「結局のところ、その農薬の成分は何ですか?」
水野零。あだ名は、ルート。
趣味はまだ見つかっていない数式を探すことって、小学生にしてすでに社会と噛み合ってない。僕らも「?」なやつなんだ。でも、その論理的な考え方は常に的を射ているんだ。
「うふふ……有機リン系。」
「有機リン系??中毒症状は飲んでから三時間以内。死ぬ可能性もある」
「先生が、それを入れる理由が分からない」
「誰かに恨みがあるのなら、そいつに直接手渡せば良いだけだろう??」
ルートは続ける。
「全てに入れるならまだしも、一個だなんてゲームじゃないか!!」
「これは先生の……ゲームなのか……?」
ルートは、理屈で勝負している。それが彼の防衛本能であるのだ。ゆえに怖さや不安を、分析と言ういう形で押し込めてる。
「水野君、おにぎり食べるの?食べないの?」
沈黙が訪れる。ひとつひとつおにぎりを見ていく。米の配列、握り方、大きさ……
その中からひとつを手にしたルート。
「ぼ、僕は…………」
「のいて……」
ルートを避けて、前に出てくるのは、さかもとさんだ。
坂本日花。あだ名は、さかもとさん。もともと、身体が弱く、動きがゆっくりで、声も小さい。崖崩れが起こった時に、先生が覆い被さって助けたのが、さかもとさんだ。
「さかもとさん!おにぎり美味しいよーー!」
マリン。
「おにぎり食って、元気で行こうぜ!」
コマッちゃん。
さかもとさんはお盆からひとつ、
おにぎりを手にして……先生に一礼した。
深い礼。さかもとさんは、お寺の住職の娘だ。小さい声で念仏を唱えていた。
永遠の命、それとは遥かに遠い現実のおにぎり。彼女は何を思い、何に祈ったのか……
狐狸??
さかもとさんは、ふと思った。妖怪の話である。
道に迷わせた人が、お腹を空かせた頃に優しそうな人に化けて現れて、握り飯を渡すのだが、いざ人間が食べてみると、握り飯が泥だんごや動物の糞に変わってしまい、気持ち悪がっていると、優しそうな人はいつの間にか消えていて、どこからともなく笑い声が聞こえて来る…………
改めて、先生を見返す。
これは、米なのか……?
それとも…………







