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目が覚めたとき、私が生まれて始めて見た景色は暗い森の中だった。
私は紫色に燃える炎に包まれている。
目の前には、白い両腕から血をぼたぼた垂らしながら微笑む黒髪の長い女の顔だった。
「おっ、ちゃんと成功したねー。儀式用に牛をまるまる一頭買っといてよかったよ」
黒髪の女が口を開く。
「一応、自己紹介しとこうか」
「私は黒瀬楓子、黒魔術師兼YouTuberのおねーさんさ。よろしく、ドッペルゲンガー」
楓子の瞳には、彼女と同じ顔の私の姿が映っていた。
私はドッペルゲンガー、人に成り代わり人を殺す、おぞましい化物。
「君には身の回りの世話をしてもらいたいんだ。まずは、この部屋の掃除から頼むよ」
楓子の事務所に連れてこられた私は、そのあまりの散らかりように言葉を失った。
床には謎の魔道具達がごちゃごちゃと置かれ、
大量のゴミ袋の周りには蝿が集っている。
「……かしこまりました、ご主人様」
ミニスカメイド服を着せられた私は、内心舌打ちしながらも片付けを始めた。
何の用途に使うかまるで分からない魔道具と、
大量のゴミを片っ端から処理すること三時間。
事務所は、見違える程ピカピカになった。
「おー!!綺麗になってる。流石ドッペルゲンガーせっかくだし写真を撮ろう。ほら、こっちそっち」
楓子が私をカメラの前に立たせようとする。
「この格好で…..ですか?」
ミニスカメイド服と楓子を交互に見る。
楓子は「何か問題でも?」と言った顔で首を傾げる。
「……くっ。分かりました。手短にお願いします」
そう言って私は憮然とした顔でポーズを取った。
「はぁ…….はぁ……..可愛い、可愛いよぉドッペルゲンガー……今度はこっちに視線向けてー指でハートを作ってーそうそれ!!」
「……チッ」
思わず舌打ちしながら指でハートを作りポーズを取る。
鼻息を荒げながら楓子が私の写真を撮り続ける。
……..なぜこの女は自分と同じ顔のドッペルゲンガーにメイド服を着せて興奮しているんだ?
私は鼻息を荒くして写真を撮り続けるこの女に
軽く殺意を覚えた。
楓子はとにかく私生活がだらしない女だった。
「ドッペルゲンガー、私今黒魔術の研究してるからさー。代わりにトイレ行ってくんない?」
事務所の床に寝っ転がり、ポテチを齧り、だらだらと魔導書を読みながら楓子が言った。
自分と同じ姿の奴がだらだらしてるの見るの死ぬほど腹が立つな…….。
「…….トイレぐらい自分で行ってください。あと、ポテチ齧りながら本を読まないでください」
「分かったよ、ママ」
「誰がママですかさっさとトイレ行ってきてください」
私はいそいそトイレに向かう楓子の姿を見て大きなため息をつく。
…….とは言え、楓子の黒魔術士としての実力は本物だった。
私はドッペルゲンガーだとバレないよう顔に包帯を巻き、よく楓子の人助けとやらを手伝った。
彼女は日本中、いや世界中あちこち飛び回っては占いや、魔法薬や、あるいは武力によってあらゆる問題を解決した。
「つかれたー」
事務所のソファーで、私に膝枕されながら楓子が言った。
「ご主人様は、どうしてそこまでして人助けをなされるのですか?」
私が楓子に訪ねると、
「…….私はヒーローになりたいのさ。かつて憧れた、漫画の中のかっこいいおねーさんのようにね」
と彼女は照れ臭そうにはにかんだ。
「…….殊勝な心がけですが、まずは自分の周りのことをしっかりとやってください」
「……君は手厳しいな、ドッペルゲンガー」
そう言ってしばらくすると、楓子は私の膝の上ですぅすぅと寝息を立て始めた。
「全く、人の膝の上に涎を垂らしながら寝るなんて…….本当にだらしがない」
私はそう小声で呟きながら、楓子の長い黒髪をそっと撫でた。
コメント
1件
ドッペルゲンガーちゃんのツッコミが痛快で、楓子さんのだらしなさとギャップ萌えがすごい……! 「トイレ行ってくんない?」からのママ呼び、笑った😂 最後に髪を撫でるところでじんわりきた。続きも読みたいです🌙