詩帆はアパートへ戻ると、とりあえず家にあったパンを食べて身支度を整えると慌ただしくアパートを出た。
そしてなんとか遅刻せずに間に合った。
エプロンを着けるといつものようにオープン前の準備を始める。
そして七時に開店を迎えた。
今朝は2~3人の客がオープンと同時に店に入って来た。
その一番後ろに涼平がいた。
詩帆は順番に客の応対をしていく。
そして漸く涼平の番が来た。
「お客様、本日はドーナツがオススメですが」
詩帆が笑顔で言ったので、涼平はニヤッと笑って答える。
「じゃあそれをいただこうかな」
涼平が気取って言ったので詩帆はフフッと笑った。
そして会計を済ませると、トレーに載ったコーヒーとドーナツを涼平に渡した。
涼平は「ありがとう」と言って、いつもの窓際の席へ移動する。
その後も来店客が続いていたので、引き続き詩帆はカウンターで注文を受けていた。
来店する客が途切れてから、詩帆の横にいた同僚の美佐子が言った。
「詩帆ちゃん、来週木曜のシフト代わってくれてありがとう。その日は詩帆ちゃんの誕生日だったのに、悪いわね」
美佐子は大きな声で言った。
美佐子は30代の主婦だ。カフェの仕事以外に空手の先生もやっているいわゆる体育会系女子だ。
だから普段から声が大きかった。
詩帆は菊田優子の誕生日パーティーの前日、つまり来週の木曜日が誕生日だった。
この店のスタッフは、誕生日には休みを貰える制度があり詩帆も本当は木曜日は休みのはずだった
しかし美佐子の空手教室の急な都合でシフトを代わってあげた。
誕生日といっても特に何の予定もなかった詩帆は、快く美佐子と代わってあげたのだ。
そんな二人の会話を涼平はしっかりと聞いていた。
詩帆の誕生日が来週の木曜日と知った涼平は、何かを考えている様子だった。
それから十分後、涼平がトレーを持って詩帆のいるカウンターへ歩いて来た。
「トレーはこちらで回収いたします」
詩帆がそう言うと、涼平はありがとうと言ってトレーを詩帆に渡す。
それから微笑んで言った。
「うん、ドーナツは確かに美味かった」
「それなら良かったです」
詩帆は笑顔で答える。
「じゃ、行って来ます」
「行ってらっしゃい、お気をつけて」
詩帆に見送られた涼平は、自転車に乗り込みながらご機嫌だった。
詩帆に行ってらっしゃいと見送られただけで、なんだか嬉しかった。
涼平は上機嫌のまま元気よく自転車をこいで事務所へ向かった。
事務所へ着くと、早速加納が涼平に言った。
「涼平、来週の優子さんのパーティーは、一体何人くらい集まるんだ?」
「大体20人くらいだと思いますよ」
涼平がそう答えると、また加納が言った。
「お前は玲子さんと別れちゃったなら今年も一人か…」
すると隣にいた佐野が、
「俺も一人ですから仲間っすね」
とあっけらかんとして言ったので、涼平と加納がびっくりして同時に聞いた。
「「お前、もう別れたのか?」」
「はいー、やっぱ女はあれっすね。色々面倒くさいですわ」
佐野の言葉に涼平と加納は思わず顔を見合わせる。
そして加納が聞いた。
「何が面倒だったんだ? 彼女、確かアパレル系の子じゃなかったか?」
「そうなんっすよ。いや~誕生日のプレゼントはやれあのブランドじゃないと駄目だ、このブランドじゃないと
駄目だってうるさくて…そういうのを聞いているとうんざりですわ」
「バカヤロー、誕生日くらいは好きなもん買ってやれ!」
加納が呆れたように言うと、佐野は面倒くさそうに手を左右にブンブンと振った。
その時涼平が呟いた。
「誕生日って、やっぱプレゼントとか貰うと嬉しいんでしょうか? どんなものが喜ぶのかな…」
涼平の言葉を聞き、今度は加納と佐野が驚いたように顔を見合わせる。
「涼平、おまえまさか…」
加納が意味深に言ったのを聞いて、涼平は慌てて違いますよーと否定する。
「あ、でも、今度のパーティーには女友達を連れて行きますんで…よろしく!」
涼平はそう言い残すと、立ち上がってコーヒーを入れに行った。
残された加納と佐野は、びっくりした様子で顔を見合わせていた。
コメント
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詩帆ちゃんに見送られて 幸せそうな涼平さん....✨ お誕生日プレゼントには何を贈るのかな❓️ワクワク♪✨🎁✨
涼平さん、詩帆ちゃんの誕生日🎂を聞いてサプライズ計画思いついた⁉️🤗 それとパーティーに女友達を連れてくと公言❣️ で、で、彼女に格上げはいつですか〜涼平さん🤭💕⁉️