テラーノベル
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招待状を裂いたその夜、セルマは何事もなかった顔で帳場に戻った。けれど、ロビーに落ちた小さな紙片まで消えたわけではない。
閉館後、衣装室のごみ箱をあさっていたのはフレアだった。腕まくりをして真剣な顔をしている。そこへ見回りのゲティがやって来て、扉にもたれたまま笑った。
「新しい趣味か」
「違う。戦利品の救出」
フレアはつまんだ紙片を光にかざした。金の縁、宿泊客投票による特別招待、ディアビレ様――破れていても、重要な部分は読める。
「捨てるには惜しいでしょ」
「それは確かに」
ゲティもしゃがみ込み、床に落ちていた切れ端を拾う。二人は作業台の上に紙片を並べ、糊と薄紙まで持ち出して、妙に手慣れた復元作業を始めた。
「昔、旅芸人のポスターを繋いだことがあってな」とゲティ。
「私は衣装の型紙を復元するの得意」
役に立たない技能ほど、こういう時に輝く。
しばらくして扉が開き、ジナウタスが入ってきた。机の上の紙片を見るなり、状況を全部察したらしい。
「見つけたか」
「見つけたし、直せる」とフレアは言う。「でも、本人が折れたら意味ないのよね」
ジナウタスは復元途中の招待状を手に取り、破れ目を親指でなぞった。その顔に迷いはない。
「折れさせない」
「セルマが何と言っても?」
「関係ない」
短く答えて、彼は顔を上げた。
「舞踏会に出す」
その一言で、部屋の空気がすっと定まる。破れたのは紙だけだと、誰かが代わりに言ってくれたみたいだった。
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