翌日からまた海斗はリハーサルで忙しい日々が始っていた。
レコーディングは終わったが、次は夏のロックフェスと秋のツアーを控えている。
本格的に忙しくなるのはこれからだ。
海斗は朝スタジオに行く前に事務所に寄った。するとマネージャーの高村が海斗を呼んだ。
「海斗、週刊文星から記事掲載予告のファックスが来たぞ」
海斗にそのファックスを見せる。
ファックスの記事には、銀座の宝飾店から海斗と美月が手を繋いで出て来る写真が掲載されていた。
二人が微笑んで見つめ合う瞬間を見事に捉えている。
プロはすごいなと思わせる一枚だった。
宝飾店のロゴが入った袋を海斗が手にしているところも写っている。
そして二枚目は、マンションの駐車場入口で撮られた写真だった、
海斗が美月の顔を左手でかばっている様子が写っていた。この時の美月は一枚目の写真に比べたら鮮明さに欠けていたが、緊迫感が伝わる写真に仕上がっている。
どちらも美月の目の部分には黒塗りがされていて誰だかわからないようにはなっていたが、家族や友人などが見れば一発でわかるだろう。
雑誌の発売日を見るとなんと今日発売だ。
これじゃあ抗議しても既に販売されているのだから手遅れだ。
マスコミは本当に抜け目ないなと海斗は思った。
そして記事の見出しは、
『solid earthのボーカリスト・沢田海斗(43才)が銀座で美女とデート!』
『一般人女性と銀座のジュエリーショップで仲良くショッピング! 指輪を購入か!?』
『お相手の女性は背の高いスレンダー美女』
『銀座デートの後、二人は沢田海斗の自宅マンションへ入り一夜を共に!』
となっていた。
『指輪を購入か!?』
とクエスチョンマークをつけて想定で書かれているという事は、あの指輪を買った店では取材は出来なかったようだ。
もし取材して情報を得ていたら『指輪』の部分が『婚約指輪』になっていただろう。
あの店のスタッフの誠実な対応を見ていると、そういった個人情報はマスコミには一切漏らさないだろうと思っていたので、店が適切な対応を取ってくれた事に海斗は感謝した。どこまでも信頼できる店だ。
海斗が昔付き合っていた女性にハイブランドジュエリーをプレゼントした時は翌日すぐに記事になった。そして買った指輪の種類まで詳細に記事に載っていた事があったので、店により誠実度が随分と違うものだなと海斗は思う。
一通り記事を見た海斗はが言った。
「銀座でも撮られていたとはなぁ。全然気づかなかったよ。スレンダー美女は合ってるな! 美月、綺麗に写ってる!」
美月の写真を見ながら海斗はニコニコしている。
それを見た高村は、
「お前らにとっては、単なる記念写真だな」
と笑いながら言った。
「ところで美月ちゃんのご家族にはちゃんと挨拶に行ったのか?」
「昨日行って来たからセーフだよ」
「それは良かった! この記事に関しては『私生活に関しては本人に任せているので事務所からは特にコメントすることはありません』と通達しておくからな。まあ特に否定する必要もないだろうし、かといって事細かに教える必要もないだろう」
「手間をかけて悪いな」
「いや、大した事はないさ。ただ今後も記者に張り込まれる可能性があるから、二人で行動する時は充分気をつけろよ」
「わかった。じゃあ俺スタジオ行くわ!」
海斗は手を挙げて駐車場へ向かった。
海斗は車に乗り込むと美月にメールをした。
【おはよう、昨日は楽しい時間だったね。お母様にはくれぐれもよろしくお伝え下さい! あと今日発売の週刊文星にこの前撮られた写真が載るみたいなので一応連絡です。美月の顔は黒塗りされているので特に問題ないとは思うけれど。あと今後は記者に張り込まれる可能性もあるからくれぐれも気をつけてね。何かあったらすぐ俺に連絡する事! ではこれからスタジオへ行ってきます】
海斗はメールを打ち終わるとスタジオに向かった。
美月が海斗からのメールに気付いたのは昼休みだった。
メールを読んでびっくりする。
(やっぱり載ってしまったのね)
美月は急いで昼食を食べ終えると、まずは海斗に返信した。
【昨日は来てくれてありがとう。母がとても喜んでいました。雑誌の記事と記者の件承知しました。お仕事頑張ってね】
そして美月は次に母親に電話をした。
一応雑誌の記事が今日出る事を伝える。
すると美月の母は、
「まぁ! 今日発売なの? 記念に買っておこうかしら」
と呑気に笑っていた。
それから美月は亜矢子にも電話をした。
「もしもし亜矢子? 忙しいのにごめんね。実はさ、先日週間文星の記者に海斗さんと一緒にいる所を撮られてしまって、今日発売の雑誌に載ってるみたいなの。亜矢子が驚くといけないから一応連絡しておこうと思って」
「なにー? パパラッチされたの? キャー! 買いに行かなくちゃ!」
亜矢子は大騒ぎしていた。
そこで美月は亜矢子に報告する。
「亜矢子、あのね、海斗さんからプロポーズされた」
一瞬亜矢子の声が静まり返った。
しかしその後すぐに、
「キャーッ! 美月おめでとう! いずれそうなるだろうと信じていたけれど、本当に良かった! 良かったね、美月、おめでとう!」
亜矢子は興奮した声で言ったが最後の方は涙声だった。
それに気付いた美月も目を潤ませながら言った。
「亜矢子ありがとう。亜矢子達のおかげでもあるよ。本当にありがとう。今仕事の合間だからまた今度ゆっくりね。浩さんにもよろしくね」
そこで美月は電話を終えた。
昼休みの時間が終わりそうだったので、それから美月は慌てて仕事に戻った。
美月との電話を切った亜矢子は、声を出して泣き始める。
「美月、本当に良かった! 良かったよー!」
亜矢子は溢れ出る涙をティッシュで拭くと、チーンと鼻をかむ。
そこへ、母親が泣いているのを見て心配した亮が近付いて来た。
「ママ、だいじょーぶ? イタイイタイなの?」
その声に亜矢子はニッコリと微笑んでから息子を抱き締めて言った。
「イタイイタイじゃなくてね、ママは嬉しくて泣いているのよ! みーちゃんにとっても良い事があったからなの」
「みーちゃんに? みーちゃん良かったね。みーちゃん大好き!」
亮は亜矢子の腕から離れると、部屋の中をぐるぐる走り回って大はしゃぎした。
部屋の中にはしばらく、母と息子の楽しそうな声が響き渡っていた。
コメント
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週間文星....⭐️🤭w 文星砲炸裂ですね~👩❤️👨 🤭ウフフ 何か良いことがありそうだわ~⭐️🌠 事前にお母さんにも既に報告に行ってあるし、周囲の皆さまは大喜びだし....☺️🎶 お母さんも、亜矢子さんファミリーも ソッコーで買いに行ってそう📚️🤣w 宝飾店は顧客情報は内密にしてくれているし、今のところ特に問題は無さそうですね~😌💓 でも、今後は 記者に追いかけられないよう 注意が必要だね....😅💦
亜矢子ファミリーは浩さんも号泣すると思う😭 これからどうパパラッチと上手く付き合っていくのかな。味方にしたら怖いものナシ⁉️ 週刊文星🤭「星」なんかステキな雑誌みたいよね⁉️😆 昔はフォーカスされちゃったでしたね🤣歳バレる🤣
高村さんと海斗さんの策を先に実行しといて本当に良かったね🤗❣️ 本人らも周りも先に知ってれば不安もないしね。 💍を買ったジュエリーショップも顧客情報を開示しなかったし良いお店で今後も買いに行けるね😉 あとは海斗さんのご実家に2人でご挨拶に行ってこないとね❤️🤗💕 もぅワクワクしかないよ〜🤭🌸🙌👍