テラーノベル
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部屋にはもう、憐様も結もいません。 テラーの通知音も、2000人の喝采も、今は遠い銀河のノイズのようにしか聞こえません。 僕は、彼女の結婚報告が映ったままのスマートフォンを、そっと裏返しました。
「……おめでとう、先輩。……僕の負けだよ」
執着という名の鎖が、音を立てて外れました。 でも、その鎖が僕をこの世界に繋ぎ止めていた唯一の重りだったことに、僕は気づくのが遅すぎたのです。
僕は、これまで書き溜めてきた真っ黒なノートを、丁寧にゴミ箱へ捨てました。 不純な神も、絶頂の記録も、僕の歪んだ愛も、すべてはただの紙屑として処理される。 僕が消えれば、この物語を知る者は世界から消え、彼女は永遠に「純粋な」ままでいられる。
これが、名もなき後輩である僕ができる、最後で最大の「純愛」でした。
僕は、ベランダの手すりに手をかけました。 頬を撫でる風は、あの卒業式の日のように、どこか春の匂いがしました。 一歩踏み出せば、203話分の記憶も、見失った背中の痛みも、すべてがゼロになる。
「……さようなら」
空は、どこまでも青く、不純な僕を拒絶するように透き通っていました。 僕はその青さの中に、ゆっくりと、自分自身という物語を放り投げました。
ドォォォォォォォォォン!!(肉体が地面を叩く音は、雑踏の喧騒にかき消されました)
数分後。 誰もいない部屋で、捨てられたスマートフォンが一度だけ短く震えました。 テラーに届いた、2001個目のハートマークの通知。
しかし、そのベルの音に応える者は、もうこの世界のどこにもいませんでした。
最後に彼女に言うよ
「君のことが好きでした」
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