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「よし。まずは、この『|ハコブネ《惑星》』についての話を先にしようか、のう」
「小学や中学の時点で全て習っているぞ?」
「あ、いや。地理、構造や主成分とかに関しての話ではない、のじゃ。もっと根底の、始まりについてといった所だ、じゃな」などと、己の言葉遣いへの違和感をガン無視し、遠い目をしながら私は、私も前任の『管理者』から随分昔に聞かされた話を彼に語り始めた。
——悠久の昔。
原初の宇宙に黒い靄の様なモノが誕生した。意思があるが、ただそこに『ある』だけで、何の目的も存在理由も無く、真っ暗な宇宙の中で身近にある全てを強欲に飲み込みながら、その『モノ』は、ただただ意味も無く彷徨い続けた。『自我のあるブラックホール』みたいなモノであると言えば多少はわかりやすいかもしれない。
永い永い年月を経て、その『モノ』は『とある惑星』の存在に気が付いた。
それは、青く輝く美しい惑星——
『地球』だ。
どの星よりも青く綺麗に輝き、暗黒の宇宙空間の中で異彩を放っているその惑星に異常な程強い興味を抱いたが、その『モノ』が近づけば全てを飲み干してしまう。欲しい欲しいと我慢が出来ず、太陽系の絶妙なバランスをいとも簡単に壊せてしまう自分ではこれ以上近づく訳にはいかない。失わぬ為にと我慢に我慢を重ね、遥か遠くからただ見詰める事に徹した。
じっと、じーっとひたすら観察し続けるうち、その想いはもう『恋焦がれる』に近い感情へと昇華した。だが、その想いは応えてもらえる様なものではない事はわかっている。強く深いこの想いは永遠に届かず、押し付ける事も、欠片であろうと認知すらしてもらえない。だからって、せめて寄り添おうと近づけば腹の中に収めてしまってもう『観る』ことすらも出来なくなる。そのせいで悶え苦しみ、苛立ちから飲み込んだ星の数はもう、数え切れぬ程になった。
気が狂いそうな日々を悶々と過ごすうちに、その『モノ』は、ふっととんでもない考えに行き着いた。
己も、『アレ』と同じになればいいのでは?——と。
“素材”と言える物は、それこそ星の数程腹の中にある。思い付くまますぐに粘土のように我が身を変化させ、その『モノ』は自分自身を『地球』に似た姿に変えていった。青い海、広大な大地、清浄な大空と無数の植物。
——こうして、『超越者』とも呼べる程のその『モノ』は、自らを『コピーキャット』に貶めていったのだ。
「……ストーカーか?」
私の話の腰を折るように、叶糸がポツリと呟いた。気持ちはわかる。盗撮写真を部屋中に貼りまくるタイプの|ストーカー《それ》に『あやつ』はかなり近い精神構造だろうから。
「まぁ、そう言わないで、な。まんまそうとしか言えないのはわかるけど、じゃが」と、また下手な語尾を無駄に無理矢理付け足してしまう。口調がブレブレ過ぎてもう逆にコレでいいのではと思えてきた。
流れを戻そうと、短い手を口元に必死に伸ばしつつ一度咳払いをし、私は話の続きを語り始めた。
——その『モノ』は『惑星』クラスの巨大な体を得てしまうと、意識が深く深く眠ってしまう事が多くなった。これではなかなか『地球』の模倣が進まない。もっと、もっともっともっと同じになりたいのにだ。美しく輝く『|地球《かの者》』とより一層同じモノになるにはどうするべきかと考え、その『モノ』は自分の意識の一部を切り離して初代の『管理者』を異空間に生み出した。そして、『時間』の縛りや概念をも持たぬ『モノ』は過去・現在・未来のありとあらゆる時空から『地球』に関する情報を集めに集め、『管理者』にそれを与え、自分をより一層『地球』に近づけよと任務を与えた。
同時期に、『我が身』に対しては『地球』の物語から引用して『ハコブネ』と名付け、『精神』は『ノア』を自称し始めた。
『ノア』となった『モノ』の願いを叶えるべく『管理者』は奮闘したが、何の経験も知識も無い者がいくら膨大な情報を集めても、何兆ピースもあるパズルを組み上げていくような難易度だった。その情報元がフィクションなのか、リアルなのか、歴史の順番や時代背景などの精査をする余裕もなく、急かされるままに創られていった『ハコブネ』の仕上がりは『ノア』の満足出来るレベルではなかったせいで、何度も何度も『ハコブネ』は崩壊と再生を繰り返し、やっと今の姿に落ち着いた。その間、自分を含めて五、六人程度の『管理者』が世代交代をし——
「今に至る、と言う訳だ、じゃ」
話していない事ももちろんまだまだ多々あるが、このくらい語れば概要くらいは掴めるだろうと満足しておく事にした。すると叶糸は「……驚きだな」とこぼしたのだが、途中から私の体を軽く持ち上げて、モフッとした背中に顔面を突っ込みながら話を聞いていた君の方に私は驚きを隠せない。
「……ところで、何故、そこで呼吸を?」
こちらはずっと真面目に話をしていたのだ、ドン引き過ぎて素で訊いてしまう。
「可愛い手を口元に運んで咳払いとかするから、つい」
「そ、そうか」としか返せずにいると、膝の上に私の体を戻し、満足気に叶糸がふふっと笑った。
「それにしても、本当に驚いたな。ハコブネの正体が、巨大な一個体の生き物だなんて。しかも見た目だけは瓜二つの『地球』とかいう惑星が遥か遠くにあるとか……実に興味深いな」
「『地球』の方は科学技術で栄えている惑星で、こちらでは一向に生み出せないであろう技術なんかに関しては、我ら『管理者』がこちらに『天啓』や『閃き』的な感じで最適な者達に受け渡している時もあるんだ、ぞよ。まぁ受け取れるだけのベースが無ければそれらは実現不可能で終わり、意味は無いが、今の所不都合は生じてはいないはず、じゃ。だが、魔法系の分野に関しては圧倒的に『ハコブネ』の方が上じゃな。向こうでは『魔力』はフィクションの中での代物で終わっているから、のう」
「『管理者』は他にもいるのか?例えば、他にはどんな事を?」
「交代制なので常に一人、じゃ。先程言ったみたいに、『地球』に似せるべく、あの惑星の英知を『ハコブネ』に授けたり以外にも、天候の管理や、眠る『ノア』が無意識に身を捩ったせいで起きる地震や噴火を最小限で済むように環境調整をしたりしている、ぞよ。文化や文明に関しては、もうここまで成熟してしまうと下手に手出しを出来なくて、な……」
もうほぼ放置状態であることは口にしづらい。戦争でも起きそうだとあれば流石に関与するが(『ハコブネ』を汚すに近い行為は『ノア』がキレるから非常にマズイのだ)、個々の不幸や境遇にまで気を配っていく程の余裕は無いなどとは、まさに不幸な境遇の真っ只中にある者に対しては、流石に。
「マーモットな君は、随分重い責任を背負っているんだな」
「“私”をマーモットにしたのは、お前じゃぞ⁉︎」
頑張って振り返りながらそう叫ぶと、叶糸が口元を両手で覆って震え始めた。このムッチリボディのムッチリ具合がより強調されているせいだと思う。
「君に、何かをした記憶は……」とまで叶糸が言いはしたが、途中からアレやコレやと思い付いてしまったみたいな顔になった。でも、体に顔を埋めてきたり、そのまま深呼吸をされたり、果ては背中に精液までぶっかけられたがどれも違う。姿形を持たぬ私が『マーモット化』した原因は絶対に叶糸では気付き様がないので、ここはきっちり伝えておく事にしよう。
「私らの遭遇時に、君は、マーモットの動画を観ていた、じゃろう?」
「……そう言えば、寝る前の習慣で、動物の動画を何本か観てはいたかもな」
「あの時に多分、『モフりたい』だとか『触ってみたい』だのと考えていたんじゃないのか?」
「飼えないけど、そのくらいはしてみたいとは思っていたな」と叶糸が深く頷く。
「そのタイミングで、『私』が……『姿形を持たぬ者』だったが故に、君の願望が強く作用して、そう『認知』してしまったせいで、今の私は『マーモット』の姿になっている、のじゃ。なので私は決して、『マーモット』ではない、のだ!」
振り返ったままの状態でそう強く断言したのだが、残念ながら彼の『認知』が揺らぐ事はなく。私は相変わらずマーモットのままであった。
#コメディ
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