テラーノベル
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――翌日
俺は、いつも通り高校に向かっていた。
足取りは重い。
今日は、俺以外の家族が全員体調を崩したために 一人で学校に行っていた。
なぜだか分からないが、嫌な予感がよぎっていた。
頭痛がする。
吐き気もする。
俺、大丈夫か…?
あ、でも、今日はしんどい日なのかも知れないな。
俺はそう思い、特に気にしてはいなかった。
だが、明らかに俺がおかしい事を確信したのは、高校に着いてからだった。
「おはようございます。」
俺は門の前に立っていた先生に、いつものように挨拶した。
すると、毎回笑顔で返してくれていたのに、今日は恐ろしい顔をして俺の顔を覗いたんだ。
そして、戸惑う俺にこう告げた。
「君、誰だ?うちの生徒じゃないな?」
「へ…?」
「その制服、春川高校だろう?ここは夏海高校だぞ。どうしたんだ?何か用か?」
「え、ここ、夏海高校?そんな…、馬鹿な!」
俺はいつも通り登校したはずなのに、どうして別の高校にたどり着いたんだ?
おかしい、おかしいだろ?
道は迷わないはずだろ?
どうして?
どうして____?
俺の精神は、しだいにおかしくなっていく。
何かが壊れていく気がした。
崩れる、ダメだ…
もう間に合わない……っ
目が自然と閉じていく。
だんだん視界が歪んでいく。
昨日と同じだ。
俺、一体―――
どうな―――る―――
―――俺が目を覚ますと、どこかで見た光景が目に飛び込んできた。
同じ感覚だ。
なぜか落ち着く。
周りには、家に居るはずの那子と海青が居た。
「お、お兄ちゃんっ!!目、覚ました…?分かる?私だよ?」
「え?分かるけど…」
一体何を聞いているんだ?
当たり前じゃないか。
「よ、良かった……私の名前、言ってみてくれる?」
「那子。」
「即答だ――良かった!本当に良かったっ!」
那子の事が分からないはずが無い。
何故名前を呼んだだけで、そんなに喜んでいるんだろう――
「じゃ、じゃあ俺も分かるよな…?」
「海青。」
「当たりだ!やった、忘れられてなかった…」
「は…?」
俺が混乱していると、医者らしき人がやって来て、俺に現在の状況を話してくれた。
「……つまり、俺は頭を強打したから、記憶が一部無くなっている可能性があるって事ですか?」
「そうなりますね。意識が遠のいた時、後ろに転倒してしまったんでしょう。」
「そのため、頭に重症を負っています。幸い、命に別状はありませんでしたが。本当に良かったです。
亡くなっていてもおかしくなかった状況ではあります。」
その言葉に、俺は何も返せなかった。
奇跡的に助かって、俺は今ここに居る。
最後まで人生を全うできる資格があるんだ___!
“神様、ありがとうございます。”
“一生この恩を忘れません。”
俺は涙を流しながら、心の中でそう感謝を伝えた。
だけど、まだ問題はある。
「ですが翔太さん、先程言いました通り、一部の記憶が喪失している可能性があるんです。」
「試しにテストをしてみようと思います。ご家族の事から問題を出しますね。」
そして医者は、次々と俺の家族についての問題を出した。
好きな食べ物、旅行先、朝食に飲んだ物、普段の生活習慣―――
などなど、俺が知ってるはずの内容ばかりだった。
だけど、その多くは思い出せなかった。
考えても考えても、出てこない。
家族の事のはずなのに―――
那子達の名前は出てきたのに―――
悩みに悩んでいる所で、悔しくも時間切れとなった。
「……残念ですが、記憶が喪失していると見て間違いないです。」
「っ…!」
泣きそうになっている俺に、医者は優しく俺に話してくれた。
「ですが、覚えていらっしゃる事も沢山あります。全て失った訳ではありません。」
「希望を持ちましょう、翔太さん。前を向いて生きていれば、きっと良いことは起きます。」
「思い出を作りましょう。」
俺は何度も何度も 首を縦に振り、溢れた涙を拭き取った。
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