テラーノベル
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一時間後、悶々と考え続けていた凪子は、ついにモデル仲間で親友の音羽紀子へ電話をかけていた。
朝、信也の携帯に届いたメッセージを目撃したことを打ち明けると、紀子は大きな声で笑い出した。
「あははは! 信也さんに限って、それはないってば」
「どうしてそう言い切れるの? すごく親しそうな感じだったのよ」
「ないない、絶対ない!」
結婚後の凪子がどれほど溺愛されているか知っている紀子は、まったく取り合わず、信也の浮気を真っ向から否定した。
そして、笑いが落ち着くと、穏やかな声で続けた。
「私も経験あるけど、妊娠中ってホルモンのバランスが不安定なのよ。普段なら気にしないことを大げさに捉えたり、急に不安になったり……そういうの、よくあるの。今の凪子は神経が過敏になってるだけだと思う。それに、信也さんが浮気なんてするわけないでしょう? 凪子にベタ惚れなんだから」
「ベタ惚れ? そうかなあ……」
「えーっ、本人が気づいてないの? それは厄介ね。とにかく、信也さんは凪子一筋なんだから、余計なことは考えずに、どーんと構えてればいいのよ。なんたって、凪子は信也さんの『妻』なんだから」
(妻……? 前の結婚は、その『妻』の座にいてもあっけなく崩れたのに……)
喉まで出かかった言葉を、凪子は飲み込んだ。これ以上、親友に余計な心配をかけたくなかった。
「わかった。気にしないようにする」
「うん、それがいいよ。あっ、そうだ。また旦那の取引先からお芝居のチケットもらったんだけど、一緒に行かない?」
楽しげに話す紀子の声を聞きながら、凪子はどこか上の空で相槌を打った。
午後になると、信也が同じ建物内の事務所から自宅へ戻ってきた。
「夕飯食べるって言ったのにごめん。今夜、急な会食が入っちゃってさ。キャンセルしてもいい?」
「大丈夫よ。まだ何も準備してないから」
「悪いね。もし帰りが遅かったら、先に寝てていいからね」
「分かった」
信也は凪子をぎゅっと抱きしめ、おでこにチュッとキスを落とす。
そして再び、笑顔で事務所へ戻っていった。
玄関を出ていく信也の背中を見送りながら、凪子の胸にはじわじわと不安が広がっていった。
結局、思っていた通りの展開になってしまったのだ。
本当なら、あのとき信也にはっきり聞けばよかったのかもしれない。けれど今の凪子には、その勇気がどうしても出なかった。
一度深く傷ついた経験が、心に重いブレーキをかけていた。
(良輔とのときとは違う……。あのときは真実を知りたくて、体が勝手に動いた。でも今は、動きたくないと思ってる自分がいる……。それだけ、今の幸せを失うのが怖いんだわ……。信也をこんなにも愛しているから)
お腹の子のためにも、これ以上追及してはいけないーーそんな気さえした。
胸の内に重いものを抱えたまま、時だけが過ぎていった。
夕方になっても、凪子の胸のざわつきは収まらなかった。
悶々と考え続けた末、ついに彼女は信也の居場所がわかるGPSを携帯で確認してしまう。
これは結婚したとき、凪子が安心できるようにと信也が設定してくれたものだった。
時刻は午後六時過ぎ。画面には、信也がまだ事務所にいると表示されている。
(いっそ、この目で確かめてみる? こんなふうに悶々としてたら、お腹の赤ちゃんにもよくないし……。もうっ! はっきりしないと、私のほうがおかしくなりそう……)
そう覚悟を決めると、凪子は慌ただしく外出の準備を整えた。
マンションから少し離れた場所にタクシーを呼び、先に乗り込んで息を潜める。
そして、信也が事務所から出てくる瞬間を、ただひたすら待ち続けた。
コメント
4件
お腹に赤ちゃんがいて、精神的に不安定になりやすい時期だし…💧 前にあんなことがあったから、不安になる気持ちは分かる🥲 信也さんはきっと大丈夫だと思うけどね…🤔
GPSまでΣ٩(⊙д⊙)۶ 悪い事は出来ないね。 いや、しないだろうけどさ…。 凪子さん、考え過ぎると悪い方にばかり向かっちゃう。 お腹の子に悪いし、ハッキリさせよう!
GPSまで設定してくれてるなら、大丈夫だよ〜😊 今はきっと、精神的に不安定になってるよね😓 やっぱり、気になりつつじっとしてるのも無理か〜💦