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こうしてアルバイトが始まったけれども。

やっぱり、榊くんのわたしへの当たり方はすっごく厳しくて。

ドジだの、トロいだの、グズだのと言われ続けて、はや2週間―――今に至る…。

一緒に働けたら、きっと毎日ドキドキワクワクして楽しいだろうな、って思ってたのに、見当ちがいもいいところ…。

一番つらいのは、

「やめちまえ」

って言われること。

だって、そう言うってことは、わたしなんか『いなくてもいい』。『どうでもいい』って思ってるってことでしょ?

好きな人にそんな風に思われるなんて…つらすぎるよ…。





「だからちがうだろ。何回言ったら覚えるんだよっ」

本日2回目。

榊くんの雷。

うちのメニューにはそれぞれ決まったアピールセリフがあって…(そう、アイドルが自己紹介する時みたいなお決まりのセリフ)、お客さまにメニューのことを訊かれた時ににこやかに笑って言ったりする。

それをわたしはいまだに言えずにいた。

「っとバカだよなおまえ。頭ザルなのかよ。それとも、サル並みの記憶力しかないとか?」

と、わたしの頭を指で小突く。

榊くんにさわられるのはドキドキするけど…

「サルなの?ザル頭なのー?」

なんて乱暴につつかれては、トキメキなんか皆無。情けなくて胸が苦しくなる。

「ごめんなさい…。ちゃんと覚えていんだけど…お客さまを前にしたら混乱しちゃって…ごめんなさい…」

「ありえね。なんでそんな性格して接客業やろうと思ったんだか」

…あなたのことが、好きだからだよっ。

「おまえ、とっととやめろよ」

押し黙るわたしの頭を最後に強く小突くと、榊くんは冷やかな声で続けた。

「いい加減迷惑なんだよ。おまえみたいなのの指導係になった俺の身にもなってみろ」

「……」

「もっと向いてんのあるんじゃねぇの?人前に出ない裏方の仕事とかさー。てかバイト自体無理っぽ……って…おい」

がんばってこらえていたけれど。

ついに弾けてしまった。

「……泣くなよな」

「ったく」って、怒ったような困ったような舌打ちが聞こえる。

ごめんなさい…。

と謝ろうとしたけれど、そんな声すら出てこない。

くやしくて、ただ悲しくて。

「ああもういい、休憩いってこいよ」

ぐしゃ、と顔に紙ナプキンを押し当てられた。

「早くいけよ」

ちいさくうなづいて、わたしは逃げるようにお店の奥に向かった。

もう最悪だ…。

高校生にもなって、しかも好きな人の前で泣くなんて…。

「はぁ…」

歩きながら硬いナプキンでごしごし涙を拭いて休憩室に入るなり、わたしはテーブルにつっぷしてため息をついた。

気分は最低。

心も身体もクタクタ。

買ったばかりなのに、もうヨレヨレになっているメモ帳を開く。

中は真っ黒。

初めてのアルバイトは、なにからなにまで覚えることが一杯。

基本的な接客マナーから、配膳、下膳の仕方、ドリンクやデザートの作り方などなど…。

なかでも一番苦手なのは、メニューの説明の仕方。

もう頭の中には完璧に入っているんだけれど…お客さまの前に立つとどうしても忘れてしまう。緊張しちゃって。

そもそも、わたしは人前に立ったり話したりするのが苦手だ。

ましてや年上の人で、お金を払ってくれるお客さまって立場の人となら『ちゃんとやらなきゃ』ってなおさら緊張しちゃって、一生懸命覚えたことも真っ白になってしまう。

はぁ…わたしって本当にどんくさくてダメダメだ…。

憧れの榊くんには怒られてばかりだし…。

こんなんじゃ、告白どころか同じ店員仲間っても認めてももらえないよ…。

つん…とまた鼻が痛くなる。

わたし…榊くんのこと、あきらめた方がいいのかな…。

「日菜ちゃん」

「わっ」

突然後ろから肩を叩かれて振り返ると、ニコニコと人懐っこい笑顔がすぐ近くに…

「きゃっ!!」

真っ赤になって離れると、笑顔は気づかうような表情に変わって、見下ろしてきた。

「だいじょうぶ?今日も晴友にイヂめられてない?」

同じホールスタッフで先輩の、二科拓弥(にしなたくみ)くんだ。

拓弥くんもわたしや榊くんと同じ17歳。

榊くんに負けず劣らずきれいな顔をしていてスタイルもいいから、すっごい人気がある。

ハチミツ色の髪やくるくる回る表情が「ワンコみたいで可愛い!」って、年上の女のお客さまから特に評判がいい。

「う、うん、大丈夫だよっ。ちょっと疲れたから休ませてもらってるだけ」

「本当にぃ?晴友にまたきっつーいこと言われて落ち込んでいるかなって心配したんだけど。

何かあったらすぐに俺に言ってよね?しょーこさんに頼んで、すーぐに日菜ちゃんの指導係を俺に替えてもらうから!」

「う、うん…ありがとう、二科くん」

「だめだめ!俺のことは名前で呼んで、って言ったでしょ?」

「そ…そだったね…。えっと、た、拓弥くん…」

おずおず言うと、拓弥くんはうぅーんとうなって両手でガッツポーズをした。

「いいなぁ、日菜ちゃんのかわいい声で『拓弥くん』って!ドキドキしちゃう!

ね、も一回言って?」

「え…?」

「ね、言ってよ、『拓弥』って」

よ、呼び捨てになってますけど…。

って、言い返す余裕もあたえず、拓弥くんの大きな目が近づいて来る。

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