女性とはセックスしない」
「え……?」
「褒められない過去は変えられないけど、未来は約束できる。椿は、俺の最後の女だよ」
「でも……」
「ん?」
「どうして……私なのでしょう」
「俺が椿を好きな理由? 長くなるけど、聞く? 碧い瞳、長い黒髪、柔らかい唇、手に余る胸にお尻、真面目で勤勉で的確で正確で器用、料理や家事全般が完璧で、優しくて自己評価が低くて、なのに自己主張はちゃんとハッキリできる。暴走しがちだけど、頭の回転が速いし、気が利く。セックスの時の感度の良さに、感じてる時の蕩けた表情がめちゃくちゃ可愛い。それから――」
「――もっ、もう十分です!」
椿が手で俺の口を覆う。
余程恥ずかしかったのか、顔は耳も首も、何なら見えている素肌全部が真っ赤で、瞳を潤ませながら目を伏せている。
これは――。
自分でも驚くほどツボにハマった。
いつも凛々しい椿が恥じらう姿は、最高に興奮する。
なるほど。
自己評価が低くて褒められ慣れていないからか。
俺は片手を椿の肩に置いたまま、片手で彼女の手を握り、わずかに唇から離すと、その掌をぺろりと舐めた。
「――――っ!」
顔を上げた椿は、唇を震わせて何をされるのかと凝視している。
俺はその彼女の瞳を見つめたまま、手首や指先を舐めていく。
目尻に涙を溜めて息を弾ませる椿。
思えば、素面の彼女にこうして触れるのは初めてだ。
ん?
「椿?」
「は……い」
「酔ってる?」
「え?」
「京谷と一緒だったんだろ?」
「あ、ビールを一杯だけ……」
「酔ってない?」
「はい……。――あっ!!」
怯えるウサギやリスのように肩を震わせていた椿が、何かを思い立ったか思い出したように背筋を伸ばした。
「お金を払って来るの、忘れました!」
「お金?」
「はいっ! 今日、お会いしたばかりの、東京から遠路遥々視察に来てくださった方にお支払いさせてしまうなんて――っ! 私、今からでもお金を――」
肩を掴んでいた手を後頭部に回し、グイッと引き寄せて唇を重ねた。
それから、掴んでいた彼女の手を引いて、俺の股間に導いた。
「――コレ、放置で行っちゃうつもり?」
「~~~っ!!」
椿の表情が固まる。
手業とか口技とか言っていたが、倫太朗との一度しか経験のない彼女に、そっちの経験があるとは思えない。
知識はあれど、こうして実際に男の猛りに触れるのは初めてだろう。
「倫太朗に、電話しておいた」
「え?」
「今の京谷は、男と見たら脱いで馬乗りになりそうだったから、乗られても差し支えなさそうな倫太朗に行ってもらったんだ。だから、食事代は後で倫太朗に払っておく」
「そうですか」
「椿の友達を生贄にして、怒ってる?」
そう聞くと、椿はフッと頬を緩ませた。
「ふふっ……。生贄ですか」
「ある意味、喰われるからね」
「倫太朗は、喜んで行ったんじゃないですか?」
「そう思う?」
「はい。倫太朗、胸が大きい年上の女性が大好物だって言ってましたから」
確かに、倫太朗に電話した時、『同僚の女を世話して欲しい』と言ったら『彪さんの同僚ってことは俺より年上だよね? おっぱい大きい?』と聞かれた。
と言うか、倫太朗は酔っていたと思う。
いつもと口調と言うか声色が違った。
居酒屋でおっぱじめないだろうな……。
「彪さんはいいんですか? 京谷さんと倫太朗が、その、関係を持っても」
「うん、全然? 俺は椿を喰うからね」
彼女の首筋に唇を這わせ、両手で両胸を揉み上げる。
この手の下着を追加購入しなければ、と思った。
カップを下にずらすと、薄い生地の下に真っ赤に尖った先端が姿を見せた。堪らず食いつく。
と同時に、猛りがキュッと掴まれ、思わず尻の穴に力が入る。
「私も喰いたいです」
「へっ!?」
顔を上げると、椿が真顔で俺に言った。
手が、ゆっくりと俺自身を撫でる。
「ちょ――」
「――彪さんにも気持ち良くなって欲しいです」
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