テラーノベル
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バクバクと大きな音を立てる心臓を落ち着かせるように、深呼吸を何度も何度も繰り返した。
けれど、何か違う。
自分───天乃絵斗の耳に届くこの心臓の音は、けして疲れなんかじゃないように思えた。
でも、でなければ何で?
息切れもしているし、身体的な疲れもある。けれど、どこかこの体は他人事のように思える。
「……きもっ」
そんな感覚に陥る自分の体がどうも気持ち悪いが、今はそんなことを気にしている場合ではないと、校内を巡回する。
全体的に暗い校舎は見晴らしがいいとは言えないが、だんだんと慣れてきたおかげか遠くも見えるようになってきた。
「……くそ〜、はやく仕事したいし家にも帰りたーい!!」
長年の夢であった刑事を、苦労しながらもやっと叶えることができたのだ。テレビに載ってしまうくらいには優秀な刑事として働きたい。
今はそれが夢であり目標だ。
「あ、兄さん!」
「おお、呂成太! それに豚平くんも! 怪我がないようでよかったよ〜!!」
「絵斗兄やんも元気そうでよかったです」
ふと聞こえた声は、自身の弟である呂成太とその友達である豚平くん。2人とも見たところケガはなく、共に行動をしているようだった。
明るい呂成太や豚平くんを見て、少し安堵した。
「そういえば、絵斗兄やんってあの先生と知り合いなんすか?」
「え」
ふと、そんな質問をしたのは豚平くんの方だ。何をどう見てそう思ったのかわからないが、実際には同級生で幼馴染だ。
小さい時からよく一緒にいて、あいつと過ごした日々のことを日記にも残していたくらいに。今はもう、刑事としての日記しか書いていないけれど。
「……まあ、小さい時にね」
貼り付けた笑顔を彼らは見破れない。それが唯一の安心材料だと見誤っていた自分が、どれほどバカなのか、今に見てわかることだった。
「じゃあ兄さん、何で思い出させてあげないの?」
「───っ、」
困惑の言葉さえも出ず、ただ喉に突っかかった。吐きたくても吐けないような苦しさが喉に残り、うまく息が吸えなかった。
何、何を……何、言ってるんだろう。思い出させる?
「先生は兄さんのこと覚えてないのに、兄さんだけが覚えてても苦しいだけじゃない?」
ああ、そうか。子供は、よく親のことを見て育つと聞いたけれどあの噂は本当だったのか。
自分が育てたわけでもない豚平くんも、どこか不安げな顔で自分を見つめている。
───いくら刑事だとしても、いくら子供相手だとしても、これは失敬だ。
「ぜーんぜん苦しくない! ていうか、そもそも俺は刑事だから、人のことをよく覚えてるってだけ!! そういう仕事、最初は多かったからさー!」
わっはっは、と口を大きく開けて笑えば、相手はきょとんとした顔をしたが、次には安心して笑ってくれた。
「よしっ、じゃあこの3人で探索いくか!」
おー!と声を3人で控えめにあげながらも、完全に探索気分になった2人に安堵すると同時に、他の3人の子供達もどうなのか不安に駆られる。
もちろん飼育小屋にぶち込まれるだけなのだからいいが、あの鎌で怪我でもさせられたらたまったもんじゃない。
───ああ、でもやはり盲点だった。昔のことを聞かれるとは思ってもいなかったのだから。
(昔なんて、無いのと一緒だし)
あいつと過ごした時間は、あの日から全て変わったのだから。
だからこそ、知り合いと呼ぶくらいがふさわしいのだろうか。けれど、できることなら。もしあいつが許してくれるのなら。
(親友だって、お互いに言って聞いてみたかったな)
逆らう願いも、遅い願いも、もう叶うことはない。分かっているくせ少しでも幸せを望むのが、あまりにも愚かでアホらしい。本当に、一般人のような思考が憎たらしい。
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コメント
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このエピソード、めっちゃ刺さったわ……。絵斗が明るく振る舞ってる裏で「昔なんて無いのと一緒」って自分に言い聞かせてる感じ、胸がギュッてなった。弟の呂成太に核心突かれたときの反応とか、貼り付けた笑顔で誤魔化すところ、リアルだった。幼馴染との思い出、あの日から全部変わっちゃったんだな……「親友だって言ってみたかった」の一文でやられたわ。続きが気になる🔥