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きょうふ
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comi
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#可愛い
トド村
37
「わぁ……!!」
楓子さんのプライベートオフィス、その奥にある『コレクションルーム』に一歩足を踏み入れた瞬間、私は思わず感嘆の声を漏らしていた。
そこは文字通り、オタクにとっての「宝の山」だった。
巨大な部屋。その壁際を埋め尽くすように、天井まで届く特注の本棚が整然と並んでいる。
そしてそこには、古今東西のありとあらゆる漫画や雑誌が、背表紙のグラデーションも美しくびっしりと収納されていた。
楓子さんが大の漫画好きだとは事前に聞いていたけれど、まさかここまで凄まじい規模だとは思いもしなかった。
「驚くのはこっからだぜぇ?」
繋いだ左手を小守にぐいと引かれ、私はさらに奥にある、ガラス扉で仕切られた別の部屋へと案内された。
そこは、色とりどりのLED照明でライトアップされた、圧巻のフィギュアコレクションルームだった。
部屋の中央に鎮座する巨大なショーケースには、歴代ジャンプの主人公たちのフィギュアが、今にも動き出しそうな躍動感あふれるポージングでずらりと並べられている。
造形の細かさといい、空間の使い方の贅沢さといい、完全に個人の趣味の域を超えた展示だった。
さらに別の壁側に目を向けると、そこには歴代の様々な魔法少女たちのフィギュアが美しくディスプレイされていた。
きらびやかな魔法のステッキやフリル、可憐な少女たちの造形をぼんやりと眺めていた、その時。
私は、ある一つのフィギュアの前で完全に息を呑んだ。どこか慈愛に満ちた、けれどすべてを見透かすような気高い微笑み。
それは――以前、私が自分の魔力を抑えきれずに放った『呪い移し』の衝撃によって、文字通り粉々に粉砕してしまったフィギュア『マカロン様』だった。
ガラスケースの向こうに立つマカロン様と、眼帯越しの私の視線が交錯する。
(……また会いましたね、地獄子)
「マカロン様……っ! マカロン様ぁぁーーーーーっっ!!!」
「うおっ、びっくりした!? 急に泣き崩れんなよこえーだろーがっ!?」
左手を繋いだままだった小守が声を上げて思い切り飛び退いた。
◇
「ママのコレクションルームには、『開かずの間』があるんだよ」
私がひとしきりマカロン様の前で号泣し終えたのを見届けると、小守は繋いだ手を少しだけ引き、部屋の最奥にある重厚な木製の扉を指差した。
「開かずの間……?」
私が首を傾げると、小守はししし、と八重歯を覗かせて私の顔を覗き込んできた。
「入ってみよーぜ」
「なっ……!? 絶対だめでしょ!?」
「いーじゃんせっかくなんだしよー。それにさ、ママがわざわざ『ここだけは絶対に入るな』って言うってことは、逆に『開けろ』って意味なんじゃねーの?」
「そんなわけないでしょ!?」
どういう理屈よ。
「ね、ね、 一生のお願い!! オレだけで勝手に入って後でママに怒られんのすげー嫌だから、地獄子も一緒に入って怒られよ!? オレ達親友だろ!?」
「なんなら今、あんたと縁を切るべきか真剣に検討中よ……。はぁ、しょーがないわね」
私は、まんまと小守の口車にのせられてしまった。
それに私自身、興味があった。楓子さんのコレクションルームにある開かずの間、そこにはどんなコレクションがあるのだろうか。本当はやっちゃいけないことだってわかってるけど、好奇心を抑えられなかった。
「さっすが地獄子!! おめーならそう言って乗ってくれると思ってたぜ!」
小守は嬉しそうに声を弾ませると、繋いだ私の手を引いて開かずの間へと案内する。
「じゃあ、せーので開けるぞ……」
「……うん」
「「……せーのっ!!」」
私たちは、ついにその禁断の扉を押し開けた。
意外というか、肩透かしというか、開かずの扉の中は古い本がびっしりと敷き詰められた魔道書の保管庫だった。
「なーんだ、えっちなフィギュアが隠してあるわけじゃねーのか。つまんねぇ」
「あんたは楓子さんのことなんだと思ってんのよ……。……あれ?」
ふと、本棚の隙間から一枚の写真を見つける。
「これ……楓子さん? メイド服を着てるなんて珍しい……」
「まじ!? ママのメイド服姿ァ!? 脳内保存しねーと!!」
がばっと小守が写真に顔を向ける。
その写真には、いつもの涼やかな笑顔ではなく、これ以上ないほど不機嫌そうにむすっとした表情をしたメイド服姿の楓子さんが写されていた。
(これが、楓子さんが隠したがっていた秘密……コスプレ趣味を隠したがっていたのかな、?)
私がそんなことを考えていると、魔導書の中から突然黒いドロドロとした液体が溢れ出す。
「な、なに……!?」
「なんだか分かんねーけどやべーぞ!?」
黒いドロドロは大きな塊となり、やがて2メートルはあるであろう黒い蠍へと姿を変えた。
黒い蠍は強靭な尻尾をふりまわし、こちらを威嚇している。
「この部屋の門番だ……!!秘密を知ったオレたちを消すつもりだ!?」
「……くっ……!!」
私は左手の眼帯を外し、黒魔術を使用した。
「《地獄送り(ゴートゥーへル)》……!!」
私の左目から発生した漆黒のブラックホールが、猛烈な重力で黒い蠍を吸引する。すると、黒い蠍はみるみるうちに次元の彼方へと吸い込まれていった。
「やっ、やったか!?」
小守が安堵の表情を浮かべたのも束の間。
次々と魔導書の中から黒い蠍達が姿を現す。
「これじゃ、キリがないわ……!」
「ママーーー!!!」
小守が私のネイビーのニットにがばっと抱きつき、頭の中で大泣きして叫んだ、その時だった。
ぱぁん!!!
急に部屋を埋め尽くしかけていた黒い蠍達が、一瞬にして弾け飛ぶ。
「やれやれ。約束を破って部屋に入っちゃうなんて、いけない子達だね」
耳に心地よい、けれど背筋が凍りつくほど冷徹な、あの涼やかな声とともに、楓子さんが現れた。
「楓子さん!? FBIの捜査に行ってたはずじゃ……」
「君達が猫カフェに行ってる頃には、とっくに占いと黒魔術で解決してきたよ。……それよりも、だ」
楓子さんは優しい笑顔のまま、ものすごい怒気をこちらに向けてくる。
「君達にはおしおきが必要だねぇ。……特に、小守?」
「「ご、ご、ごめんなさーい!!!!」」
私たちは、お互いにこれ以上ないほど強く抱き合いながらガタガタと震えていた。
◇
私と小守はその後、あの写真と全く同じデザインのフリフリのクラシカルなメイド服を強制的に着せられた後、《私は開かずの間に勝手に入りました》という大きなプラカードを首に下げられ、部屋の片隅でしばらく正座して反省することになった。
「ひどい目に遭った……」
お仕置きが終わり、私はようやく解放されて、箒で空を飛びながらアパートへと帰る。
「まぁいーじゃねーか。猫カフェにも行けたし、ママの秘密も見れたし、結果オーライだろ」
私の横で大きな翼をはためかせながら小守が言う。
どうやら全然懲りていないようだ。
「……でも、こんなことしてて大丈夫なのかな……タイムリミットまであと1ヶ月ちょいしかないのに」
「まだ1ヶ月もあるんだから平気だろ。1ヶ月あればただの高校生がギャングスターにだってなれるんだぜ?」
「ジョルノ・ジョバァーナは特例中の特例でしょ……」
「いざって時は、オレが地獄子のこと抱いてやっから心配すんなって」
白い歯を見せながら、なんでもないように小守が言う。
「ばっ……爆発してもしらないわよ……」
顔を赤らめ、唇を尖らせながら私はそう返事した。
全く、メスガキ使い魔のくせに生意気だぞ ……。
「じゃーな、地獄子!! またどっか遊びにいこーぜ!!」
私をアパートの屋上まで見送ると、小守は「ばっびゅーん!!」と叫び空の彼方に消えていった。
「……うん、またね」
空の彼方を見つめ、繋いでいた左手を右手でそっと握りしめながら、私はそう呟いた。
◇
玄関に戻ると、そこには天国美の靴があった。
(先に帰ってきてたんだ)
「ただいまー……」
……何か、様子がおかしい。いつもなら、
「おかえりなさい!! おねえちゃん!!」
という元気な声がすぐに飛んでくるはずなのに
……..。
「天国美ー? 寝てんのー?」
私が怪訝に思いながら部屋に向かうと、天国美が息を荒らげながら布団に横たわっていた。
「おねぇ……ちゃん……ごめん……なさい……」
その消え入りそうな声を聞き、私は急いで天国美に駆け寄った。
「天国美……天国美!? ……ひどい熱!?」
天国美の身体には、40度を超えるような凄まじい高熱があった。
「今朝まで元気だったのに、どうして……?」
タイムリミットまで、あと36日。
(小守との親友デート編・完)
コメント
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第19話、読了しました!「親友デート編・完」とのことですが、楓子さんのコレクションルームや開かずの間の秘密、そしてまさかの黒蠍とのバトルまで、盛りだくさんで楽しかったです。小守との親密さがにじみ出る掛け合いが特に良くて、二人の関係性の深まりを感じました。しかし最後の天国美さんの高熱…これは何か不穏な伏線ですよね。タイムリミットまで36日、今後の展開が気になって仕方ありません!