理紗子がそんな過去の事を思い出していると、美和が健吾に向かって言った。
「健ちゃんもこういう事をするならちゃんと説明してから連れて来てあげないと! 女性にお金の心配をさせるなんて、男とし
てはまだまだね!」
「参ったな…また叱られちゃったか…」
健吾は苦笑いをしながら言った。
それから今度は理紗子に向かって言う。
「今日は俺の店で嫌な思いをさせてしまい申し訳なかった。この服はお詫びの気持ちとして受け取って欲しい。あと君はSNS
でうちのカフェをかなり宣伝してくれていたようだね。そのお礼の気持ちも込めてと言う事でどうだろう?」
「えっ? 私の事を知っているのですか?」
「ああ、実はうちの妹が大ファンなんだ」
健吾はそう言って微笑む。
理紗子はそこで「ああそういう事だったのね」と納得したが、それでもこんな高価な物を見ず知らずの人に買ってもらう訳には
いかない。
先程試着した際に値札が見えたが、おそらく上下で二十万くらいするはずだ。
恐れ多くてそんなものを受け取る訳にはいかない…….そう思っていると、
「お待たせいたしました」
女性スタッフが健吾にクレジットカードを返しに来た。
そしてもう一人のスタッフが、理紗子が来ていた服をショップ袋に入れて持って来てくれた。
理紗子は礼を言って受け取ると、何も言えないまま健吾に腕を引っ張られて出口へと向かった。
「美和さん、ありがとう! じゃあまた!」
「またお待ちしていまーす! 理紗子さんもまたいらしてね!」
美和が素敵な笑顔で理紗子を見送ってくれたので、
理紗子は慌てて会釈をするとそのまま健吾に引っ張られて店を出た。
店を出ると理紗子が言った。
「あのー、逃げませんからいい加減に離していただけませんか?」
「いや、隙あらば逃げようとしているのが顔に出ているよ」
健吾はそう言ってニヤリと笑う。
その手を緩める様子もなく、歩道を歩き始めた。
「はぁーっ」
理紗子はため息をつきながら仕方なくそのまま健吾について行く。
すると健吾がすぐに歩みを止めた。
そこは美和が言っていた二軒隣の靴店だった。
「スニーカーだとシンデレラに逃げられそうだから、ここでガラスの靴を買うとしよう」
健吾は再びニヤッと笑うと、理紗子の腕を引っ張って店の中へ入って行った。
二十分後、理紗子は上品なベージュのエナメルのパンプスを履いて店を出て来た。
靴店では年配の女性店員と健吾が二人で相談して靴を選び、今理紗子はその靴を履かされている。
理紗子が店内でした事といえば、差し出された靴の履き心地をチェックするだけだった。
靴が置いてあった棚には、これまた恐ろしい値段が表記されたプライスプレートが置かれていたようだが、
健吾が店員に指示をしてその値札を倒して理紗子に見せないようにする。
(私は着せ替え人形か?)
半ば諦め気味に自分で突っ込みを入れながら、理紗子は言われるがままにその靴を履いて出て来た。
もうこうなったら素直に礼を言って帰ろう。
そうすればこの訳の分からないスパダリ男からは解放されるのだ。
そう思った理紗子は、思い切り作り笑いを浮かべながら健吾に言った。
「あの、今日はありがとうございました。こんなに良くしていただいて、正直かなり戸惑っておりますが、でもせっかくなので
有難く頂戴させていただきますね。では…」
理紗子はくるりとターンをして、そのまま逃げようとした。
しかしその瞬間腕をギュッと掴まれてしまう。
「いやこちらこそ…今日は本当にすまなかったね。ところで、まだ時間は大丈夫?」
「へっ?」
もう解放してもらえると思っていた理紗子は、それが儚い夢である事に気づく。
そしてあまりの絶望感につい変な声が出てしまった。
そんな理紗子の様子に健吾は笑いをこらえながら言った。
「少し遅くなったが、ランチを食べて帰ろう」
「え? でも、もう家に…….」
理紗子が帰りたいという意志表示をすると、健吾は言った。
「あと一時間だけ! それが終わったらタクシーで家まで送るから」
口調こそはお願い形式だったが、その行動は有無を言わさないといった風で、
健吾は既に理紗子の腕を掴んで歩き出していた。
しかし買ったばかりのヒールを履いている理紗子を気遣い、歩く速度を落としてくれている。
(あら? 結構気配りが出来る人なのね…)
理紗子がそう思いながら歩いていると、すぐ目の前に洒落た店が現れた。
カジュアルフレンチの店のようだ。
健吾がこの店でいい? と聞いたので理紗子はうんと頷く。
それから二人はその店へ入って行った。
コメント
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健吾さん、必死ですね🤭 2年越しで出会えたんですもんね~🩷
スパダリ健吾さんの足りない部分を美和さんがサポートしてくれて良かったね、健吾さん🤭 理沙ちゃんにしたら言われのわからないプレゼントで逃げたい気持ちはよーく分かる🥴けど、もう離してくれないよ❣️だって健吾さんがずっと探していた人だもん🤭