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B子が去った後の教室は、ひどく静かだった。 僕はどんな顔をしてその場に立っていたのか、自分でもよくわからない。ただ、胸の奥が冷たいコンクリートで固められたみたいに重くて、呼吸の仕方を忘れてしまいそうだった。
「じゃかさないで」
その言葉が、頭の中で何度も、鋭いエコーを伴って繰り返される。 僕は平静を装ってランドセルを背負い、誰とも目を合わせないように学校を出た。
いつもの帰り道。5年生の時に二人で歩いたあの道を通る勇気は、もうなかった。 僕はわざと遠回りをして、人通りの少ない、古い神社の裏手にある細い道に入った。そこなら、誰にも会わずに済む。
大きな木の陰に隠れるようにして立ち止まった瞬間、視界が急に歪んだ。
「……っ」
声を出さないように、唇を強く噛んだ。 溢れてきたのは、悲しみというよりも、もっと泥臭くて、行き場のない情けなさだった。 5年生の時にあんなに必死に集めた彼女の好きなもの、B子と一緒に考えた話題、勇気を出して書いたメモ。 そのすべてが、彼女にとっては「邪魔なノイズ」でしかなかったという事実。
僕はしゃがみ込み、膝の間に顔を伏せた。 鼻の奥がツンとして、熱い塊が次から次へと地面に落ちていく。アスファルトに小さな黒いシミが広がっていくのを、ぼんやりと眺めていた。
「もしも願いが叶うなら」なんて。 そんな子供じみた奇跡を信じて、何度も会いに行こうとした自分が、たまらなく惨めだった。
雨なんて降っていないのに、僕の周りだけがひっそりと濡れているような、そんな孤独。 5年生の時の僕を、今の僕が殺してしまったような、そんな喪失感。
僕は一人で、誰にも気づかれないように、時間をかけてゆっくりと「5年生の僕」とお別れをした。 顔を上げたとき、夕暮れの空は、あの日二人で見た時と同じ色をしていたけれど、もう二度と同じ光には見えなかった。
#アラスター
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