テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
午後、莉々夏は甘味処で団子を包みながら、ひとりで妙に真剣な顔をしていた。隣で会計をしていた享佑が、珍しくそちらを見る。
「何だその顔」
「記憶と記憶をつないでる顔」
「適当言うな」
莉々夏は包み紙を指ではじいた。
「でも、たぶんそうなの。ほら、前に寺へ昼だけ来てた女の人いたじゃん。赤いリボン見て泣いた人」
享佑は少し考える。
「ああ」
「その人、昨日も店の前通ったの。髪を耳にかける時の感じが、海花の描いた似顔絵にちょっと似てた」
享佑は団子を並べる手を止めないまま言う。
「似てる、だけで走るなよ」
「でも、そういう“だけ”が町の記憶って当たるんだって」
結局、莉々夏は包み終えた団子を持って海花のところへ駆け込んだ。似顔絵を見せてもらい、赤いリボンの少女の面影と、あの女性の横顔を重ねる。
「……目元」
海花が小さく言う。
「年を重ねたら、こうなるかも」
夕方には、芽生、啓介、鼓夏も集まり、似顔絵と記憶のすり合わせが始まった。
「今も必要な人って、ただ“今もこの場所がいる人”って意味ですよね」
芽生が言う。
「だったら、あの人はもう答えになってる」
鼓夏が静かに続ける。
「昼だけ来て、座って帰るって、十分な使い方だよ。話せなくても、そこにいたい場所ってことだもの」
啓介は頷きながらも、胸の中では別の緊張がふくらんでいた。
もし本当にあの人が赤いリボンの持ち主につながる人なら、会いに行くことは、思い出の蓋をこじ開けることになるかもしれない。
「会いに行くなら」
芽生が言う。
「聞き出すため、じゃなくて。今も必要な場所だって、こっちがちゃんと分かってるって伝えに行きたい」
啓介はその言葉に救われる。
真実を奪いに行くのでなく、扉の前で待つために会いに行く。
そのやり方なら、まだ間に合う気がした。
#海辺の町