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食事を終えた二人はいよいよ華子の父が働いているロッジへ向かう事にした。


「緊張してる?」

「うん…ちょっとね」

「そりゃそうだよな、ずっと会っていないんだからな。でも大丈夫だ、俺がついてる」

「うん、陸ありがとう」


華子は陸に微笑むと続けた。


「生き別れた親子が久しぶりに再会するなんてついテレビドラマのようなシーンを思い浮かべちゃうけれど、現実は意外とあっさりだったり? もしかしたら娘の事なんてとっくに忘れていて『どちら様ですか?』なんて言われるかもとか? なんか色々考えちゃう。だからあまり期待しないようにしようかなーって」

「うん、まあこっちがいきなり訪ねて行く訳だからお父さんはかなり驚くだろうな。もしかしたら迷惑かもしれないし。でももし期待通りの反応じゃなかったらその時は宿泊先を他に変更するからあまり心配するな」

「ん、ありがとう」


華子は陸の言葉を聞き少し肩の力が抜けたようだ。


間もなくロッジの看板が見えてきた。

陸は減速して左折のウィンカーを出すとロッジの駐車場へ入り車を停めた。


チェックインの時間は過ぎていたので二人は荷物を持ってエントランスを通り抜ける。

そしてログハウス造りの建物へ入りフロントへ向かった。


素朴な外観からは想像もつかないほど館内は高級感に溢れていた。ロビーは吹き抜けで開放感に満ちている。

ロビー内に置かれた家具はどれもしっかりとした造りの旭川家具で揃えられモダンで素敵な雰囲気だ。

フロントでは数組の客がチェックインの手続きをしていた。


フロントが空くまで二人はソファーで待つ事にする。その時60前後の男性がこちらへ歩いてきた。

陸と華子の間に一瞬緊張感が走る。

しかし男性の顔は祖母から見せて貰った写真とは全くの別人だったので二人同時にホッと息を吐く。

そんな二人に男性は穏やかに微笑みながら言った。


「お待たせして申し訳ございません。チェックインは私が承ります」


男性は住所と名前を記入する用紙をテーブルに置き陸にペンを渡した。


「日比野です。今日から一泊お世話になります」

「日比野様ですね、お待ち申し上げておりました。確か当ロッジのご利用は初めてでいらっしゃいましたよね?」

「はい」


そこで陸が今回ここへ来た理由を話し出そうとすると華子が遮るように言った。


「実は私の父がこちらで働いているとお聞きして訪ねてきたのですが」


すると男性はかなり驚いた様子だった。


「お客様のお父様が?」


男性は華子の顔をじっと見つめると大きく頷いた。


「失礼ですが、お父様のお名前を教えてもらってもよろしいでしょうか?」

「父の名前は長谷川慶太です」


そこで男性はやっぱりという顔をした。


「やはりそうでしたか。目元が慶太君によく似ているのですぐにピンときましたよ。あ、私は慶太君の古い友人で高瀬信彦申します」


高瀬はそう言うとポケットから名刺入れを出して二人に一枚ずつ渡した。


「古いご友人という事は、もしかしたら長谷川さんをこちらへ呼び寄せた方でしょうか?」


陸が聞くと高瀬は頷いた。


「はい、私と慶太君は大学時代の同期生でしてね。当時慶太君は東京で、私は北海道でリゾート開発の仕事に携わっておりました。同じ業種でしたから大学卒業後も連絡を取り合い時にはお仕事をご一緒させていただく事もございました。あの頃は持ち直していた日本の経済が急に悪化し一気に不況の波が押し寄せました。私は会社をたたんで父が経営していたホテルを引き継いだので特に大きな影響はなかったのですが、慶太君は頑張っていたのに大打撃を受けましてね。それで良かったらこっちへ来ないかと誘ったんです」

「そうだったんですね」

「あの時私が北海道へ誘わなければもしかしたら慶太君は離婚をせずに済んだんじゃないかってずっと悔やんでおりました。離婚後は娘に会えないと言って当時はかなり落ち込んでいましたから。彼は会えない間ずっとあなたの事を思い続けていましたよ。それを傍で見ているのは辛かった」


高瀬は涙ぐんでそう話した。


「お父さんが?」

「ええそうですよ。あなた位の年齢のお客様を見るといつも言っていました。『華子はきっと綺麗になっただろうなぁ』と。小さい時から愛らしかったから大きくなった華子はきっとものすごい美人になってるぞといつも口癖のように言っていました。でも今日お会いしてみて彼の予想が当たっていた事がわかりましたよ」

「お父さん……」


思わず華子の視界が滲んでくる。


(今は泣いてはダメよ、華子!)


華子は涙をぐっとこらえると高瀬に聞いた。


「父は今どこに? 父に…父に会えるでしょうか?」


華子の言葉に高瀬は少し考え込むような表情をした後こう告げた。


「彼は今入院中です。二週間前に倒れて救急車で運ばれましてね、すぐに心臓の手術を受けました。今はまだ大学病院に入院しています」


高瀬の言葉に華子が泣きそうな顔になる。そんな華子の肩を抱き寄せながら陸が聞いた。


「ご容態は?」

「ご安心下さい、手術は無事成功しました」


その言葉に二人はホッとした。


「今からお見舞いに行ったらご迷惑でしょうか?」

「いえ全然、大丈夫ですよ。今は退院に向けてリハビリ中ですから。会ってやって下さい。きっと喜ぶと思います」


陸と華子はホッとした表情で顔を見合わせた。


「病院には私がご案内しますよ。その前にチェックインの手続きだけして参りますね。もう少しこちらでお待ち下さい。あ、荷物もお預かりしておきましょう」

「ありがとうございます」


陸は記入を終えた用紙と旅行バッグを高瀬に渡した。高瀬はそれを受け取りカウンターへ戻って行った。


「お父さん大丈夫なのかな?」


華子がか細い声で言う。


「今はリハビリ中って言ってたから大丈夫だろう。死にそうな人間にリハビリなんてしないだろう?」

「うん、それもそうね」


陸の言葉を聞いた華子は涙ぐんだまま少しホッとした様子だった。

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