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「よく来たね!」
「わざわざすみません」
楽しそうにしているサキュロスとは違い、ロシェルはすまなそうに肩を落とす。二人は白いタオルで全身を隠していて、レイナードとアルは揃って『イヤな予感が本当に的中しそうだ』と思った。
「あ、大丈夫よ、レイナード。何も『背中を流す』とか、そういったものじゃないの。プールが無いから此処になっただけよ」
イレイラの言葉を聞いてもレイナードは安心出来なかった。『プール』と聞いて連想出来る姿など一つしかない。
「自信あるよ、これでシドは私にイチコロさ!」
『にっしっしっ』と笑い声をあげ、神経質そうな顔なのに、サキュロスが楽しそうにはしゃぐ。
ロシェルの方は、気乗りしていないのがありありとわかる。勝負に参戦した事をもの凄く後悔しているようでもあった。
「さぁロシェル、どっちが先に披露する?」
「どうぞお先に」
ロシェルの言葉を聞き「んじゃ遠慮無く!」とサキュロスがニヤッと笑った。お互いにどういった格好かは知らない。だが、自分相手にロシェルが勝てる訳がないと彼は確信しているのか、誇らしげな笑みを浮かべながら、バッと勢いよくタオルを脱ぎ捨てた。
「どうだい?セクシーだろう?」
長身で素晴らしいスタイルを惜しげもなく晒しながら、サキュロスがグルンッと回って全身を見せる。
マゼンタ色の水着を着ているのだが、……布部分がほぼ無い。水着として見せてはいけない部分はかろうじて隠れているが、お尻はTバックになっていて丸見えだ。
プロポーションには自信がある。そういう風に変身したのだから当然だ。これでレイナードもアッサリ堕ちただろう。と、確信に近い気持ちのまま、仁王立ちになってレイナードの方へ顔を向け——サキュロスは叫んだ。
レイナードはサキュロスの方を見てすらいなかった。それどころか、ドアに手をつき、ずっと項垂れている。
「当然じゃない!彼は騎士なのよ?理性的で自制心のある紳士なの!最初に忠告したわよね⁈」
イレイラがサキュロスへと向かい、呆れた声をあげた。
「肌を見せればいいってもんじゃないと、公平に勝負出来るよう最初に言ったのに、意味がないじゃない!」
「だって、レイナードも男じゃん?男なら好きでしょ?こういう格好」
全然反省の色がないサキュロスを見て、イレイラは唖然とした。
「……それはどうかしら。好きな相手のだったらまぁそうでしょうけど、今そんな格好をされてもただの犯罪者にしか見えないわ」と、ロシェルがはっきり告げる。
「は、犯罪者⁈それは言い過ぎじゃないかなぁ!」
「少なくとも、見てはいけないもの扱いはされていると思いますよ?」
「じゃあロシェルはどんなのを着たっていうのさ!」
ロシェルにまで格好を否定され、サキュロスが不満を口にする。
イレイラは無言のままサキュロスが放り投げたタオルを拾い、それを彼に渡した。このままでは絶対にレイナードが振り向かないとわかっていての配慮だ。
サキュロスは不満げな顔をしたが、渋々タオルをロシェルから受け取り、風呂上がりの女性のようにそれを体に巻いた。
「いいわよ、レイナード」
それを聞いても固まったままの彼に代わり、アルが後ろを向いて確認する。
『いいぞ、レイナード。嘘じゃない』
アルの言葉でやっと安心したのか、レイナードが青ざめた顔のままゆっくりと振り返る。異性っぽい者の痴態を見て内心では喜んだいたといった様子が微塵も無いのは明らかだった。
次はロシェルの番だ。
「て、照れますね。改めて水着姿を披露するというのは」
頰を薄く染め、イレイラが軽く首を傾げる。
とんでもないモノを見せられて一気に閉ざしたレイナードの心が少しほぐれた。口に出してなど絶対に言えないが、女性が恥じらう姿が彼は正直とても好きだ。ロシェルのが、特に。
スルッとタオルを足元へと落としてロシェルが水着姿をレイナードの前に晒す。長い黒髪は緩くアップにしてあり、白いハイビスカスの生花を飾ってる。上はスカイブルー、下へいくほど白くなっていくグラデーションで配色された水着はタートルネックのようなデザインで、上半身は腕以外全て見えない。腰には大きな髪飾りとお揃いで、ハイビスカスが刺繍してある白いパレオが巻かれ、脚をしっかりと隠していた。
「どうかしら?」
照れ臭そうにするロシェルに向かい、レイナードがこの日始めて笑ってみせた。
「とっても似合っている」
「本当に?嬉しいわ」
クルッとその場で回り、ロシェルがレイナードに全身を見せる。背中もしっかり隠れてはいるが、スタイルはしっかりわかってしまい、彼は無意識に口元を緩ませてしまう。『色っぽいな』と叫びたいくらいな気持ちだったが、そちらは寸前で堪えた。
「ほらね?」
イレイラがサキュロスに向かいニヤッと勝ち誇った顔を向けると、彼はめちゃくちゃ悔しそうに不貞腐れていた。
「事前情報はあげていたわ。不公平だとは言わせないわよ」
年下に釘を刺されてしまい、サキュロスは頬を膨らませて「ふんっ!」とそっぽを向いた。
「さぁ負けを認めて、退散しましょう」
その言葉を意外にもサキュロスが素直に従う。彼の気持ちはもう次回の事を考えていた。
イレイラとサキュロスの二人がこっそり大浴場を退出する。
アルとレイナードは風呂場に取り残され、『この後はどうしたものか』と困惑気味であったが、ロシェルは一仕事終えてホッとした様子だった。
「さて、戻るか。もう終わったんだよな?」
首の後ろをさすりながらそう言ったレイナードを、ロシェルは気まずげに見上げた。
「母さんから聞いていないの?」
「何をだ?」
彼の反応を見てロシェルが慌てる。何かを、言うから言わないかで迷っているようだ。
「どうしたんだ?」
「……あのね、シド。実は勝負に勝った方は……しばらく二人きりですごしましょうと約束しているの。ほ、惚れてもらうには、二人で沢山お話するのが一番でしょう?それでね、あなたの分の水着もあるから、一緒に足湯でもしないさいって言われているのよ」
「足湯?」
「えぇ。お風呂の縁に座って、足だけお湯に入れるの。シドの水着は脱衣場にあるから、足湯が嫌じゃないなら着替えて来て」
『儂は先に入るから、早く着替えて来い』
アルが肩から飛び立ち、勢いよくお湯へと飛び込む。尻尾を使い、器用に泳ぐ姿にロシェル達は微笑ましい気持ちになった。
「……どうします?」
チラッとレイナードの様子を伺うと、彼はまぁいいかと言いたげに息を吐いた。
「わかった。着替えてこよう」