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今日は大学時代の友人の結婚式。
フラワーシャワーを浴びながら参列者たちの間を歩く彼の顔は、美しい花嫁の隣で幸せそうに輝いていた。
何年か前、彼は同僚に対して切ない恋をしていた。好きで好きでたまらなかったようだが、結局は彼女のためを思って、それ以上追うことは諦め、自ら身を引くことにしたらしい。あれからしばらくは仕事中心の生活で、浮いた話の一つも聞かなかったのだが、この正月に仲間内で会った時、今度結婚するんだと嬉しそうな顔で俺たちに報告してきたのだった。
おめでとう――。
俺は拍手をしながら心の中で祝福の言葉を投げかけた。
式の後は、披露宴だ。
新郎新婦が次の支度のために去って行ってから、結婚式の参列者たちは会場に向かってぞろぞろと移動し始めた。
俺はその一団から少し離れて、辺りを見渡した。
式場にいた時に、友人ではない知り合いを見かけたのだ。彼女はカメラを携えていた。
いないな――。
俺はふっと小さく息を吐き、再び歩を進めた。その時、迷うような声で俺に話しかけてきた女性がいた。
この声は、やっぱり――。
聞き覚えのある声だ。ゆっくりと振り返ったそこには、ごついカメラを肩にかけた女性がいた。
「もしかして、さおりさん?」
「やっぱり北川君だった!すごい偶然だねぇ」
大学時代、アルバイトで彼女の撮影の手伝いを何度もした。カメラの他にも撮影用の荷物を様々手にしているところを見ると、今もまだ現役のカメラマンなのだろう。俺の視線に気がついて、彼女は言った。
「このお式の撮影の依頼を受けてね。写真を撮りながら、参列者の中にどこかで会ったことのある人がいるなって、ずって思ってたのよ」
「ものすごくお久しぶりです。しかし、あれからもう何年もたってるのに、よく分かりましたね」
「そりゃ分かるわよ。ずいぶんと手伝ってもらったからね」
「やっぱり今もフリーでカメラマンやってるんですか?」
「まぁね。相変わらずフリーではあるけど、ここ数年はこの辺りで大手の印刷会社と契約して仕事もらってるの。タカダマ印刷って知ってる?そこの企画部のリーダーが専門学校時代の先輩でね。紹介してもらえたんだ」
俺は息を飲んだ。
タカダマ印刷って……。知ってるも何も、そこは俺の父が社長を務める会社だ。
あまりの偶然に言葉がすぐに出てこない。
「そう言えば、碧ちゃんにも時々会うわよ。きれいになってたなぁ。……あ、っとごめん。私、べらべらと」
さおりは慌てたように口をつぐんだ。俺の表情が固まっていることに気がついて、それを気にしたようだ。余計なことを喋ってしまったと後悔している様子が見えた。彼女は当時の俺たちのことを知っている。
俺はさおりを安心させるために微笑んだ。
「全然大丈夫ですよ。もう昔のことなので。――ちなみ今も彼女と連絡取り合ったりしてるんですか?」
さおりはまだ気まずさを残した顔で答えた。
「たまにメッセージをやり取りしたり、後は仕事で会社に行った時に会ったりするくらいだけどね。おっと、そろそろ披露宴会場に行かなきゃ。私、先に行くわね」
#再会
はなたろう@推しと恋する物語
「あ、さおりさん!」
俺は彼女を引き留めた。
「何?」
「俺に会ったこと、彼女には内緒にしておいてもらえますか?元カレのことなんか、聞きたくないだろうから」
さおりは複雑そうに笑った。
「分かった。言わないでおくから安心していいよ。それじゃあね」
「はい。仕事、頑張ってください」
さおりの背中を見送った俺は、居てもたってもいられないような気持ちになっていた。今夜は実家に泊まることになっている。その時父に伝えよう。これまで断り続けてきた、会社を手伝うという話を承諾することを。
「あ、でも――」
その前に条件をつけさせてもらおう。数か月の間だけでいいから、現場で働きたいと。会社の現状を把握しておきたいとでも言えばいい。もちろん本音は別のところにあるけれど、それを父たちに言う必要はない。
俺は苦笑しながら一人ごちる。
「我ながら決断が早すぎるな。それにしても、早くも幸せをおすそ分けしてもらったような気分だ」
後で新郎である友人に礼のひとつも言っておくか。なんのことやら不思議な顔をされるだろうけど――。
俺は口元に笑みを刻みながら、はやる気持ちを抑えつつ披露宴会場に足を向けた。
(了)
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