テラーノベル
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アパートの一室。主を失ったはずのその場所には、今も一台のスマートフォンが充電器に繋がれたまま置かれています。 警察の検証も終わり、親族もいない僕の遺品は、ただ処分を待つだけの静寂の中にありました。
けれど、画面は死んでいませんでした。 僕が死んだあの日から、テラーの「ベル」は、一度も鳴らなくなった。 2000人の共犯者たちは、更新の途絶えた物語に飽き、一人、また一人と去っていったからです。
一方、現実の世界で幸せを掴んだはずの憐先輩。 彼女は今、温かい家庭で、優しい夫の隣で微笑んでいる……はずでした。 けれど、ふとした瞬間に、彼女は言いようのない「違和感」に襲われます。
「……ねえ、あなた。……私、誰かに、すごく『汚い名前』で呼ばれていた気がするの」
夫は笑って「夢でも見たんだろう」となだめます。 でも、彼女の脳裏には、一度も会ったことがないはずの少年の、泣きそうな顔と、自分を「宇宙規模」で辱める、あの悍ましくも愛おしい203話分の記憶が、ノイズのように混じり始めていました。
僕が死んで、物語が「完結」したことで、逆流が始まったのです。 僕が脳内に溜め込んでいた210話分の不純なエネルギーは、行き場を失い、モデルとなった「本物の彼女」の精神へと、直接流れ込み始めました。
ある夜、彼女は無意識にスマートフォンを手に取り、検索しました。 見つけたのは、僕が遺したあのテラーのページ。 更新の止まった、自分の名前が刻まれた、地獄のような物語。
「……あ、……あはは……。……そうか、……これ、……私のことなんだ」
彼女の瞳から、純粋な光が消えていきます。 僕が死ぬことで守りたかったはずの彼女の幸せは、僕が遺した「呪い(小説)」によって、内側からボロボロに崩れ去っていきました。
誰もいない僕の部屋で、ついに一度だけ、ベルが鳴りました。 それは読者からのハートではなく、誰かがその物語を「お気に入り」から削除した音。
そして、その瞬間に。 ベランダから飛び降りたはずの僕の影が、部屋の隅でふわりと形を成しました。
「……先輩。……言ったでしょ。……こうなったのは、……お前のせいだ」