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あれは今から約半年前。
「なぁ、賭けしないか?」
「賭け?」
歳は僕の方が下だが、とても仲のいい友達が声をかけてきた。
僕の名前は佐倉さくら 昇のぼる。
特に目立ちもしない大学一年生。
今は九月。
学校にも慣れ、ある程度余裕を持って過ごせるようになった。
「消しゴムを落とした先にいる女に、ジャンケンに負けた方が告るっていう賭け。」
「…やだよ、そんなの。」
(誰がそんな危ない事するかよ。)
僕はそう思い、帰るためにカバンを背負った。
「……もしお前が勝ったら飯おごってやるのになぁ…。」
「えっ!」
僕はその言葉に過剰なまでに反応してしまった。
「俺知ってるんだぜ。お前今月キツイんだろ?」
嫌味とも思えるその笑顔に僕は少し悩んだ。
(こいつ、どっからそんな情報を…)
苦虫を噛んだような顔をする僕を見ながら、友人は言った。
「そんなに深く考えるなよ。しょせんジャンケンなんて運だぜ。それに五分五分だしな。」
(そうだよな、イカサマなんてできないし……なんとかなるかな。)
友人の言葉をそのまま受け、僕は結局やる事にした。
思えばそれがすべての始まりだった。
『ジャンケン、ポン!』
大学生が何してんだろう、と思いつつも僕はやった。
結果は……
「よっしゃ!勝った!!」
「………」
負けてしまった。
ものの見事に一回目で負けた。
「じゃ約束の罰ゲームな。」
友人はおもしろがり、上から机に消しゴムを落とした。
消しゴムは思った以上に跳ね、不規則な跳ね方をしながら転がっていった。
やがてそれは壁に当たり、近くに座っていた女に拾われた。
「おっ、丁度いいじゃん。あいつに告れよ。」
友人は僕の肩を叩いた。
「ちょっと待てよ。僕はあいつの名前すら知らないんだぞ。」
「はあ!?しょうがねぇなぁ。あいつは藤本ふじもと 綾女あやめだよ。じゃ俺、遠くから見てるからな。」
友人は言いたい事だけ言って、僕の隣から去った。
「お、おいっ…」
制止の言葉を出しても、友人は戻ってこなかった。
「あの……これ、あなたの…?」
「あ、あぁ。ありがとう。」
本当は僕のではなく友人のなのだが、とりあえず話を合わせておいた。
藤本 綾女か。
今時の女には珍しく、純粋な黒い髪をしている。
多分一度も染めた事など無いんだろう。
髪は二つに結っている。
顔は本当はそれほど悪くないんだろうけど、厚いメガネが邪魔をしてどうしてもブスに見えてしまう。
高校の時とかに学級委員でもやってそうなやつだ。
「あの…僕と付き合ってくれませんか?」
こんな事さっさと終わらせたかったので、ムードもへったくれもないようなこの状況で告白した。
告白なんて数えるぐらいしかしてないのに、たかが罰ゲームなんかでしなくちゃなんないなんてな。
あぁ早く帰りたい。
「えっ……」
藤本は突然の告白に同様を隠せないようだ。
そして悩むように下を向いた。
(別に悩むなって。早く断ってくれよ。)
僕は、後で友人を殴ってやろう、と思いつつ藤本をみた。
(どうせならもっと可愛い人の方がよかったな。)
藤本がこの告白に応じるはずがない。
なにしろ僕は名前すら知らなかったのだ。
当然しゃべった事などない。
それに僕はみんなに尊敬されるような偉大な事をしたわけでもない。
だから成功する確率はほぼ0%であった。
しかし……
「わ、私…こうゆうのよく分かんないんですけど、私でよければ…はい。よろしくお願いします。」
(はぁ!?勘弁してくれよ。)
なんと冗談の告白が成功してしまったのだ。
藤本が顔を少し赤らめる姿を、僕は正直うざったいと思った。