午後から四人は、ミュージアムの建設予定地へ向かった。
市役所から車で15分程の場所にその予定地はあった。
土地は既に整地され、あとは工事を待つばかり。
「結構拓けた土地ですね」
「はい。これなら駐車場も広く確保できます」
「北海道だと駐車場は必須ですからね。寒冷地対応については専門家のご助言をいただく事は可能ですか?」
「はい。地元の建築士に入ってもらう事になっています」
「それは助かります」
それからしばらく現地で打ち合わせをした後、四人はまた車で役所へ戻った。
「ではご依頼のあった修正案を再度組み入れてから、また来週伺います。今日は色々とありがとうございました」
拓は三人に挨拶をすると、役所の前で車を降りた。
拓はホッと息をついて大通り沿いを歩き始める。
今日の外での仕事はこれで終わりだ。
来週役所に行くまでの間は、しばらくホテル内での作業となる。
通り沿いを歩き続けていると、途中レンタカー会社を見つけた。
(車が必要な時はここで借りればいいのか)
そう思いながら歩いていると、今度はコンビニを見つけた。
拓は飲み物や食べ物を買い込んでからホテルへ戻った。
部屋へ戻るとすぐに会社へ連絡を入れる。
拓は先輩の涼平とリモート会議を始め、今日のミーティングの詳細を報告した。
全ての報告が終わると、二人は雑談を始める。
「北海道はどうだ?」
「アハッ、まだ市役所しか行っていませんよ」
「それもそうだな。でもこれから休日には観光も出来るんじゃないか」
「まあそうっすね…」
その時涼平の横から同期の岡田が割り込んで来た。
「拓! 市役所のカワイ子ちゃんには会ったか?」
「うん、今日会った」
「美人だった?」
「よく分かんねぇ…」
「なんだよソレ!」
岡田が憤慨していると、涼平が口を出した。
「拓は高校の時からの思い人がいるからその辺の女には興味はないんだよなぁ? 拓」
「何言ってんですか涼平さん」
拓が恥ずかしそうに言うと、横から岡田が声を張り上げた。
「あっ、もしかしてあの写真の子?」
「写真の子? なんだそれ?」
今度は涼平が岡田に聞き返す。
「いや、涼平さんと清水さんが写った写真の後ろに拓の女が写ってたんっすよ。あれが拓の思い人なんだよな?」
それを聞いた涼平は、以前清水から送ってもらった写真を慌ててスマホに表示させる。
そして自分達の後ろに写っている女性をじっと見つめる。
「アッ!」
涼平はいきなり大声で叫んだ。
そして拓に確認する。
「もしかしてこの娘?」
涼平に聞かれた拓は、諦めた様子で答える。
「そうです。彼女です。涼平さんもあの日カフェで会った」
「…って事は拓!」
「はい。やっと居場所が見つかりました」
涼平はかなり驚いていた。
涼平はこれまでの経緯を全てを知っていたからなおさらだ。
「マジか? そんな偶然ってあるのか?」
「はい、俺もびっくりしました」
「いやー、そりゃ凄いな。探していた女性が偶然写真に写り込むなんて…」
そこで岡田も言う。
「もうこれは運命っすね」
「本当だな、まさに運命だよ。で? 居場所はまだわからないんだろう?」
「はい。でもおそらく市内に住んでいると思います」
「そっか。じゃあお前二ヶ月の間に必死で探さないとだな」
「はい」
「あ、だからおまえ社内コンペ必死で頑張ってたのか!」
「ハハッ、バレちゃいました?」
拓は照れたように笑う。
そこで涼平は更に思い出したように言った。
「そういえば、うちの詩帆のおじいさんが岩見沢市に住んでいるんだよ。もしかしたら体験型ミュージアム関連で繋がるかもし
れないな。ちなみに彼は画家なんだ」
「へぇ…そうなんですか? お名前は?」
「江藤進一」
「そうなんですね。もしどこかで繋がれば、すぐに涼平さんに知らせますよ」
「ああ、よろしく。じゃあまずは仕事をしっかり頑張れ。彼女が見つかる事を祈ってるよ」
「はい、ありがとうございます」
「じゃあ会議はまた来週な、よろしく! お疲れ!」
そして二人はリモート通信を切った。
拓はコンビニで買ったお茶を開けて一口飲む。
その後一時間ほどパソコンに向かって仕事を続けた。
作業が一段落した後、腕時計を見る。
「午後五時過ぎか……」
拓はそう呟くと、ノートパソコンを閉じた。
そして財布とスマホだけを手にすると、ホテルを出た。
大通り沿いの商店街に出た拓は、涼平と清水が行ったという居酒屋へ向かう。
居酒屋は駅近くの交差点にあった。
ちょうど交差点の角なので見晴らしが良い場所にある。
通りを挟んだ向かい側にカフェがあったので、拓はそのカフェに入った。
注文カウンターでアイスコーヒーを買うと、居酒屋の出入口が見える窓辺のカウンター席へ座った。
拓は今日からここで居酒屋の人の出入りをチェックする事にした。
出張中の二か月間毎日だ。
真子が地元に住んでいるなら、この二ヶ月の間にもう一度居酒屋を訪れるかもしれない。
岩見沢市内の居酒屋と言えば数は限られている。
真子が再び同じ居酒屋に来る可能性は大きい。
清水の話だと、あの時真子は女性二人で飲んでいたと言った。
という事は、女性同士の飲み会だから時間的にはそれほど遅くはならないだろう。
だから居酒屋が開店した直後の数時間を見張ればいいのだ。
拓は心臓がドキドキしていた。
(真子、頼む…またあの店に来てくれ……)
拓は通りを行き交う人々を眺めながら心の中で祈った。
その日拓は午後八時までカフェで粘ったが、真子は現れなかった。
(初日にあっさり見つかる訳ないか……)
拓はそう思いながらホテルへ戻って行った。
コメント
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拓君が一途に真子ちゃんを張り込むと思うけど、変な妨害に惑わされないように、涼平さんからも2ヶ月で何とか真子ちゃんが見つかるように拓君にエールを送ってあげて‼️ お願いします🥺🙏