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ダイサンワ:観光は安心の演出(サクラ編)
朝の観光バス。
緑色の制服にベージュの帽子をかぶったサクラ(22)は、マイクを手に笑顔を浮かべていた。大きな瞳にアイラインを引き、頬に薄くピンクを差している。明るい声で乗客を迎えるその姿は「安心の象徴」としてよく似合っていた。
「本日は“協賛観光ツアー”にご参加いただき、協賛ありがとうございます! 最初の目的地はこちら“協賛桜山、水谷川”です」
車内のモニターには、緑色の背景に「協賛ありがとう!」の映像が流れ、子どもから年配まで、乗客たちは自然とそのフレーズを合唱していた。
「協賛ありがとう!」
バスは未来都市の道路を滑るように走る。窓の外には、協賛旗を掲げる工場や巨大な翡翠核エンジンのタービンが並び、乗客は一様にカメラを向けて写真を撮っていた。
サクラは台本通りに解説を続ける。
「次に見えてまいりますのが“未来工場”です。こちらでは“メイド・イン大和”の最新機器が生産され、市民の安心を日々支えています」
バスの天井には小型カメラが設置され、笑顔で頷く乗客や無邪気に手を振る子どもたちの表情が逐一ネット軍の管制室へ送られていく。サクラはそのことを知っていた。
しかし彼女は声色を変えず、笑みを保ったまま言葉を紡ぐ。
「続いては“翡翠核展示館”。ここで未来を守る技術をご覧いただけます」
乗客の「安心ですね」「ありがたいね」という声が重なり、バスの中は穏やかな空気に包まれていた。
サクラは窓の外の緑に塗られた街並みを見つめながら、心の中でひとり呟いた。
「観光は安心の演出……」
その笑顔は揺るがず、マイクを握る手だけがほんの少し強く震えていた。