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#一次創作
眠狂四郎
590
麗太
593
Cafe Latteベース隊長
48
階段を下ると、紫色の坑道がバッターの目に飛び込んできた。
崩落しないように天井を支える柱。等間隔に壁に配置されたランプ。規則正しい道を、バッターは歩き出した。
しかし、坑道はすぐに終わりを迎えた。
少しだけ広い空間が道の奥にあり、そしてそこの入り口には目に馴染んだ者がぽつんと立っていた。
「おやおや、誰かと思えば。███.。それに、風変りな操り人形たるバッター君ではないか」
ジャッジであった。
先ほど別れたばかりだというのに、相変わらずのにやにやとした笑みを張り付けたまま、ジャッジはそこにいた。
「お前が亡霊たちのリーダーなのか?」
「ああ、違う。違うとも。とんでもない」
バッターの質問に、ジャッジは少々早口気味に答えた。
「私は通りがっただけだ。ほの暗く金属に囲まれたこの場所から抜き取られる、一筋の煙と似たようなもの」
衒学的に、かつ哲学的にジャッジは言った。
「だがまあ、君が言う霊的存在とやらの居場所を、私は恐らく知っていると思う」
ジャッジは、ついて来いというようにバッターを見てから、さっさと広間の奥の方に歩いて行った。
バッターも黙って後を追った。
「実を言うと、その霊的存在のおかげで、途方にくれているのだ」
ジャッジは、自らの少し上の空間をちらと横目に見た。
そこには、中心に空洞の空いた、ドーナツ型の白い球体がふわふわと浮いていた。
「君が探しているのは、そこのアド-オン球と呼ばれる奇妙な物体の事でないかね」
ドーナツ型の球体は、ジャッジからそう説明を受けても、ただただ宙に静かに浮いていた。
ジャッジは、少し苛立ったような顔でアド-オン球を見上げた。
「私は、そいつを手中に収めようと、とても頑張ったのだけど、徹底的に失敗してしまってね」
だが、次の瞬間ジャッジは、振り返ってバッターを見た。
「しかし私が考えるに…君たち、要は世界の法則に従っていない者であれば、この霊的存在を仲間に加えることに成功するかもしれない」
ジャッジは顎をしゃくるようにアド-オン球を示した。
バッターは、アド-オン球に近づき、手をかざす。
するとアド-オン球はバッターの背後に回り、いつも通り漂いだした。
「なんという、特異で興味深い現象だ…この予期しない超次元的な反応について、私は依然として当惑していると言わねばあるまい」
ジャッジは、少し不機嫌そうに鼻を鳴らしてから、もう一度口を開いた。
「まあ、いいだろう。それが君の仲間に加わると決めた以上、その力を最大限に引き出せるよう努力するといいだろう。私にできる助言は、それくらいなものだ」
「分かった。で、亡霊の親玉はここにはいないんだな?」
バッターは周囲を見回しながら、ジャッジにそう問った。
「すまないが、残念ながら否定的な返答を返さねばならない。このアド-オンを除いて、私はここで一つの霊魂とさえすれ違っていない」
ジャッジの言葉に、バッターは何も言わずに引き返した。
「ああそうだ。少し待ってくれ」
しかし、ジャッジが突然声を発した。
バッターはもう一度振り返り、ジャッジを見る。
「伝え忘れていた。この世界には、まだアド-オンという存在はいる。見かけたなら接触してみるといい。先ほどの霊的存在のように、君に興味を示すやもしれん。親愛なる我が友よ」
言いたいことはそれだけだったらしい。ジャッジは再び黙った。
バッターは規則的な廊下を通り、階段を上り、もう一度鉱夫に話しかける。
バッターの姿を確認したらしい彼は、声を弾ませながらバッターに話しかけた。
「ああ、おかえりなさい! それで、その…殺したんですよね? 亡霊の親玉を…」
「いいや。ヤツはいなかった」
「ああ…ええ? ほんとに?」
彼の顔からみるみるうちに安堵が消える。
「そんな…ちくしょう。くそっ。ええと、それじゃ、あー…。僕があなたをメインの坑道に通してあげなきゃいけないみたいですね。…でも、その。規則には反するんだよなあ」
彼はぼやきながら言った。
それから、ため息を一つこぼし、バッターを見た。
「分かりました。ええと…そのお…。規則の第五節に従えば、これは非常に特殊なケースなんじゃないかと思うんです。だから、あー。いいでしょう。じゃあ、メインの坑道はそこのブロックを抜けた先になります」
それから彼は、ブロックの向こう側に見える階段を指さしながら、「こっちです」とだけ言った。
その直後、道を塞いでいたブロックが溶けるように消えていった。
バッターはメインの坑道に入っていく。
階段を下ると、そこには何人かの鉱夫が休憩所でたむろしていた。
そのうちの一人がバッターに気づいた。
「亡霊たちはどの通路にもいます。あなたも気をつけて。…あれ、そういえば」
鉱夫は、バッターを見て、思わず声を発した。
「誰があなたをここへ入れたんです? 普通、規則じゃ外部の人間は入れちゃいけないことになっているんですが…」
しかしバッターは彼を無視し、さっさと休憩所を出て行った。
休憩所から出ると、すぐに曲がり角に差し掛かった。その曲がり角の先には、正方形の小さなスペースがあり、そこから坑道が伸びているらしかった。
バッターは正方形の中に足を踏み入れ、声を張り上げた。
「堕落した子らよ、姿を見せよ! 俺は許しの代弁者。お前たちの痛ましい姿を滅ぼしに来た」
バッターがそう宣言すると、瞬間的に彼の正面に一匹の亡霊が現れた。
続いて、バッターを取り囲むように亡霊たちが一体。また一体と姿を現した。六体もの亡霊が輪を描くように現れた。
バッターは静かに、バットを亡霊たちに突き付けた。
「…。裁きを受ける覚悟はいいか」
戦闘は瞬間的に始まった。
バッターは構えていたバットを両手で握り締めると、野球選手さながらの鋭い一撃を放った。
鈍い衝撃音。
最前列にいた亡霊が宙を舞い、坑道の壁へと叩きつけられる。
直後、バッターの背後を漂っていたアドオン球が勢いよく飛び出した。
白い球体は亡霊の群れへと突撃し、その身体からは想像もできない衝撃で一体を吹き飛ばす。
亡霊たちも黙ってはいなかった。
うめき声にも似た音を響かせながら群がり、拳や足を振るって反撃する。
だが、その攻撃はバッターを止めるには至らない。
バットが振るわれるたびに亡霊は弾き飛ばされ、アド-オン球が体当たりを加えるたびにその数は減っていった。
やがて最後の一体が宙を舞う。
亡霊は地面へと崩れ落ち、そのまま煙のように掻き消えた。
坑道に静寂が戻る。
敵を浄化した。
「…。この“アド-オン”は本当に俺の味方なのか…。…使えるな」
バッターはバットを持ち直して、アド-オンを見た。
アド-オンは相変わらず、宙に浮かんだままでいる。
「他の坑道も浄化しに行くぞ」
バッターはそれだけ言うと、すぐさま再び歩き出した。
コメント
1件
読み終えました!ジャッジの衒学的な語り口と、アドオン球がすんなりバッターに従う意外性、そこに「世界の法則に従っていない者」という条件が効いてるのが面白かったです。そして最後の戦闘シーン、バッターの一言「使えるな」がクールでグッときました。次の坑道での浄化、どう展開するのか気になります✨