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#アラスター
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五年生の終わりの余熱を信じて、僕は六年生の春を歩き始めた。 けれど、同じ校庭、同じ桜の木の下にいるはずなのに、匿名A子だけが蜃気楼のように遠かった。
「今日こそは、会えるかな」
僕は相談相手B子に頼み込んで、何度も彼女との「待ち合わせ」を設定した。 学童までの帰り道。あの境界線まで、もう一度だけでいいから隣を歩きたかった。 B子も最初は「いいよ、伝えておくね」と、五年生の時と同じように力になってくれた。
けれど、約束の場所にはいつも、僕一人の影しか落ちていなかった。
昇降口の柱の陰で待っていても、学童の門の前で立ち尽くしていても、彼女は現れない。 それどころか、彼女が別の友達と談笑しながら、僕の待つ場所を避けるように別の門から出ていく姿を、遠くに見かけることさえあった。
「……今日もダメだった」
翌日、教室でB子に報告すると、B子は僕と目を合わせようとしなかった。 「あの子、最近……自分のやりたいことに一生懸命だから」 B子の言葉は、五年生の時の「応援」から、六年生の「警告」へと変わりつつあった。
僕は、約束という形にこだわればこだわるほど、彼女が遠ざかっていくのを感じていた。 それでも、会えない理由を「たまたま運が悪かっただけ」だと思い込みたかった。 五年生のあの温かな記憶が、僕の現実を曇らせていた。
何度も、何度も、約束をしては一人で帰る。 その繰り返しの果てに、僕はまだ気づいていなかった。 僕が彼女に会いに行こうとすることが、彼女にとっては「僕との共有」ではなく、彼女の「個人の領域」を侵す行為になり始めていたことに。
春の光はあんなに明るいのに、僕の足元は、冬よりもずっと凍えていた。