テラーノベル
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「はい!先輩の奢り〜」
「あ、ありがとうござ…」
「感謝はお金でね!!」
「…わかってましたけど!!!!」
自販機のぴ、という機械音が聞こえたと思えば、どうやら先輩であるぺいんとさんは僕の分の飲み物も買ってくれたらしい。かといって、奢りと言うくせにしっかりと1人分の飲み物のお金は要求するらしい。最後まできちんとする先輩だな。もちろん、嫌な意味で。
プルタブを力強く開ける。温かさが手から伝わる、が……
「……。」
「? どうしたの?飲まないの?」
「……何で先輩がコーンスープなんですか。」
「ええ、だっておしるこ嫌じゃん。」
「それを後輩にあげますか?!?!」
間違えて買ったらしいおしるこを、僕は押し付けられた。その上お金もしっかり要求…なんて先輩なんだ。今日は厄日か何かに違いない。
「…んで、何で公園に?」
コーンスープを飲む先輩に聞くと、相手はこちらを向いた。いや、目だけこちらを向けた、の方が正しい。
「さっき言ったじゃん。君、僕に会ったことあるでしょ、って。」
「……」
出鱈目な質問だと思うし、ただの気のせいだとか、他人の空似なんじゃないのとか…大抵の人はそう思うし、僕だって一瞬そう思った。
けれど、僕はそう。市内一の役者である彼に、会ったことあるのだ。それもたったの一度じゃない。何度も何度も会っている。
「……会ったことあるって言ったら、何なんですか。」
おしるこを喉に通す。あんこの味と少しのざらざらした感触を感じられたそれは、喉に当分の間粘りつく。
相手はもう先ほどまでの弱々しい格好は見せておらず、普段の格好らしい。
「いやあ、なんか…しにがみくんの噂が広がってて…」
「……。…それと何か先輩と会ったことに関係しますか?」
当分の間を空けて答えた。当分の間を空けて答えてしまった。間なんて空けなければ、了承の意味も持たなかっただろうに。
「関係…うん。するよ。」
悩ましげな顔を見せた彼に、僕は眉間に皺がよった。なぜか、なんてわかりきっている。
彼の演技がヘタクソだからだ。
市内一の実力は、もうそりゃある。手も足も出ない、痛々しいほどの実力差を突きつけられるほどに。
「何と?」
詰め寄るような、尋問形式のように体を前のめりにして聞く。相手の肩が少し震えたが、そんなのに目移りすることもなかった。
相手の目を見て、離さなかった。痛々しいほどの視線を突きつける。こんなことをしても無駄なのはわかっていても。それでも───
「…一緒に劇、しようよ。」
「はっ、」
───またそのことを言ってほしくなかった。
噂なんて簡単に変えられない。特にそれが、悪い噂なのなら。もちろん、僕の噂は良いとは言えない。
「……本気ですか、それ。」
「本気だよ!俺は…しにがみくんのこと、みんなに知ってほしいから。」
市内一の役者である彼と、目立つことのない演劇部の僕。
月とスッポン
これが1番良い代表例だ。 もちろん彼が月だ。…いや、太陽でも良いのかもしれない。
そのくらい、周りから見ても、自分から見てもその実力差は瞭然だ。
「それに、まず何と関係するのか教えてもらわないと───」
呆れたように声を出す。無論、僕はこれを引き受けるつもりも、友達になる気もない。”先輩”と”後輩”。それ以上でもそれ以下でもないのだ。それくらいがちょうど良くて、それくらいが1番良いから。
なのに、このアホはわかってくれない。そう、心のどこかでわかっていた。
「関係ある!!」
あまりの迫力に、肩がびく、と震え上がる。相手は心底怒ったような顔をしており、なぜかこちら側が申し訳なくなった。
相手もその気まずさに気付いたのか、目を逸らしながらも話し始める。
「…無理ならいい。嫌ならいい。でも、このまんまじゃ嫌ってだけで…!」
ぬるい。
この手に持っていたおしるこは、もう寒さのせいでひどくぬるい。
「───それ、自己満って言うんですよ。」
「へ、」
ごくっ、と一気におしるこを飲み干す。最後の最後に出てきたお餅は、少し硬かった。
公園のゴミ箱におしるこの缶を投げ捨て、自転車のスタンドを上げる。
「僕が良いから、ああした。それなのに先輩がそう言うの、ただの自己満ですよ。」
「……。」
何の言葉も出ないのか、彼は立ち尽くして下を俯いたままだった。彼の持つコーンスープの缶は、中はもう空っぽで。
2人で、自転車に乗って帰った。警察に見つかったら確実に怒られるけれど、それでも。
ひどく静かで、痛かったのを覚えている。寒くて、ジンジンして、暖まらなくて。
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