テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
放課後の光が、窓の縁でゆっくりと傾いていた。
カーテンの影が床をなぞる。古びた時計の音だけが、部屋の静けさを刻んでいる。
相談に来たのは、制服の袖をいじりながら俯いている女子生徒だった。
声はかすれていて、それでも吐き出すように言った。
「“強くなれ”って、ずっと言われてきました。
親にも、先生にも、友達にも。
でも、強くなんてなれない。……なり方がわからないんです」
遥は何も言わず、少しだけ息を吸った。
その横顔には、疲れとも諦めともつかない影が落ちている。
「“強くなれ”って言葉、俺も嫌い」
「え……」
「それって、言う側が安心するための言葉だと思うんだ。
“もう大丈夫だよね”って勝手に区切りをつけるための」
少女は顔を上げた。驚いたような目で、でもすぐに視線を落とす。
遥は続けた。
「強さって、たぶん“泣かないこと”とか“立ち直ること”じゃない。
本当の強さってさ、“まだ壊れてない自分を守ること”なんだと思う」
少女の手が止まる。
「……壊れてない自分?」
「うん。
たとえば、誰かに酷いことされて、もう何も信じられなくなっても、
“それでも誰かを信じたい”って思える気持ちが、まだ残ってる。
それって、ちゃんと生きてる証拠だよ」
少し間が空いた。
少女の目の端に、かすかな涙が光った。
「でも、もう無理かもしれない。
何回も頑張ったのに、また潰れて……そのたびに“もっと強く”って言われる。
頑張れない自分が、いちばん嫌いで」
遥は小さく首を振った。
その仕草には、どこか痛みのような優しさが混じっていた。
「強くなるんじゃなくて、もうこれ以上壊れないようにでいいと思う」
言葉を選ぶように、ゆっくりと。
「俺も今、毎日それだけ考えてる。
誰かに勝とうとか、立ち上がろうとかじゃなくて――まだ息してる自分を守ること」
少女はしばらく黙っていた。
でも、その沈黙は重くなかった。
窓の外で、夕日が赤く傾く。
その光の中で、彼女が小さく笑った。
「……“壊れないように”か。
それなら、もう少し、生きてみてもいいかもしれない」
遥はそれを見て、ほんの少しだけ、目を細めた。
「うん。強くならなくてもいい。
ただ、今日を終える。それが、いちばんの強さだと思う」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
#執着攻め
#読み切り