テラーノベル
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孤独で、誰にも気づかれない一人の少年の小さな、けれど激しく辛い戦争の話。
戦え!!!!いつまでも!!!
諦めるな!!!いつまでも!!!
負けるな!!!いつまでも!!!
勝つんだ、いつか
「〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
「〜〜??!?〜〜!!!!」
嗚呼、アイツらの、的の怒鳴り声が聞こえる。 これは銃撃戦か何かだろうか。
明日になったら、止んでますように___
ぴぴぴぴ ぴぴぴぴ
というアラームの音で意識が浮上する。
一切無駄のない俊敏な動きでアラームを止める。
音をできる限り速く止めるために。
(自分が世界一アラームを止めるのが速い自信がある)
うんうん、と捏島は虚空に向かって頷く。
音を出したくないのであれば、そもそも目覚ましをかけるべきではないのだが、そうでもしないと起きられないので仕方なくやっている。
着替えるときは、別にこれといった特別なことはしない。
最低限静かにしていれば何も起きることはない。
朝ごはんは、基本食べない。食べられない。
このミッションが、一番難しい。
音を立てたら、終わりだ
ドアノブをこれまでにないほどゆっくり回し、1ミリずつ扉を開けていく。
開いた隙間から顔を覗かせ、周りを見渡す。
(ふぅ〜、敵は居ないみたい)
ほっと胸を撫でおろす。
足音を立てないよう。足先からゆっくりと地面に足をつける。
この技は、俺が戦いのミッションを達成していく中で習得していたものだ。
こうすると足音がなりにくい。
順調に進んでいた。
玄関まであと少しだ。
そのとき、「もう知らないッッッッ!!!!」とヒステリックな声が耳をつんざく。
あ、と言う暇させなかった。
ドアがガチャリと開き、隠すことなく負の感情を撒き散らすバケモノが出てくると、心臓が凍りつくような感覚になる。
「なんで…………」
「なんで居んのよッッッッ!!!!!目に映らないでって言ったでしょッッッッ!!!!!」
喋る暇さえなく、バケモノの攻撃が飛んでくる。
あー今日はもうゲームオーバーか
パシンッッッッ
臨時ミッション!
走る!!!!!
現在進行形で遅刻しそうだ。
まーずい。とてもまずい。
荒くなる息、足が疲れる。
(見えた!!!!!校門!!!!)
ぱっと希望に顔が明るくなる。
校門の方に俺の担任、猿山らだお先生が立っているのが見える。
怒られるかな。なんて思いながら足を速める。
らだお君が捏島急げー。と呼んでいる。
それにもっと足を速める。
あと本当にもう少し!!!
キーンコーンカーンコーン
「あっ」
ズシャーッッ
チャイムがなってしまったことに気を取られて足がもつれる。そのまま転んでしまった。
膝を擦りむいたようだ。ズキズキと痛む。
「捏島ッ!!!!!」
先生が走ってきて大丈夫か?と言う
「遅刻だぁぁああうわぁあああああああああ」
足のことは一切気にせず、遅刻したことを深刻に思う。
ミッション失敗だぁと残念に思う。
「捏島……その傷………」
「?あぁ…この”膝”の傷?痛いよらだおく〜ん」
先生は少しバツの悪そうな顔をしてから保健室いくぞ。と俺に目を差し出してくる。
つかめという意味だろう。その手をとる。
「っしょ…」
と、先生が俺を引っ張る。
足に力を入れたためズキっと痛んだ。
ふいに体がふわっと宙に浮く。
「えっ」
「なんだ捏島」
絶賛お姫様抱っこをされている。
小6男子が。男子教師に。
何の需要もない姫だっこだな。なんて思いながら先生の顔を見る。
整っているな。と、いつも思う。
走りながら揺れる黒髪が綺麗だ。
大先生よりかは明るい藍色をしている瞳は自然なように揺れている。
「らだおくん、俺重い?」
「いいや?むしろ軽いくらいだぞ。ちゃんと食べてるか?」
先生は俺のお母さんかなんかですか?と笑ってみせる。
「お母さんになってやってもいいぞ〜」
と先生が冗談で言ってみせる。
俺は少々黙り込んだあと、言った。
「先生が………先生が、お母さんが、よかった、です」
先生は無言だった。
別に答えなんて要らなかったけど。
本当に、そうだったらなんて、思ってしまうんだ。
「はいできた」
血がにじんでいた膝は丁寧に消毒され、大きな絆創膏で手当がされている。
保健室の先生が出張のため、先生が手当をしてくれた。
「ありがとうらだおくん!!」
大げさに、子供らしく膝をバタバタと動かしてみる。
「あんま動かすなよー」
「はーい」
注意されたので足を止める。
「で、まー俺が聞きたいのは遅刻したこともだけど、そのほっぺの傷。」
俺の顔のほうを指さす先生。
その先にはガーゼがテープで止められている。
「これは転んだときに………」
姫だっこされているときに、聞かれるだろうなと思い言い訳は考えていた。
戦争では予想することも大事なのだ!!
無言
返事が怖い
なんていうんだろう
どきどきと鼓動がする。
あまりに激しく鼓動するものだから、心臓がどこにあるか分かった。
「ふーん…」
返ってきたのがあまりに素っ気ない返事で気が抜ける。
内心ほっとしながら息を吐く。
「捏島」
「はっ、はい」
ふいに名前をよばれ身構える。
「俺のこと頼ってくれよな」
あまりにも、見透かしたように笑うから、言葉がでなかった。
「あんまり一人で抱え込むなよ」
ワシャワシャと髪を撫でられる。
まだ、両親にもされたことがない。初めての感覚だった。あったかくて、少し小っ恥ずかしい。
たしかにそこには心があった。
放課後、一人で公園のブランコをこぐ。
寄り道をしてはいけないんだけど、やむを得ないのだから仕方がない。この前先生にも言われたばっかりだ。らだお君じゃない先生。名前も覚えてない。別にどうでもいい。
これは”戦略的”撤退だ。
ただ寄り道しているんじゃない。
誰かに見つかったら、怒られるのかもしれない。
それがロボロだったら尚更怒られる。
来ませんようにーと適当に言いながらブランコを漕ぐ。
「おー来てもうたわ」
声の主の方を見る。
へらりと笑いながら、もう片方のブランコに座ってくる。
「なんや大先生。なにしにきたん」
「んー、ブランコ漕ぎに来た」
ふーん。と素っ気なく返事をする。
「シッマは何してんの?」
「俺は…」
「なにしてるんやろ……」
自分は、何をしているのだろう。
戦争をしている?ブランコを漕いでいる?
戦略的撤退?
わからん。と結論づける。
「なぁシッマ。空綺麗やと思わん?」
「ん?あーせやな」
2人でブランコを漕ぎながら上を向く。
季節は秋と言う感じで、冬が近づき肌寒くなってきている。
こんな時期に半袖なのはロボロくらいだろう。
夏の頃より日が落ちるのが早くなり、四時半の今は、少し薄暗い程度だ。
青、橙、桃。少し、薄いというか、淡いというか、そんな酷く澄んだ空色。
「……なんやジロジロ見て…気持ち悪い」
視線を感じ、それが大先生のものだと気がつく。
「ひどいよぉ〜〜いやぁ、シッマの目、空みたいよなぁって、」
そう言って笑う大先生。
いつものヘラヘラした笑顔ではない。
ひどく大人っぽく、まるでそこに大人がいるように思わせるほど雰囲気が落ち着いている。
緩やかに弧を描くその口元から、白く儚い息が漏れている。
さみぃ、と身体を震わせる。
「俺、帰るわ…シッマは?」
「あー……俺は………………」
「そっ、あんま遅くならんようにな。寒いし風邪ひきなや。」
俺が答えなくても感じ取ってくれる。
「お前は俺のおかんか」
母のことを、おかんなんて呼んだことはない。
「なってやってもええで 」
なんて、いつも通りヘラヘラ笑うから、笑うから、苦しいんだ。
「まぁ、シッマきいつけてな。あんまり遅くなるようやったら”また”先生んとこいきぃや」
じゃ。と手をフラリと降って俺に背を向ける大先生。その遠のく背中を、ただ見つめていた。
「先生、きました」
「ん?おー捏島か」
座れーと、椅子を手で叩く。
そこへ座る。
こんなふうにここにくるのは初めてじゃなかった。今年の夏前からたまに、いや結構きている。
夏の時間帯は、5時くらいからここにいて、冬になり始めの今は4時半くらい、暗くなってきたなと思ったら学校へ行くようにしている。
いつも、学校へ行くと宿直室がいつも光っている。先生がいて、安心する。
先生は、パソコンをカタカタして、難しそうな顔をしている。
先生を見ていると、保健室で言われたことがずっと頭の中でぐるぐるしている。
「らだお君…」
「ん?」
「保健室でさ、戦争どう思うか聞いたやん?」
「おーそうだな」
「らだお君って戦争したことあるの?」
少し考えてから、どうだろうなと随分とあっさりとした答えが返ってくる。
「お前の言う戦争の意味は何となく分かるよ」
なんでなん?と聞いてみる。
「先生はエスパーだから。捏島の考えることはなんでも分かるのさ」
ドヤる先生。呆れる俺。
教師と生徒の図がそこにあった。
「嘘だぁ」
「ほんと」
「え〜? 」
信じられへん。とクスクス笑う。
「じゃあせんせーおれ今何考えてると思う」
「ん?えーーーー……そうだなぁ……」
先生は俺を足先から頭のてっぺんまで何回か見る。
「そーだなー…………ここにいたーいとか?」
案外当たっているのですごいと感嘆の声を漏らす。
「正解は帰りたくないでした〜」
「あってんじゃねーか」
「意味的にはね」
「せんせー、俺帰るわ」
「お、自分で言うなんて珍しい」
「まぁ……」
暗いからから送ってくよ。と先生が席を立つ。
黒い上着を取ってそれを着ずに手に持っている。
先生と二人で宿直室を跡にした
「ほら、寒いだろ」
と先生が黒い上着を羽織ってくれる。
「え、らだお君こそ……」
「俺はジャージ着てるから大丈夫なの〜」
と、ジャージのチャックを一番上まで上げる先生
「捏島ん家はどんな家?」
「んー…普通ですよ」
そっ、といつも通り短く素っ気なく答える先生
(俺の考えてることほんとに全部分かってそうで怖いんよなぁ)
宿直室でのことを思い出しながら考える。
先生は本当にエスパーなのかもしれない。
(あ、今日食料調達してない……兵糧買わないとな〜)
「せんせ、コンビニ寄ってもいいですか?晩御飯買いたいです」
「あー……いいぞ〜先生も買おうと思ってたから今日は奢ってやるよ」
お菓子も買っていいぞ。と先生が言葉を続ける。
「前大先生ん家で食べたお菓子が食べたいです」
「俺はわからんからコンビニで見て決めてくれ」
「先生は…戦争ってどう思いますか…?」
先生に買ってもらったお菓子を食べながら、俺は何時の間にか”それ”を口にしていた。
俺が言う”戦争”は、両親と戦うことだった。
いつも大喧嘩して、ずっと、昼でも夜でも、顔を見たら口論が始まる。
いつしかそれを銃撃戦だと思うようにった。
親が帰ってくるまで、もしくは帰ってしばらく経ったであろうときに家に帰った。
公園でいつもブランコに乗っていた。
大先生たちとゲームもした。
何度も先生を訪ねに宿直室へ行った。
それを俺は戦略的撤退と呼んでいた。
食料のことを兵糧とよんだ。
少しでも思い込みたかった。
コンビニでご飯を買うことを食料調達なんてよんだ。
「戦争?いきなりだなー……うーん……」
先生が足を止め、顎に手を置き考えている。
「戦争自体、人が死ぬし、いいことじゃないのかもしれないけど……」
「戦うって、すごいことだと思うよ」
自分の手を見つめながら、どこか寂しそうに言う先生に、少し戸惑う。
「戦うってそういう、”国と国が行う戦争”だけじゃないと思う。人間誰だってさ、戦う時があると思うだよ、俺。回数とか、タイミングとかは人それぞれかも知れないけど、戦わなければならないときは誰しもが来るわけで、経験する道。」
「俺も、お前も、これから先、あるいは昔、現在戦ってるのかもしれない 」
こちらの目を見て、先生が目を細める。
「勝とうな、捏島」
俺を見つめる先生の目は、自分自身の目と、同じものだった。
「どうやって勝ちましょうかね。やっぱり戦車でも買わないと………」
「え」
「鉄砲も普通にいりますね」
「え〜物理的〜w 頼むから町は破壊しないでくれよ」
「ここまでで大丈夫です」
「ん?そうか?」
家の少し手前くらいまで来たところで足を止める。
「あとは1人で大丈夫です!ありがとうらだおくん!!!」
「いえいえ〜」
先生は深追いしないから、すきだ。心地良い
「んじゃまた明日な〜」
「はい!じゃあねらだおくん!」
先生は俺の姿が見えなくなるまで手を降ってくれていた。
「た、ただいま…………」
辺りは静まり返っている。
まだ親は帰ってきていないようだ。
少し安心し、自室まで走る。
夜はもうすぐだ
「〜〜〜〜!!!?」
「〜〜!!!!!」
今日もいつも通りの銃撃戦。
いつも通り
ただ、捏島だけがいつもと反して笑顔で、満面の笑みで布団の中に潜っていた。
「先生、俺勝ちますよ」
誰にも聞こえぬ小さな声が、夜に響いた
あとばなし
今回はいつもより長くなりました〜〜!!
捏島が主人公の話をどうしても書きたくてw
こっから個人の解釈やこの話の説明?解説をしていきま〜す
捏島が、普段の生活……まぁ、特殊ですが、それを”戦争”と呼ぶのは、逃げていることを否定したいからです。
親に暴力を振るわれても、反論もしない。できない。児相などにも相談しない。
親が帰ってくるまで、もしくは口論が収まるまで捏島は公園などで時間を潰します。
捏島はずっとその”逃げている”ことを、悔しく、愚かだと思っていました。無力な自分が大嫌いでした。
でも、気が付きました。”逃げている”よりも、”戦っている”の方がよっぽど聞こえがいいことに。
それから、「自分は戦っているんだ!」と思うことで、少し心が救われていました。
そこから、口論のことを”銃撃戦”と例えたり、公園や猿山の所へ逃げる……行くことを”戦略的撤退”
と呼ぶようになりました。
戦時中、軍隊の食料とことを兵糧といいます。捏島は、少しでも戦争気分になるため、食べ物のことを兵糧と呼ぶようになりました。
食料調達はほとんどがコンビニです。たまにお母さんの料理を食べます。コンビニのご飯を食べるほうが、味的にはおいしいのかもしれないけれど、捏島はお母さんの作る料理が不味くても、それが料理と言えなくても、世界で一番おいしいのかもと感じました。
親が嫌いなわけではないんです。100%嫌っているわけではありません。
嫌いな部分ももちろんあります。
でも、好きだから、仲良くしてほしいという思いがあるから、捏島は願いました。あの神社に。
猿山も、過去に捏島と同じような、あるいはもっと酷いかもしれません。そんなことをされていたので、捏島の気持ちが手に取るように分かります。猿山も戦っていました。
ただ、捏島が少しでも両親を思う気持ちは理解できないでしょうね。
猿山はあんな両親死んだほうがマシ。消えてほしいと思っているでしょうから。
いずれにせよ、捏島は銃を手に取ることになりますね。刀でしたっけ?重要なところ忘れてしまおました(^o^;
また呪鬼見返さないと!!
捏島は、猿山を殺す…封印します。
先生を撃ちます。
嘘だったらいいのに(´;ω;`)
呪鬼って切なくていいですよね。ほんと大好きです。
前回も沢山のいいねありがとうございました!!
めためた嬉しくてにやにやでした(^^)
時間ください本当にごめんなさい
次回…♡400
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