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きょうふ
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comi
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#可愛い
トド村
37
楓子は、私と違い随分とおしゃべりな女だった。
「知ってるかいドッペルゲンガー?かつて日本には50の都道府県があったのさ」
黒魔術師としての活動を終えた後、楓子は事務所のソファーで私に膝枕をさせながらしたり顔で言った。
楓子は、私の足を都合のいい低反発枕だと思っている節がある。業腹だった。
「ご主人様、冗談は休み休みおっしゃってください」
「私そんなに冗談言ってるかなぁ?」
心外そうに楓子が私の顔を見る。
「もし本当に50の都道府県があるのなら、残りの三つはどこに消えたのですか?」
「そこなんだよ。かつて四国は七国と呼ばれていた。今ある都道府県の他に室戸県(むろとけん)、神籬県(ひもろぎけん)、幽原県(ゆうばらけん)という三つの県があった。しかしそれらの3つの県は、一人の魔女によってこの世から完全に消滅してしまったのさ、《呪いの魔女》堂堂巡舎蘭(どうどうめぐりしゃらん)の手によってね」
楓子はまことしやかにそう言った。
事務所の明かりは消され、アロマキャンドルのオレンジ色の光がぼんやり灯っている。
「………何故、彼女はそのような真似を?」
「不老不死になるためさ。舎蘭は一人の男を呪い続けたことで知られている。彼女の恨みは激しく、男が死んだ後も呪い続けたのだという。そうして彼女は永遠にその男を呪い続けるために、不老不死の禁術に手を染め、県を三つ消滅させたんだ。今では室戸県、神籬県、幽原県は人々からすっかり忘れ去られ、七国は四国と呼ばれるようになった、というのが黒魔術師に伝わる伝承だよ」
「……にわかには信じられませんね。そんな大罪人がいたとして世間から放って置かれるわけがありません、舎蘭は今どうしているのですか?」
「死んだよ、自殺」
「は?」
「……ドッペルゲンガーの言い分も分かるよ。不老不死の人間が自殺なんて出来るわけない、やっぱり嘘っぱちじゃないか……だろ?」
「…….。」
「あるんだよ、黒魔術には不老不死の存在すら死ぬことが出来る方法が。___これも、禁術だけどね」
そう言って、楓子は私に膝枕されたまま、遠い目をする。
「自分の都合で大勢の命を奪っておいて、都合が悪くなったら自ら命を断つ。黒魔術士というのは勝手な生き物だね。舎蘭は自らの持つ負の感情に呑み込まれてしまったんだ。
『決して負の感情を無くしてはいけない。しかし負の感情に呑み込まれてもいけない』
……私は私の黒魔術の師匠に、一番最初にこの言葉を授けられたんだ。舎蘭の逸話とともにね」
そう話終えた後、楓子は今期のアニメの話がどーたら、占いで数ヵ月後に打ち切られるジャンプの新連載を占いショックを受けたことを語った後、こんこんと眠りについた。
ドッペルゲンガーである私は、眠る、という行為がひどく恐ろしくてたまらなかった。
名前すらなく、存在の不確かな私は、一度目を閉じ眠りにつくと、そのまま自分が消えてしまうんじゃないかという恐怖を感じた。
だから私は楓子が眠っているときは、楓子の憎らしい寝顔を見て、しきりに髪を撫でた。
そう言えば、と楓子の手を見て思った。
楓子はいつだって黒い手袋を身に付けている。
「寝る時くらい取ればいいのに」
出来心で私は楓子の手袋を外し___すぐに後悔した。
「手が…….透けている?」
見間違いだと思った。
そう思って何度瞬きをしても、その手だけは現実から切り取られたように薄く透けたままだった。
後に私は知ることになる。
ドッペルゲンガーの召喚は古より代々伝わる、黒魔術師の最後の自殺の手段であることを。
コメント
3件
読了しました。第24話、めちゃくちゃ良かったです…。楓子が語る「かつて四国は七国だった」という都市伝説めいた話から、最後の楓子の手が透けている描写への流れが、ぞっとするほど美しかった。膝枕で眠る楓子の寝顔を、消えてしまいそうな自分がじっと見つめる構図が胸に刺さりました。「ドッペルゲンガーの召喚は♡♡♡の手段」という終盤の一文、すべての意味が反転する感じがして、続きが気になって仕方ないです。トド村さんの世界観、本当に好きです。