東京タワーの中に入ると、岳大が展望デッキまでのチケットを購入してくれた。
それから二人はすぐにエレベーターで上まで昇った。
展望デッキに到着すると、閉館間際の時間という事もあり観光客はまばらでほとんどがデート中のカップルだった。
二人はエレベーターを降りるとすぐに外が見渡せる場所まで歩いて行く。
外の夜景が綺麗に見られるように展望デッキ内は少し照明が落とされていた。
目の前に広がる東京の夜景は摩天楼のようにキラキラと輝いていた。
高層ビルの窓には明かりが灯り、道路には車のヘッドライトの光がオレンジ色の線となって流れている。
東京らしい華やかで煌びやかな景色は見る者の心を一瞬にして捉える。
その光景を眺めていると、自分が都会のど真ん中にいるのだという事実を否が応でも感じてしまう。
優羽はそこから見える非日常の世界を息を呑んで見下ろしながら言った。
「以前ここに来た時は昼間だったので、夜景がこんなに美しいなんて知りませんでした」
「この光景は圧巻だよね。僕は何度も見ているけれど飽きる事はないな」
二人はしばらくの間無言で同じ感動を共有していた。
その後展望デッキをゆっくり一周した後、エレベーターで下まで降りた。
閉館まではまだ少し時間があったので、二人は土産物屋を見て回る事にした。
優羽は流星に土産を買って帰ろうと思い何かいい物はないかと探し始める。
「ゆっくり見ていていいですよ。僕はあっちを見て来ますから」
そう言って岳大は反対側へ歩いて行った。
優羽は岳大が気を利かせてくれたのだと思い、感謝しながら土産を探し始めた。
そして優羽は東京タワーの模型を見つける。サイズ的にも流星が電車のおもちゃで遊ぶ時にちょうど良い大きさだった。優羽はその模型を一つ手に取る。
そしてレジへ向かっていると、キーホルダーを売っているコーナーを見つけた。
そこにはカラフルな色合いのキーホルダーが山ほど並んでいたが、その中に一つだけシンプルなシルバーのキーホルダーを見つける。
そのキーホルダーにはシルバーの東京タワーの模型と小さな星が一つぶら下がっていた。
気になった優羽はそれを手に取ってみる。そして少し何かを考え込んだ後そのキーホルダーを二つ手に取ると一緒にレジへ持って行った。
買い物を済ませた優羽が店を出ると岳大が壁にもたれかかって立っていた。手には袋をぶら下げている。
優羽が「お待たせしました」と言って近づくと、岳大はその袋を優羽に渡した。
「え?」
「流星君にお土産です。あ、でも流星君だけだとママがいじけちゃうから優羽さんの分も」
「うわぁ、開けてみてもいいですか?」
岳大が笑顔で頷いたので、優羽は袋の中を覗く。
するとそこには白色とオレンジ色の可愛らしいクマのぬいぐるみが一つずつ入っていた。
クマの足の裏には東京タワーのロゴが入っている。そのぬいぐるみは東京タワー限定のぬいぐるみのようだ。
「ありがとうございます! とっても可愛いわ」
「どっちの色にするかは親子で話し合ってください」
「きっと流星はオレンジを選ぶと思います。だから私は白いクマさんかな?」
そう説明すると岳大は笑顔で頷いている。
その時優羽はハッとして手にしていた小さな包みを岳大に渡した。
「ん? 何ですか?」
「今日のお礼です。と言ってもすごく安い物なのでお恥ずかしですが…」
優羽は頬を赤く染めて言った。
岳大は感動したような表情を浮かべるとすぐに包みを開けた。
中にはシルバーのキーホルダーが入っていた。
「おっ、星がついている! シンプルなデザインがいいね、ありがとう!」
安物のキーホルダーなのに岳大が喜んでくれたので優羽はホッとした。
そしてもう一つの包みを掲げて言った。
「私もお揃いです」
「お揃いなら記念になるね。これを見る度に今日の事を思い出せるよ、ありがとう」
優羽は少しはにかんだように笑った。
それから二人は出口へ向かった。
ちょうどその時、館内に東京タワーの営業終了を告げるアナウンスが流れた。
外へ出ると夜空に星は全く見えなかったが、街路樹の隙間からはビルの灯りが滲むように霞んで見えた。
その時、並んで歩く二人の間を初秋の少し涼しい風が通り抜けて行った。
コメント
4件
これから山神山荘の優羽ちゃんのお部屋に🧸と🗼のキーホルダーが臨在していつでも岳大さんが見守ってるのね。
これを見る度に今日の事思い出せるよ ↓ これを見る度に『君』の事思い出せるよ のはず…💖
2人の運命的な出来事ですかね😊