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「あぁぁ!! おにぎりだーー!!」
コマッちゃんが、フルチンのまま大喜びで叫ぶ。
「飯、あったのか?」
親分が先生に言った。
「給食室にね。もしかしたらお米があるかな、って思って行ったら……」
「おっにぎり! おっにぎりぃぃ!!」
マリンがはしゃぐ。
「じゃあみんな、おにぎりを食べましょう」
僕たちは一列に並ぶ。
「あ……ひとつ言い忘れていました」
ん……? なんだ……?
「この中のひとつに……」
ツナとか? 明太子?
先生は、最高の笑顔で言った。
「この中のひとつに、毒が入っています」
え……。
「せ、先生、何言ってんの?」
「こんな時に冗談止めろよ!」
「毒なんてねぇだろうが!!」
ドンッ――。
先生がボトルをテーブルに置いた。
農薬。無臭。
「おかしいだろ!! そんなの!!」
「どれが当たりなんですかぁ!?」
「好きなおにぎりを取って、食べてください」
笑顔の先生。
……目が、いつもと違う。
会議室は、夜を迎えていた。
「先生がそんなことするわけない!」
生徒会長の大蔵翔――あだ名は「大蔵省」。
村長の次男坊。
ガタイもゴツく、体育とサッカーが大好き。
正義感にあふれて、ガンガンみんなを引っ張っていくタイプだ。
「じゃあ、大蔵くん……おひとつどうぞ」
先生が、お盆を差し出した。
大蔵省は、おにぎりをひとつ取り、
そのまま後ろに下がっていく。
おにぎりを見つめたまま、
腹ペコの状態なのに――
「先生がそんなことするわけない!」
その言葉が、他の子たちの疑心を逆にあおる。
つまり、善意がトリガーになる。
しかしそれは大蔵省自身のトリガーでもあった。
大蔵省は、食べることができなかった。
大蔵省は、「生きる」より「正しくあろうとする」タイプの正義感溢れる子だ。ゆえに理恵先生が毒を入れた理由を一番理解できない子だと思う。
沈黙が続いた。
「……なぁに、みんなして黙っちゃってさ!」
コマッちゃんが笑いながら、
ずかずかとお盆の前に出た。
小松茂雄。あだ名は「コマッちゃん」。
親父が元社会人野球の選手。茂雄は長嶋茂雄から命名された。親父さんは野球選手になってほしかったようだ。
でも本人の身体はこのクラスでも一番小さく運動も、勉強もダメ。
それでも明るい性格で、みんなから好かれている。
「腹減ってんだろ? 誰も食わねぇなら、俺が食うぞ!」
「やめろ、コマッちゃん!」
大蔵省が叫んだ。
でももう遅かった。
コマッちゃんは、迷いなくおにぎりを掴み、
大きな口でかぶりついた。
もぐ、もぐ……もぐ。
うっっっつぐぅうぅ…………!!
「うっまっ!!!」
彼の声が、会議室に響いた。
こんな状況でも、何もいつもと変わらないようにコマッちゃんは明るく笑う。神は二物を与えない、と言うが頭も悪い、身体も小さく運動も苦手なコマッちゃんに、神はここで笑う事が出来るメンタルを与えてくれた。
しかし誰も動かなかった。
先生だけが、
微笑んでいた。
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