テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「なるほど。それが貴様とやつの結んだ契約か」
淡々とした男の声。ハッと息を飲み、振り返るダイン。
「悪いが、その契約は破棄だ」
敷居に立ち、黒い外套を纏わせた仮面の男――ヴァロフェスが肩を竦め、言った。
「その姉弟には借りがある。……夜風を凌がせてもらった借りがな」
「また、お前か」
手を止め、苦々しく呻く戦士。
「何故、俺の邪魔をする? 一体、何者だ?」
「私、か?」
仮面の男の口元には歪んだ笑み。
「私の名はヴァロフェス。聞いたことはないか?」
歌うように問いかけながら、ヴァロフェスは外套の下から黄金色に輝く物を取り出す。
あっ、とダインは声をあげていた。それは先程、彼が巨木の洞に隠した《死面の兜》だった。
「貴様ら《叫ぶ者》を狩る、《叫ぶ者》だ」
「な、何故だっ!?」
問いかける戦士の声は震えていた。
「なぜ、貴様がそれを持っている!? それは俺の……!!」
「なぜ、だと? 愚問だな」
ククッ、と低い声で笑うヴァロフェス。
「これだけの妖気を放つ呪物。たとえ、目を閉じていたとしても探り当てるのは容易だ」
兜を片手にしたまま、ヴァロフェスはダインに振り向く。
「さて、こいつをどうする? まだ、惜しいか?」
「冗談じゃない!!」
ダインは即答していた。
「そんな物、もういらない! あんたの好きにしてくれ!!」
「決まりだ」
小さく頷き――、ヴァロフェスは天井に向かって兜を放り投げる。
「や、やめろぉッ!!」
怒声を張り上げながら、戦士が立ちあがる。その声には、これまでに感じることができなかったもの――、恐怖が宿っていた。風車のように大剣を振り回しながら、静かに佇むヴァロフェスに斬りかかる。
「それを、俺の生命を傷つけるなぁッ!!」
「断る」
短く切り捨てるヴァロフェス。そして、目にも止まらぬ速さで振るい払われる、銀のステッキ。その一撃を受け、髑髏を模した黄金色の兜は、床にたたき落とされた卵のように粉々に砕け散った。
それと同時――、
「ギャアッ……!!」
凄まじい絶叫とともに、戦士の全身から炎が噴き出す。
人の形に燃え盛った炎は、やがて、弱々しい火の粉に変わり、拷問部屋の宙に霧散してゆく。
ダインは茫然とその様を見守るしかなかった。
と――、床の上で横たわっていたメルディが小さく咳き込む。
「ね、姉ちゃん……!!」
慌ててダインは、彼女のもとに駆け寄る。そして、震える手で意識を失った姉の首筋に傷を確かめてみる。
「よ、良かった。見た目ほど、傷は深くない……」
そこから先は言葉にならなかった。
思わず涙がこぼれそうになったダインの背後に仮面の男が立つ。
「感謝するのだな」
振り返ったダインを見下ろし、長い外套の裾を後ろにはらうヴァロフェス。
「私にではなく――、命を取り留めてくれた姉上に、な」
「あっ。ま、待ってくれ」
外套を翻し、背を向けた仮面の男にダインは涙を拭きながら呼びかける。
「俺、あんたのこと、悪人扱いした。本当は助けてくれようとしてたのに……」
「よかったな」
言葉を詰まらせるダインに、背を向けたまま、ヴァロフェスが静かに告げる。
「お前は私とは違う。己を呪うことなく、生き続けるがいいさ」
その声は切ないほどに優しく、寂しげだった。
ダインが何か言おうと口を開きかけた時、一陣の強風が拷問部屋に吹き込む。
思わず顔を伏せ――、再び、ダインが目を開いた時、ヴァロフェスの姿は、どこにもなかった。
その存在自体が夢か魔法であったかのように、仮面の男は煙のように消え失せていた。
#ダークファンタジー