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花月夜れん
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#恋愛
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# 第十六話 『初めての共同実習』
五月。
新緑が学園を鮮やかな緑色に染めていた。
Sクラスの生徒たちは、魔法実技演習場へ集められている。
担当教師のクロードが前へ出た。
「今日の授業は共同実習だ。」
生徒たちが顔を見合わせる。
「二人一組になり、結界魔法を完成させてもらう。」
「結界は一人でも張れる。」
「だが、二人で張る場合は互いの魔力を合わせる必要がある。」
「重要なのは魔力量ではない。」
「相手との呼吸だ。」
アルフレッドが目を輝かせる。
「面白そう!」
◇◇◇
「組み合わせはこちらで決めてある。」
教師は紙を広げた。
「アルフレッド・ルクレール。」
「エリス・ヴァレンティア。」
「はい!」
「はい!」
二人が返事をする。
「レオンハルト・ヴァイス。」
「セシル・エヴァレット。」
「了解。」
「ええ。」
「ノエル・クラヴィス。」
「……リュシアン・アルヴェイン。」
一瞬だけ。
演習場が静かになった。
ノエルは無表情のまま頷く。
「分かった。」
リュシアンも静かに返事をした。
「よろしく。」
「こちらこそ。」
◇◇◇
実習開始。
アルフレッドとエリスは、さっそく苦戦していた。
「タイミングが合わない!」
「ご、ごめんなさい!」
「大丈夫!」
結界が途中で消えてしまう。
教師は苦笑した。
「焦るな。」
「相手の魔力を感じろ。」
◇◇◇
一方。
レオンハルトとセシル。
「合わせます。」
「ああ。」
二人は息を合わせて魔力を流す。
淡い白い結界が完成した。
「安定している。」
教師が頷く。
「幼馴染だけありますね。」
セシルが小さく笑った。
◇◇◇
そして。
「ノエル、リュシアン。」
二人が演習場の中央へ進む。
「始めます。」
リュシアンが静かに言う。
「うん。」
ノエルは短く返事をした。
二人が同時に手をかざす。
銀色の魔力。
青紫色の魔力。
本来なら異なる性質の魔力は反発しやすい。
しかし。
ゆっくりと重なり合い、一つの結界を形作っていく。
誰もが息をのんだ。
まるで夜空に星が瞬くような、美しい結界だった。
「……すごい。」
エリスが思わず呟く。
教師も目を細める。
「魔力同士が喧嘩をしていない。」
「見事だ。」
◇◇◇
だが。
ノエルは結界を見つめたまま、小さく首を傾げた。
「違う。」
「?」
リュシアンが見る。
「まだ少しズレてる。」
「〇・三秒。」
「僕の魔力が遅い。」
教師は驚いた。
「分かるのか?」
「分かる。」
リュシアンも結界を見つめる。
「……本当だ。」
「次は合わせられる。」
教師は思わず苦笑した。
(私には分からない。)
二人だけが見えている世界だった。
◇◇◇
「もう一度。」
今度は二人とも目を閉じる。
呼吸を合わせる。
魔力を流す。
その瞬間。
結界が一切揺らがず完成した。
透明で、美しく、まるでガラス細工のようだった。
教師は静かに拍手を送る。
「満点だ。」
◇◇◇
授業が終わる。
アルフレッドが駆け寄ってきた。
「すごかった!」
「二人とも息ぴったり!」
ノエルは首を横に振る。
「違う。」
「リュシアンが合わせてくれた。」
「え?」
ノエルは淡々と続ける。
「僕が〇・三秒遅れた。」
「でも修正された。」
アルフレッドはリュシアンを見る。
「そうなの?」
「……無意識。」
リュシアンは少し困ったように笑う。
「合わせやすかったから。」
ノエルはその言葉を聞いて、少しだけ目を細めた。
(やっぱり。)
(この人は、自分が合わせることを当たり前だと思ってる。)
◇◇◇
帰り道。
五人で校舎を歩いていた。
アルフレッドが楽しそうに話している。
「今度は五人で結界張ってみたい!」
「難しそうですね。」
セシルが笑う。
「面白そう。」
エリスも頷いた。
レオンハルトはリュシアンを見た。
「……疲れてないか。」
「平気。」
その返事に、四人は同時に苦笑する。
「また『平気』だ。」
アルフレッドが笑う。
リュシアンは少し照れたように視線を逸らした。
「……本当に平気だから。」
そのやり取りに、ノエルがぽつりと言う。
「信用ゼロ。」
一瞬の静寂。
そして。
「あははは!」
アルフレッドが声を上げて笑った。
セシルも肩を震わせる。
レオンハルトは小さく笑みを浮かべた。
リュシアンは少しだけ頬を赤くしていた。
「……そんなに?」
「うん。」
四人の声が重なる。
「そんなに。」
リュシアンは困ったように笑った。
その笑顔は、いつもより少しだけ自然だった。
誰かと笑い合う時間が、少しずつ彼の心をほどいていく。
本人はまだ、その変化に気づいていなかった。
-–
**第十六話 『初めての共同実習』 終**
コメント
1件
みぅです🥀読了しました。 今回の十六話、すごく好きな回でした。結界魔法の共同実習、組み合わせの妙が効いてますね。ノエルとリュシアンの魔力が重なる描写、きれいだったなあ…あの「0.3秒のズレ」を感じ取れる二人だけの世界、すごく印象的でした。 最後の「信用ゼロ」からの四人の笑い声、リュシアンが少しずつ解けていく感じが愛おしかったです。こういう日常の温かさが、この作品の魅力だと思います🌙