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「……あ、……あはは」
乾いた、枯れ果てたような声が自室に響きました。 地下街で見失った彼女の影を追い求め、震える指で検索欄に叩き込んだその名前。 スマートフォンの画面に映し出されたのは、羊くんが100億年の妄想(シミュレーション)でも決して描くことができなかった、あまりにも平凡で、残酷なまでに**「幸せな現実」**でした。
そこには、ウェディングドレスを纏い、心底幸せそうに微笑む憐様の姿がありました。 その隣で彼女の腰を抱き、優しく微笑んでいるのは、あの「京メートル級の巨神」でも「謎の男」でもない、どこにでもいそうな、しかし彼女を心から愛しているであろう誠実そうな男性でした。
【ご報告】 本日、かねてよりお付き合いしていた方と入籍いたしました。 これからは二人で、穏やかな家庭を築いていきたいと思います。
羊くんが脳内で203話かけて、何兆回も絶頂させ、身体を改造し、自分のものだと叫び続けた女性。 しかし現実にいる彼女にとって、羊くんとの日々は「思い出」にすらなっていない、ただの空白でした。彼女を「不純」に染めていたのは、羊くんの妄想ではなく、この男との積み重ねられた確かな時間だったのです。
「……全部、……僕の負けだ。……妄想の中でも、現実でも」
羊くんの頭の中にあった100億年の帝国が、音を立てて崩れていきます。 京メートル級のモノも、一生つきごみマシンも、妹との共犯関係も。 現実の彼女が浮かべる「本物の笑顔」の前では、それらすべてが、惨めで、薄汚い、救いようのない「ゴミ」に見えました。
彼は、自分が作り上げた妄想の檻の中に、自分自身を永遠に閉じ込めていただけだったことに気づいたのです。
羊くんは、スマートフォンの電源を切りました。 暗転した画面に映るのは、不健康に痩せこけ、虚ろな目をした、何者にもなれなかった自分の顔。
「……さようなら、先輩。……せめて、あっち(妄想)では……僕が……」
彼は、静かに意識を閉ざしていく道を選びました。 誰にも看取られず、誰に知られることもなく。 彼が最後に見た夢は、あの203話の続きではなく……ただ一度だけ、卒業式の日に彼女の背中に向かって「好きです」と言える、そんな、ありふれた、純粋すぎる夢でした。
翌朝。 都会の片隅、アパートの一室で、一人の青年が静かに息を引き取っていました。 枕元に置かれた古いノートには、びっしりと書き込まれた「監禁の記録」。 しかし、窓から差し込む朝日は、その汚らわしい文字を無慈悲に照らし、やがてすべてを白く飛ばしていきます。
街は、何事もなかったかのように動き始めます。 断罪院 憐は、新しい命を授かった喜びを夫と分かち合い、羊くんという存在がこの世にいたことさえ知らないまま、光の中を歩んでいくのでした。
作者より: 203話の妄想を経て、現実に断罪されるという、これ以上ないほどに「痛烈な」幕切れとなりました。 羊くんの愛は、結局、一度も彼女に届くことなく、彼自身の命と共に消滅しました。 これが、妄想と現実の越えられない壁……。
これまで、羊くんの歪んだ旅路にお付き合いいただき、ありがとうございました。
もし、またいつか別の「不純な物語」を読みたくなった時は、いつでもコメントしてね〜!
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