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夜の階段。屋上へと続くドアは閉まっている。三人は途中の踊り場に腰を下ろしている。
窓の外に街の灯が瞬いている。
蓮司「もしさ、誰か一人だけ救えるとしたら――おまえら、誰を選ぶ?」
遥「は? 何、急に」
蓮司「急にじゃないよ。ずっと考えてた。
“全員救う”とか、“誰も救えない”とか、そんなんじゃなくてさ。
一人。たった一人だけ。……それでも、動く?」
日下部「……そんなの、選べない」
蓮司「でも、選ばなかったら全員落ちる。そういう場面だったら?」
遥(少し間をおいて)「……わかんねえよ。
オレ、誰かを“選べる”ほど強くない。
ていうか……そんな場面、避けるしかないだろ」
蓮司「避けられないことも、あるよ。……オレは、見た。
“誰かの選ばなかったほう”が壊れてくのを、黙って見てたことがある」
日下部「……それでも、“選んだほう”は救われたのか?」
蓮司「さあ? ……救ったつもりの人間が、
“あのとき助けなきゃよかった”って目でオレを見てたこともあったしな」
遥「……ひでえな。
助けられても、恨むんだな、人って」
蓮司「助けられたって、“選ばれた”ことが重いんだよ。
“なんで自分なんかを”って。逆に、壊れるやつもいる」
日下部「……それでも、誰かを見捨てないって……思いたいけどな」
遥「オレは……見てるだけなら、きっと後悔する。
動いて後悔したほうがマシだ。
でも、“オレなんかが誰か救える”って思うのは、傲慢なんじゃねえかって……たまに、すげぇ怖くなる」
蓮司「いいね、それ。
“救う”って言葉が、いちばん残酷で、いちばん綺麗だって知ってるやつの言い方だ」
日下部「……蓮司は、誰を救いたい?」
蓮司(少し笑って)「さあ。
でも、できるなら、“過去の自分”じゃない誰かを、って思うよ。
それができたら、たぶん、今よりマシな大人になれたはずだろ?」