テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
#和風ファンタジー
#異能
#和風ファンタジー
――せ、先生?
す、すみません。 わ、私、今、すごく怖い夢を見てて……。
あ、違う……。
今、ショートムービーみたいに見てきたことって――、私が過去に経験してきたことを、記憶を断片的に思い出した、ってことですよね……。
それで、あの……。
やっぱりいました。普通に立っていたんです。
今、そこで先生が椅子に座られているように。影とか幻とか、そんなあやふやな感じじゃなかったです。
お姫様のように髪の毛を長く延ばし、右目を眼帯で覆った小さな男の子がいたんです。お祭りの時によく見かける稚児装束の。
……だから、神様ですよ。
うちの、私の実家の塚森家の氏神様――、お稚児様です。
先生、私の話、ちゃんと聞いてました?
あ――、ご、ごめんなさい。
私ったら、つい、きつい口調になってしまって……。
でも……、これではっきりとしましたよね?
どうして、私が実家を――、いいえ、童ノ宮とその神様を怖く思っているのか……。つまり、お稚児様は私に対してお怒りだったんですよね。
私が小さい頃からずっと、お稚児様を蔑ろにし続けてきたから。
お父さんとお母さんが不自然な事故で死んだ時、本当はそうじゃないって分かっていたのに、全部お稚児様のせいにして責め続けたから。
それに――あの日、童ノ宮であった大切な思い出も良かった出来事も全部置きっぱなしにして出て行ったから。
どうしよう、私。
たとえ、お稚児様でなくても、誰から見てもひどいことを、責められて当然なことをやっちゃった……!
――え?
あ、ああ……そ、そうですよね、先生。
私、責められるどころじゃなかった。
そんな生易しい話じゃないですよね。
私、お稚児様に神様に――祟られているんですよね。
だから、生まれたばかりの娘にあの石を握らせて、ミトの周りに現れるようになって……!
どうしよう、ミーちゃん!
このままじゃミーちゃんが神様に、お稚児様に連れ去られちゃう!
あ、ああ、泣かないでミーちゃん!
全部、ママのせいだよね……!
このままじゃミーちゃんが!
ミーちゃん、何も悪くないのに!
――え? ま、まだ何とかなる、ですか?
わ、わかりました先生。
私、何でもします。ミトを助けるためなら、私なんでも。
……ほら、ミーちゃん。今からね、ママと一緒に逃げるよ?
あの先生がね、一緒に外に出てくれるからね。
……怖い? ママも怖いよ。
だけど、そんなこと言ってられないんだから。
はい、わかりました先生。とりあえず、そっちの非常口から外に逃げればいいんですよね……。
さ、ミーちゃん。ママの手を握って。
ダメ――!そのお石はここに置いていくの!
ミーちゃんのところに来たおにいちゃんはね、悪い天狗さんなの!
ミーちゃんみたいな、聞き分けのない子につきまとって攫っちゃうんだから!
あ……、ごめん。
ごめんね。ママ、また大きな声出しちゃって。
うん、泣かない。
泣いちゃダメだよ、ミーちゃん。
ホント、何やってんだろ私……。
え、ええ。大丈夫です。
ミトは、娘は抱っこしますから。
――はい! 行けます!
……あ、そんなところに非常口のドアがあるんですか?
……このビルって、螺旋階段が外付け仕様だったんですね。
……え? 上に登って行くんですか?
だ、だけど先生。こうゆう時は、階下に降りていかないと、追い詰められてしまうんじゃ……?
……そうですか?
じゃあ、先生を信じて――、全てお任せします。
……や、やっと屋上に辿り着きましたね。
み、見てミーちゃん。ゆ、夕陽が街の西側に溶け込んでいってすごい景色だよ。水平線が延々と伸びていて、何だか悪い夢でも見ているみたい……。
あ、そうですね。
お喋りしている場合じゃなかった……。
そっち――ですか? フェンスが破けて、ちっょうど人が一人通れるようになってますね。
……はい?
ここから飛び降りてくださいって――、私が、ですか?
せ、先生、それは一体どうゆう……?
え、ええ……。そうですね……。
ミトのためにも、私みたいに――、祟られた母親が側にいちゃダメなんですよね。お稚児様の祟りに、ミトを巻き込まないようにしないと……。
はい……はい……。
今すぐそこから飛び降りますね。
じゃあね、ミーちゃん。ママ、あまりいいお母さんじゃなかったけれど、これで大丈夫だからね。天狗さんはママに怒っているけれど、ミーちゃんはだ丈夫だから。
ほら、そんなに泣かないの。しっかりして。
先生。この子をどうぞよろしくお願いしますね。
……先生?
……あの、その手に持っているのはなんですか?
斧、ですか。
……ああ、消火栓の?
ちょっと待ってください。――それ、どうするんですか?
……はぁ。
ミトの背中を切り裂いて、皮を剥ぐんですね?
中身は先生が食べて……?
その皮はどうするんですか?
あ、先生が被るんですね?
じゃあ、その男性の皮はどうするんですか?
はぁ、捨てる……んですか。
古くなったから?
そう言えば皮膚が大きくたるんでお顔の右と左が歪んでいるし、右の肩も大きく膨れ上がってしまっていますね。あちこち破れて赤黒い、肉腫のようなものが突き出してますし。それに饐えたような嫌な臭いも微かに……。
あ、ごめんなさい!
わ、私ったら何て失礼なことを……。
――あいたっ!
……な、何?
目から火花が出るかと思ったんですけど?
って、これ、天狗石じゃない!
診療所に置いてきなさいって言ったのに……!
ダメだよ、ミーちゃん! こんな物、人に向かって投げたら!
頭の後ろに多いなお団子みたいなたん瘤出来ちゃったじゃん!
はぁ? 投げてない? 勝手に飛んできた?
そんなバカなこと、あるわけ――!
ちょっ、ちょっと!? な、何ですか、あなた!?
そ、そんな……お化けみたいな、コ、コスプレして斧なんか持って……!
子供が怖がってるじゃないですか!や、辞めてください!
……え、本気? う、ウソですよね?
まさか、いくら何でも、こんな小さい子どもにそんな酷いことしませんよね――!
あ、あああああっ!
ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!
お願いですからミトだけは見逃してやってください! 代わりに私があなたの新しい皮にでも何でもなります……!
だからお願いッ……!娘だけは傷つけないでやって……!
――えっ? て、天狗石が割れて……?
な、何、あの子供? それにあの恰好……。
あれじゃあ、まるで童ノ宮の――!
だ、ダメだよボク! そのお化けは本物なの!
すごく怖くて、とんでもなく危険なの! 早く離れなさい!
……え、えええっ?
あ、あの子、口があんなに大きく……。首も長く伸びて――、まるで獲物に襲いかかる亀みたい……。
ガブリって、そんな、一口で。あんな気持ち悪いお化けを頭から。
あ、あぁ、あの子……笑ってる。
目を大きく見開いて、口角を思いっきり吊り上げて。
あ、そっか。思い出した。あれは魔除けだよ、ミーちゃん。
あれは悪い霊や物の怪、魔物の類を寄せ付けないための表情で……。
――神楽笑いって言うの。