テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
28
たまごはんちゃーはん
「こ、好都合って…何が…!」
ひたすら戸惑う僕に、彼は口に人差し指を当てて片目を閉じる。窓から差す斜陽は、彼に不気味な雰囲気だけを残す。
「───読者は答えを見つけるんだよ。」
足が霞む。この人の演技は、気持ち悪い。決して下手ではないし、逆にうますぎるほどだ。…でも、そこなのだ。気持ち悪さは、うますぎる演技からきている。
───不気味な演技が、うますぎて。
───うますぎて、背筋が凍る。
───一瞬の場を、奪われた。
「……作家、ですか。」
僕がポツリと呟く。圧巻されていた空気を気合いで打ち破るように。そうすれば、相手もいつもの顔になる。
彼は僕の呟きに微かに頷きながらも、僕がこれから何を言おうとしているのかわかるような顔つきに、僕は余計腹が立つ。
「───作家なら、答えに導かせるヒントが必要じゃないんですか?」
僕の質問に、彼は笑顔で頷いた。
「そうだな…ヒント、ヒント…」
彼はぐるぐると回りながら考える素振りを見せる。
影が徐々に長くなる中、彼は思い至ったようにこちらをまっすぐに見つめ、微かな笑みで答えた。
「ヒントは、”思考”だよ。」
「はあ?」
僕が素っ頓狂な声を出すも、相手はそれに笑みを隠さずに笑った。
何を笑ってるんだ、なんて思っていると、相手は哀しそうな笑みで喋り出した。
「相手を思って、考えなきゃ意味ないんだよ。たとえどれだけ長く友達でも、たとえどれだけ趣味が合ってる友達でも、相手のことを考えられなければ友情は密かに壊れ始める。友情っていうのは、固くて傷みやすいからね。」
そんな彼は”時間取らせちゃってごめんね。教室帰ろっか”と喋って歩き出した。僕もそれについていくように、歩みを進めた。
ひどく静かな廊下。周りには誰1人としておらず、いるのはグラウンドで遊ぶ生徒のみ。
(…この人、僕たち2人のためにここまで来たのか。)
この先輩がぺいんとさんのことを知っているのならば、ぺいんとさんと同じクラスなのだろう。であれば、僕と彼の教室はほぼ対角にある場所だ。
お手を煩わせてしまったことに心の中で謝罪しながらも、僕自身が気になることを彼に聞くチャンスだと思った。
「───演技、してたんですか?」
僕の問いかけに、彼の肩がぴく、と跳ねる。少しの間沈黙が続くが、相手は鼻を鳴らし、僕の言葉に頷いた。
「好きなんだ。物語を創るのが。…だからと言ってはだけど、演技に関しても勉強しなきゃと思って。そうしたら、もし指示を出すときとかは役に立つかなって思って。」
でも、と彼は続けて話す。
「演技の指導の先生に気に入られちゃって、役者にしようって押されてね。結局、中学はずっと演技のことばっか。…物語は、一話も完成することはなかった。」
哀しげな背中に、さきほどの逞しさはどこかに消えてしまったように感じた。
それでいて、演技にこうやって苦しむ人もいるんだと痛感した。質問しておいて、僕は何の言葉も発せられなかった。
どう話を切り替えようか、繋げようか…。そればっかりを考えて。でも彼は、それでもお構い無しに話し続けた。
「だからかなぁ…後輩と親友には、演技を楽しんでほしくって。確かに自分はこんな気持ち悪い演技しかできないし、自分の演技が好きでもないけど……みんなの楽しそうに演技してる姿は、見るの好きなんだ。」
頬をかきながらも照れくさそうに言う彼に、僕は胸が締め付けられた。
彼は、演技も物語を創ることも大好きなはずだった。それなのに制限され、演技指導は本格的な役者への道へと進むばかりで。
だからこそ、あの空気を作れたのだ。本格的な役者にしか作れない、異様な空気感を。
「…ごめんなさい、嫌なこと聞いちゃって。」
僕がそう謝ると、相手は”じゃあ、”といって笑みを向ける。
僕が困惑する暇もなく、彼は言葉にした。
「ぺいんとのこと、知ってあげてくれないかなあ…?」
泣きそうな顔をする彼に、僕はギョッとした。慌ててポケットを探るも、ティッシュやらハンカチやらは持っていなかった。
「…ぺいんとが伝えてないのも悪いんだけどさ、でも、少しは考えて…少しは寄り添ってあげて。あいつ、凄いように見えるけど…」
「───ほんとはずっと、弱虫なんで。」
彼の懇願するような言葉に、僕は頷けずにはいられなかった。これは彼の願いなんかじゃない。そんな願いと言うほど大きなものではないけれど、それは確実に、僕たちを思ってくれての言葉だった。
嘘も偽りもない、まっすぐな言葉。
「……じゃあ僕の噂、そろそろ変えないとね。」
僕の噂は、ほんとうにちっぽけなものだ。友情の大切さに比べれば、宇宙と米粒くらい。…言い過ぎかな?…それでも、本当にそのくらいで。
コメント
2件
登場人物がどの様な仕草をしているか分かりやすい文で とてもイメージが膨らみました!!!!!!すごいです これからも頑張ってください