買い物を終えた二人は昼食を食べて帰る事にした。昼食には少し遅めの時間なので店も空いているだろう。
「何が食べたい?」
「うーん、お蕎麦?」
「了解」
二人は一度駐車場へ行き買い物の荷物を車に積み込むと蕎麦屋へ向かった。
気付くと理紗子の手は健吾に握られていた。
こうして手を繋いで歩いていると石垣島での日々を思い出すから不思議だ。ついこの間の事なのに遠い昔のように感じた。
3分程歩くと風格ある店構えの蕎麦屋に着いた。健吾がお気に入りの蕎麦店だろう。さすが富裕層は銀座の街を知り尽くしている。
「ここでいい?」
理紗子はうんと頷く。
二人が店に入ると、
「いらっしゃいませー、お二人様ですね。どうぞこちらへ」
50代くらいのおかみさんが笑顔で二人を案内した。
テーブル席は席と席の間が衝立で仕切られているので個室のように落ち着く。
店内の床は石畳で内装は古民家風の造りの素敵な店だった。
二人が席に着くとお冷を持って来たおかみさんに健吾が聞いた。
「蕎麦会席は予約していないと駄目ですよね?」
するとおかみさんはニッコリと笑ってから言った。
「お二人様でしたらご用意できますよ」
「じゃあそれをお願いします」
理紗子は『蕎麦会席』と聞いて驚く。そして小声で健吾に言った。
「普通のお蕎麦でよかったのに」
「ここの会席は美味いぞ。どうせ執筆に夢中でろくなもの食ってないんだろう?」
健吾は全てお見通しと言った様子でニヤリと笑った。
(バレてた)
理紗子は苦笑いをする。
「ここの蕎麦味噌や天ぷらは絶品なんだ。一度理紗子に食べさせたいと思ってたからちょうど良かったよ」
「ふぅん」
理紗子は蕎麦の会席など食べた事がなかったのでどんなものなのか興味が湧く。
こんな経験もきっと小説のネタになるに違いない。
「あとさ、追加であげようと思っていたレトルト食品なんだけど用意していたのに車に積むのを忘れちゃったんだよね。だから帰りに持って行ってよ。家まで送るからさ」
「うん、もちろん! あのレトルト食品のお陰でかなり助かったのよー、ここ最近ずっと家に缶詰だったから……アッ!」
突然理紗子が叫んだので健吾が驚く。
「どうした?」
「すっかり言うのを忘れてた! 先日スーパーでケンちゃんの妹さんにお会いしたわ」
「えっ?」
「横山真麻さん! すごく綺麗な妹さんでびっくりしちゃった。妹さんから聞いてない?」
真麻とは本を返した日以来話していないので健吾は何も知らなかった。
「うん。それにしてもすごい偶然だな、妹、なんか言ってた?」
「うん、サイン本のお礼を言って下さったわ。近くに住んでいるみたいね」
「ああ。俺のマンションから歩いて10分くらいの所に住んでる。専業主婦だけど子供はまだいないから毎日好き放題遊び回ってるよ」
「へぇ、そうなんだ! お歳はおいくつ?」
「君より三つ上だ」
「嘘! すごく可愛らしい方だったから年下だと思ってた」
「そうか? でも性格は結構キツイぞ! 俺はアイツにいつもやられっぱなしだ」
健吾は楽しそうに笑う。
「兄弟仲がいいのね」
「そうかな? 理紗子は兄弟は?」
「うちは福岡に三歳下の弟が一人いるわ。今は地元で公務員をしているの」
「そっか。長女だから一見しっかりしてるんだな」
「『一見』って何よ、その一言余計じゃない?」
「いや、そんな事ないさ。バーで倒れて知らない男にお持ち帰りされろうになったり、風呂で寝込んで死にかけたり? 普通にしっかり者の長女だったらこうはならないだろう」
健吾はそう言うと思い出し笑いをしている。それに対し理紗子がムキになって言った。
「普段はしっかりしているんだからー!」
その時料理が運ばれて来た。そこで理紗子はパッと笑顔になる。
料理は見た目も美しくとても美味しそうだった。
まず始めはお通しが来た後に蕎麦味噌が来る。これは健吾の言う通り絶品だった。
二人はノンアルコールビールを注文していたのですぐに乾杯した。絶品の蕎麦味噌をつまみに冷えたビールはたまらない。
次に刺身の盛り合わせが来た。市場が近いのでどれも新鮮だ。
その後は上品な一口サイズの揚げ蕎麦豆腐に蕎麦寿司、更に打ちたてのシンプルなざる蕎麦が続いた後揚げたての天ぷらの盛り合わせも来た。
お腹がペコペコだった理紗子は嬉しそうに食べる。もちろん完食だ。
「あ~ーお腹いっぱい! 美味しかったー」
「まだデザートに甘味が来るぞ!」
「白玉ぜんざいだといいな」
デザートは理紗子の希望通りに冷たい白玉ぜんざいが来たので大喜びしている。
お腹いっぱい食べた二人は最後にゆっくりとそば茶を飲んでから店を後にした。
車が走り始めてから健吾が言った。
「あの服を着たら髪はどうするんだ?」
「え? 髪? うーんまだ考えてはいないけれどやっぱりパーティーだとアップとかにした方がいいのかな?」
「いや、下ろして来て欲しい」
「え? そのまんま? 肩に垂らす感じ?」
「ああ、それが合うような気がする」
「そお? わかった、じゃあそうする」
理紗子は特に異論はなかったので素直に頷いた。
そこで健吾がふと思い出したように理紗子に言った。
「後ろの座席にこの前のお詫びの品があるよ」
「お詫び?」
「アレだ、あのキスマークの…….」
「ああ、あれ? 冗談で怒っただけだから気にしないで」
「いや、買っちゃったから持って帰ってくれ」
理紗子は不思議そうな顔のまま健吾を見つめてから後部座席を覗いた。
そこには理紗子が愛用しているジェエルフレグランスの店『bonheur』の紙袋があった。それを見た理紗子は驚く。
「これって?」
「いいから開けてみろ」
袋の中にはプレゼント用に綺麗にラッピングれた商品が入っている。
「これってケンちゃんが買って来たの?」
「そうだ」
「えー? もしかして一人で店に行ったの? チャレンジャー過ぎるー」
理紗子は目をまん丸に見開いてからけらけらと笑った。
「男も買いに来てたぞ」
「そりゃあたまには男性も来るだろうけれど」
理紗子は答えながら包みを開けてみた。
「うわっ! シャンプーとリンス? これ欲しかったけど高いから我慢してたの。え? ジェリーフレグランスとハンドクリームもある! こっちは何? ボディクリーム? えーっ! ボディクリーム発売されたんだぁ、知らなかった! で、こっちはリップ? リップも出たの? うわー嬉しい! 全部トータルで揃ってるー嬉しい! ケンちゃんありがとう」
理紗子は心から嬉しそうだ。
「パーティーの時に全部つけて来いよ」
「うんわかった。使うの楽しみ! これ全部つけて行ったら世の中の男はみんな私にノックダウンね」
理紗子はまたケラケラと笑う。
(ノックダウンするのは俺だけにしてくれよ)
健吾は心の中で呟く。
そして間もなく車は健吾のタワマンへ到着した。
コメント
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このお蕎麦食べてるシーン、良いなぁ!お互いの家族の事とか話すのも、親密さが増してる感じが素敵😆 そして後半はもう、もうニヤニヤが止まらない🤭きゃ〜🤩
キャア( 〃▽〃)♡キャアー(*/□\*)♥️ ボヌール、プレゼントしましたね~💝 髪も下ろしてきて....って👩👗✨💖🤭ウフフ パーティーの後で、ついに告白しちゃう⁉️💏😘♥️♥️♥️ イヤァーン(*/□\*)ドキドキ ♡
渡した〜😍プレゼント🎁 全部つけて来いよだって〜ぇキャ─(*ᵒ̴̶̷͈᷄ᗨᵒ̴̶̷͈᷅)─♡いやん恥ずかしい〜♥️ ヘアスタイルもそのままって〜もう〜健吾〜ԅ( ¯ิ∀ ¯ิԅ)♡ もうどうしよう〜💓私も一緒にノックダウンされちゃう💘😆 当日が待ち遠しいです〜〜〜ぅ🤍🫧🩵🫧