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サキュロス様が突如父の神殿へと訪れ、シドの取り合いが始まってから一週間程度が経過した。
その間。まずは容姿からと水着勝負に始まり、お菓子作りや掃除洗濯などの家事力の勝負などなど。私かサキュロス様のどちらかにシドが惚れてくれる様にと色々やったが……正直、サキュロス様は本気で取り組んでくれている感じがしない。
そもそも勝負の意図を汲み取ってくれていなかったり、お色気に特化し過ぎて失格になったり、他人任せにしたせいで私の不戦勝になったり。
まるで、くだらない事を私にさせて、真剣に取り組む滑稽な姿を見て遊んでいる感じさえする。
本気でサキュロス様が勝ちにこないので、勝負の後の二人きりの時間は全て私とシドがすごしている。その事は嬉しいのだが、嬉しいのだが……『私は一体何をしているんだろう?』と不思議でならない。
「サキュロス様は、何を考えているのかしら……」
お風呂からあがり、夜着に着替えながら私は一人呟いた。
「ピャァ……?」
首を傾げ、シュウも『さぁね、何だろうね?』と言いたげな顔をする。言葉は交わせなくても、こういったやり取りで会話が成立するのがとても嬉しい。
「そもそも、本当にシドの事が好きなのかしら?面白い玩具を偶然見付けて、それを欲しがってる程度にも見えるんだけど……私の気のせい?」
バスタオルの上に座ったままでいてくれていたシュウの体を小さなタオルで軽く拭き、風の魔法を柔らかく当てる。彼の体がすっかり乾くと、肩に乗せて私達は寝室に向かった。
私の言葉に対しシュウが反応してくれるのを目視しながら、天蓋付きのベッドに腰掛ける。いつまでこの勝負が続くのかと思うと深いため息を吐いてしまった。
平等である為にと、勝負の時しか私とサキュロス様はシドに会えていない。シドが事故でシュウと共に召喚されて来てからというもの、ほぼ一緒に過ごしてきたせいか、こんなに短時間しか会えない事が悲しくてしょうがなかった。
そのせいか、側に居たい、離れたく無い……そう思う気持ちが、逢えない事でより強くなる。
そうなってくると、やっと『自分が何故そう思ってしまうのか』という根本的な問題を考える事がここ数日の間で出来る様になってきた。
父からも母からも、『どうしてそう思うのか考えなさい』と何度も言われたのに先送りにしてきたが、そろそろ真面目に向き合わなければ。
(だって……シドが私をお嫁さんにしたいと思ってくれているのだから!)
……ちょっと違ったかしら? まぁいいわ、そんな感じである事には変わりないはず。
夫婦になれば、彼と一緒に居たいと思う気持ちが満たされる。シドが他の人と一緒になり、私から離れる時間も無くて済む。『使い魔』という立場上、私がシドと結婚してしまえば、それこそ四六時中公認で傍に寄り添っていられるのか。
(まぁ!夫婦って素晴らしいわ!私の両親みたいね!)
シドには私が求める喜怒哀楽がしっかりあるし、男らしい顔立ちも大好きだし、筋肉質で大きな体は寄り添うだけでもドキドキしてしまう。
(ドキドキ、するのよね、とても……とっても——)
「……あら?私も、もしかして……シドが好きなんじゃないかしら?」
ふと思い至った考えをボソッと呟いた瞬間、カッと頰が真っ赤に染まり、私は布団の上にバタンと勢いよく倒れ込んだ。
「ひゃぁぁぁぁ!」と照れ隠しの奇声を上げ、顔を両手で隠しながら、右に左にとゴロゴロ転がる。
……ずっと答えは目の前にあったのに、初心過ぎて見えていなかった。
恋心の存在がわかった瞬間、何故今まで全く気が付かなかったのか不思議でならなくなった。最初から、それこそシドを一目見たあの時からずっと、私は彼の虜だったというのに。
「ど、どうしよう、どうしよう……シュウ」
私がベッドに倒れた時。すかさず潰される危険を回避しようと、肩からベッドの上に自ら飛び降りたシュウに向かい問い掛ける。すると短い両手を『やれやれ』と言いたげに上げられ、ため息まで吐かれてしまい、妙に人間っぽい仕草にちょっと驚いた。
「私……今まで随分大胆な事を色々とシドにしてしまってきたけど、彼は嫌じゃなかったかしら。それこそ、サキュロス様みたいにちょっと、ちょっと……胸とか、その……」
何も考えず、無意識のまま頭に胸を押し付けてしまったり、首に抱きついたり、腰に抱きついたりなどなど。自分がしてきた数々の行為を思い出すと、恥ずかし過ぎて顔が青くなった。いっそ今すぐにシドの元へ行き、全ての記憶を消去したいと思う程に。
(それが無理ならば、もう消えてしまいたい……あ、駄目だわ……何があろうともシドの傍に居たいもの)
チラッとシュウに向かい視線をやると、先程の答えなのか、首を横に振っていた。
「それは……シドに私は、嫌われてはいないという意味?」
私の問いにシュウが「ピャッ!」と言いながら首肯してくれる。その姿に自信を貰い、気持ちが明るくなった。
(私をお嫁さんにしたい彼と、シドが好きな私。あら、私達ってもしかして両思い?)
「きゃぁぁぁぁ!」
自分の中で出た答えが嬉し過ぎて、歓喜の悲鳴をあげて、また右に左にゴロゴロゴロ。
「明日からどんな顔でシドに逢えばいいのかしら?」
嬉しくて、恥ずかしくて、どうしていいのかわからない。
「……困ったわ」
仰向けになり、口元を押さえながらそう呟いた瞬間、天蓋の方が淡く光りだし、大きな青い光を纏った五芒星の魔法陣が突然現れた。
驚きに声をあげ、私は咄嗟にベッドから逃げようとした。見た事の無い術式が光で描かれていて、どんな魔法なのか見当が付かない。攻撃魔法だったり、呪いや強制転移魔法だったら取り返しがつかないので私は慌てて体を起こそうとした。
だが、体が全く動かない。鎖で幾重にも縛り付けられたかの様な状態だ。
焦った私はシュウに助けを求めようと彼を見たが、彼は後ろ足だけで座り、目を光らせ魔法陣と連動するかの様にジッと私を見詰めているだけだった。
シュウの変異に、更に追い詰められた気持ちになった。
(一体誰が⁈)
『——心配ないぞ、愛しいロシェル。ワシの眼に狂いは無い。ワシの選んだ運命の相手に、全てを捧げよ』
突如、遥か昔に聞いた事のある声でシュウが喋った。とても低く、地を這うような声なのに妙な懐かしさを感じるのに、正体がわからない事からくる不安で背筋が凍る。シュウ本人が話しているというよりは、まるで何かに取り憑かれたみたいだ。
(取り憑かれるとしたら、何に? 知ってる声、話し方……でも、誰?誰だっけ⁈絶対に知ってる……待って、それよりも『捧げる』って、何を?)
何の魔法が発動しているのかわからない恐怖と、答えまで手が届かないモヤモヤとした感覚で頭が一杯になる。
だが、私は答えを得る間も無く、その青く光る魔法陣へと吸い込まれてしまったのだった。