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そして月曜日がやって来た。


今日は詩帆がフリースクールで初めての授業を行う日だった。

詩帆は出かける準備をしながら少し緊張していた。


服装はカジュアルで構わないと校長も優子も言っていたので、

詩帆はいつものようにジーンズにカットソー、それにカーディガンを羽織って行く事にした。


準備を終えて詩帆がアパートを出ようとした時携帯が鳴った。涼平からのメッセージだ。



【祝・初出勤&初授業! 肩の力を抜いてリラックスしてね! 詩帆ならきっと大丈夫】



涼平からのメッセージを見た詩帆は、少し緊張がほぐれたような気がした。

そして一言だけ返信する。



【ありがとう。今から行ってきます】



それから詩帆は「よしっ!」と気合を入れるとアパートを後にした。



スクールへ到着すると三瀬が笑顔で出迎えてくれた。

三瀬に連れられて職員室へと入ると、詩帆は朝の朝礼で他の教師達を紹介された。

詩帆が挨拶をすると皆が温かい拍手で迎えてくれた。


その後山崎という男性教師が、わからないことがあればいつでも声をかけてくださいと詩帆に言ってくれた。

山崎はスクールで主任をやっていて、担当教科は理系の科目だった。

全体的に若い教師が多く、皆熱意と意欲に溢れていた。

同世代の教師が多かったので詩帆はホッとする。


週に一回しか出勤しないのに、職員室では詩帆に机が割り当てられた。

ずっとカフェでアルバイトをしてきた詩帆は、職場で自分のデスクなど持った事がない。

だからなんだか居場所が出来たような気がして嬉しかった。


一時間目のチャイムが鳴ったので、詩帆は校長に連れられて二階の教室へ向かった。

その教室はこの前見学した教室と同じ作りで、ドアはなく大きな楕円形のテーブルが部屋の中心に二つ置いてあった。

この教室は、主にレクリエーションや美術の授業などで使うようだ。


詩帆が教室に入ると、美術を選択した生徒が既に十数人座っていた。そして皆が一斉に詩帆を見る。


「えーっ、今日から美術の授業を担当する事になった江藤詩帆先生です。はい拍手ー!」


校長がそう言うと生徒達は笑顔で拍手をしてくれた。

そして校長が続ける。


「みんな、若い先生で良かったろう?」

「若い先生大歓迎!」

「前の先生はおばーちゃん先生だったからなぁ」

「先生、何歳ですか?」

「先生かわいい」

「先生、彼氏はいますかー?」


次々に詩帆に質問が飛んできた。

詩帆は思わず微笑んでから挨拶をした。


「今日から美術を担当する江藤です。よろしくお願いいたします」


すると生徒達は再び笑顔で拍手をしてくれた。

詩帆は生徒達が優しく歓迎してくれたので思わず目頭が熱くなる。


ここにいる生徒達は皆優しくて思いやりに溢れている。

新参者の詩帆に対しても、こうやって気遣いが出来る子達だ。

それなのに彼らは、普通の高校で居場所が見つけられずにこのフリースクールへやって来た。


そう思うと、詩帆はなぜか理不尽な思いでいっぱいになる。


こんな優しい生徒達を、絶対に幸せな未来へ導いてあげたい。

自分一人の力は微力かもしれないが、このスクールの他の教師達と力を合わせて少しでもその手助けが出来たらと、詩帆は心から思った。


その後、校長が職員室へ戻って行ったのでいよいよ詩帆の初授業が始まった。


最初に詩帆は自己紹介をした。

まずは自分の経歴を生徒達に話す。

美大のグラフィックデザイン科を出た後、普通の就職はせずにカフェでアルバイトをしていると正直に話した。

アルバイトを選択した理由は絵を描き続ける為だと説明した。

すると生徒の一人が詩帆に言った。


「先生、なんかカッコイイ!」

「全然かっこ良くはないんだけど、でもこういう先生もいるのよって事をわかってもらえたら嬉しいです。みんなと同じ道を進まない人もいるんだよってね」


すると男子生徒の一人が言った。


「俺も好きな事に夢中になっていたらいつの間にか高校をクビになっていたんだ。でもこのスクールに通い出してからは、その好きな事をずっと続けられるから返って良かったのかも」

「君の好きな事は何?」


すると男子生徒の隣に座っていた女子生徒が言った。


「博己の好きな事はゲーム作りなの。こいつゲームオタクだから」


その女子生徒は、この間詩帆が見学に来た際に声を掛けてくれた女子生徒だった。


「へーすごい。ゲーム作れるんだ!」

「すごいって言ってくれたの、先生では詩帆先生が初めてだよ」


博己は嬉しそうに笑った。


「じゃあ今からみんなにも自己紹介してもらおうかな。うーんと名前を言った後、得意な事、好きな事、将来の夢なんかを教えて下さい。じゃあ右の人からお願いします」


すると一番右端の生徒が立ち上がって自己紹介を始める。


「私は山口絵里奈です。好きな物はファッション。服とか化粧品とかネイルとかに興味があります。将来はそんな仕事がしたいです」


絵里奈はニコニコと愛想が良くとてもチャーミングな生徒だった。

よく見るとうっすらと化粧をしている。服もプチプラで買ったような洋服を上手に組み合わせてとてもお洒落だ。


「絵里奈ちゃんはファッションが好きなだけあってお洒落ですねー。美術の授業では色彩感覚を学ぶのもいいかもしれないわ。カラーコーディネーターっていう資格があるのを知ってる? そういう資格をとっておくと将来ファッションの仕事に役に立つかもしれないわよ」

「そんな資格があるの知らなかった! 先生、教えてくれてありがとう」


絵里奈は嬉しそうに微笑んだ。


「では、次の人お願いします!」


すると先ほどの博己が立ち上がって自己紹介を始めた。


「俺は三枝博己! さっきユリが言った通り、正真正銘ゲームオタクです。でも作る方のオタクね! 将来は、全世界に知られるようなゲームを作るゲームクリエイターになる予定です」


と言ってガッツポーズをした。すると生徒達が一斉に声を出して笑う。


「先生ゲームはあまり詳しくないんだけれど、ゲームってキャラクターが命だったりするんでしょう? だったらパソコンでキャラクターづくりなんかをやるのも楽しそうね」

「先生さすが! キャラクターはゲームにおいて一番重要な要素でもあるんだ。だから俺、頑張って勉強したいのでよろしく!」


博己が爽やかな笑顔で言ったので詩帆も「こちらこそどうぞよろしく」と返した。


じゃあ次は博己君の隣の人!


「はい、私は小川ユリです。私は絵を描く事が好きです。将来は絵本作家になりたいなーなんて夢見ています。絵本作家になりたい理由は、今まで辛かった時、いつも絵本が私を助けてくれたの。だから私も人を元気にするような絵本が描きたいと思っています」


ユリはそう言ってぺこりとお辞儀をした。

詩帆はユリの言葉に胸が熱くなる。


「絵本作家も素敵な夢ね。絵本を描くにはまずは自分が表現したい物をなんでも絵に描けるような技術が必要かな? それには様々な絵にチャレンジしてみるのもいいかも。絵ってね、色々な描き方や手法があるのよ。それをこれから一緒に勉強していきましょう。きっとあなたなら人を癒す絵本が描けるようになると思うな」


詩帆の言葉にユリはとても嬉しそうにはにかんだ。そしてこう言った。


「私も先生みたいに美大に行きたいので受験の方もよろしくお願いします」


それを聞いた詩帆は「一緒に頑張りましょう」とユリに微笑んだ。


「じゃあ次はユリちゃんの隣の人、お願いします」

「山田幸紀と言います。僕は写真に興味があり海や山など自然の風景を撮るのが好きです。美術で写真はやらないかもしれないけれど、画像編集なんかにも興味があるので今は自分で色々とチャレンジ中です」

「幸紀君は写真が好きなのね。写真の実技も画像編集も授業でやろうかなと思っていたのでちょうど良かった。海で写真の実習もやろうかなと思っているので楽しみにしていて」

「マジっすか? 前のおばーちゃん先生に画像編集の事とか話してもちんぷんかんぷんだったので諦めてたんだけど、マジで? 嬉し過ぎでしょ」


幸紀はかなり嬉しそうだ。すると博己やユリが、


「幸紀よかったなー」

「良かったねー」


と声をかける。

詩帆はその仲の良さに微笑む。


その後も自己紹介は続き、油絵を希望する生徒、デッサンを希望する生徒等、自分のやりたい事をしっかりと把握している生徒ばかりだったので詩帆は驚いた。

詩帆が昔教育実習で訪れた高校には、ここまで目的意識を持った生徒はいなかった。


このスクールの意欲溢れる生徒達を目の当たりにし、少しでも生徒達の手助けになるような授業が出来ればと詩帆は更なるやる気に満ち溢れていた。

セルリアンブルーの夜明け

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コメント

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ユーザー

フリースクールで初授業をする詩帆ちゃん🏫 訳あって学校生活には馴染めなかったものの、将来の夢や目標をしっかり持ち 一芸に秀でていたり 前向きな子が多そう....🤔 これから このスクール独自の面白い授業ができそうで楽しみですね~🎶

ユーザー

登校前の涼平さんからのメッセージはかなり嬉しいね〜☺️💕これだけでパワー倍増⤴️🤭 それ以上に生徒たちがとても可愛いしみんな目的を持って学校に来てるその姿勢に心打たれるー🥰 詩帆ちゃんも涼平さん伝で岳大さん達も教えに来てくれるとみんなのポテンシャルも上がって⤴️もっと学校を楽しんで上をしっかり目指してくれそう✨✨ うん!詩帆ちゃん頑張れ👍☺️🌸

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