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公民館の裏口へ出ると、夜風は思ったより冷たかった。雨の名残を含んだ風が、自転車置き場の屋根をかすかに鳴らす。
キオノフとルドヴィナは少し離れた場所で話し直している。追いかけるほどではないが、見守らないわけにもいかない距離だった。
サペは自販機の前で立ち止まった。エリアが隣へ来る。
「ねえ」
彼女は硬貨を入れもせず、透明なボタンの列を見ながら言った。
「今日みたいなの、いちばん相手に決めさせたらだめなんだよ」
「誰に」
「噂を流す側に」
エリアはサペの方を見ないまま続ける。
「隠していたから、相手に言い方を作られた。秘密って、守るために持つこともあるけど、長すぎると値札をつけられる」
サペは答えられなかった。
その言い方が、キオノフたちだけに向いていないと分かったからだ。
卒業式の日のこと。ンドレスのこと。自分が飲み込んできたもの全部が、胸の奥でざらりと動く。
「痛い顔した」
エリアが言う。
「効いた?」
「効いた」
彼女はようやくこちらを見て、少しだけ笑った。
「ならよかった」
その時、向こうでルドヴィナが立ち止まり、キオノフへ何かを言った。声までは届かない。けれどキオノフが、いつものように軽くごまかす仕草をせず、真正面からうなずくのが見えた。
しばらくして二人が戻ってくる。
ルドヴィナは目元を拭ったあとで、いつものきちんとした口調へ戻していた。
「空き部屋の話は白紙にしません。ただし、手続きは正面からやります。説明が要る相手には、私が説明します」
キオノフが続ける。
「私も一緒に立つ。支える側と利用する側を、同じ言葉でまとめさせない」
ズジが深くうなずく。
「記事にする。恋の暴露じゃなくて、噂の作り方を」
ルドヴィナはその言葉に少しだけ救われた顔をした。
サペは夜空を見上げる。雲の切れ目に、薄い月があった。
隠していたものを表へ出すのは怖い。けれど、奪われる形で出されるよりはずっとましだ。
その考えが、胸のどこかへ静かに刺さった。