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石仏さんに二人が同じ様な事お願いするのが良い🩷花梨ちゃん ラベンダーの香りのように柊様に癒されて^_^
苦労ばかりの人生だった花梨ちゃん😢これからは柊さんに頼れるといいなぁ💕💕 🪽✨これは幸運が訪れる兆候なのかな?まさに天使が後押ししてくれてるようだね💛
白い羽根🪽ということは、もしかしたらあの方たちご一家のご出演があるのでしょうか…!?👼🪽💕
美味しい鰻を食べながら、諏訪湖の景色を満喫した二人は、店を出て車へ戻った。
「すみません、またご馳走になっちゃって」
「今日は経費だから大丈夫だよ」
「鰻なんて、経費で落ちます?」
「そこはうまくやるよ」
柊がニヤッと笑って言ったので、花梨も釣られて笑う。
そこで、柊が言った。
「このまま白馬へ向かってもいいけど、まだ少し時間があるから、どこか寄りたいところがあれば、ひとつくらい寄れるぞ?」
「えっ?」
「行きたいところはあるか?」
突然そう問われた花梨は、以前から行ってみたいと思っていた場所を口にした。
「テレビで見てずっと気になっていた場所があるんですが……」
「どこ?」
「えっと、なんて言ったかな……石仏の周りを時計回りに三周すると願いが叶うっていう……」
花梨のヒントを元に、柊は携帯で調べてみる。
「『万治の石仏』?」
「あ、それです」
「ここから近いみたいだから行ってみよう」
「ありがとうございます」
それから二人は、石仏がある諏訪大社下社春宮へ向かった。
諏訪大社へ到着すると、二人はまず参拝してから、石仏へと向かう。
石仏は、ひっそりとした静かな森の近くにあった。
花梨は、携帯で調べた参拝の仕方を柊に教える。
「まずは一礼してから、手を合わせて『よろずおさまりますように』と念じるんです。そして、願い事を心の中で唱えながら石仏の周りを時計回りに三周するそうです」
「うん、じゃあ、君からどうぞ」
「あ、はい、ではお先に」
花梨は石仏に向かって一礼し、手を合わせて『よろずおさまりますように』と唱えた。そして、時計回りに石仏の周りを歩き始める。その後を、柊が同じようにして歩き始めた。
花梨は、歩きながらこんなことを思っていた。
(上司であるこの人と、このまま良い関係でいられますように。あくまでも上司と部下の関係だけでいいので……)
無意識にそんな願いを唱えていたので、花梨は自分で驚く。
しかし、特にそれ以外叶えたいことはなかったので、それでいいと思った。
とにかく、今は仕事が生きがいなので、良い上司に恵まれたこの環境をずっと維持できればと願っていた。
一方、柊はこんな願い事をしていた。
(彼女が素直に俺の元に来ますように)
恋愛に関する願い事をしたのは初恋の時以来だったので、柊は思わず頬を緩める。
石仏の周りを三周回った二人は、足を止め、もう一度石仏に向かってお辞儀をした。
「どうだ、気は済んだか?」
「はい。念願がかなって良かったです」
「で、何をお願いしたんだ?」
「それは秘密ですよー。課長の方こそ、何をお願いしたんですか?」
「俺も秘密だな」
「ふふっ、ですよね。願い事って、他人に言うと叶わないって言いますもんね」
「だな」
そこで二人はクスッと笑った。
「じゃあ、そろそろ行くか」
「はい」
二人は駐車場へ戻り、再び車で白馬を目指した。
白馬までは、それほど時間はかからなかった。
日暮れまではまだ時間があったので、二人は浜田家の別荘を見に行くことにする。
瀟洒な建物が並ぶ高級別荘地を進んで行くと、やがて写真と同じ建物が見えてきた。
浜田の別荘は、静かな森を背景にひっそりと佇んでいた。
「素敵な別荘ですねー」
「長いこと使ってないわりには、綺麗な状態だな」
「ええ」
車を降りた二人は、さっそく辺りの様子をうかがう。
「すぐそこが、スキー場のリフト乗り場なんですね」
「うん。この近さは、かなりの強みだな」
「スキー合宿にはもってこいですよね」
そして二人は玄関まで行き、鍵を開けて中に入った。
室内は思いのほか綺麗な状態だった。別荘の管理事務所に管理を頼んでいるので、室内も庭も手入れが行き届いている。
長い間使っていない別荘にありがちな、カビ臭さやほこりっぽさはまったくなかった。
「管理がしっかりしていて、わりといい状態だな」
「ですね。それに、思っていたよりも広いです」
「これなら、保養所としても使えそうだな」
「はい」
二人は室内をくまなく見て歩き、それぞれの部屋を写真に収めた。
一階をすべて見終えた後、今度は二階の部屋を見に行く。
二つ目の部屋を覗いたとき、ベッドの上で何かがキラッと光ったのに気づいた花梨は、そばへ寄ってみた。
すると、そこには純白の鳥の羽根があった。
「鳥の羽根?」
「空気の入れ替えで窓を開けたときに入り込んだんだろう」
「そうですね……」
野鳥の羽根なら、もう少し他の色が混ざっていてもよさそうだったが、花梨が手にしている羽は白一色だった。
なぜかその羽根が気になった花梨は、そのまま捨てるのが忍びなくて、ハンカチの間に挟んでバッグにしまった。
家の中をすべて見終えた二人は、外に出て庭を見て歩いた。
建物の背後にある紅葉に彩られた森には、風に揺らいだ落ち葉がはらはらと舞い降りている。
正面の庭には、ローズマリーやラベンダーのハーブ類が植えられていた。
花梨はハーブの前でしゃがみ込むと、葉を指でこすり香りを嗅いだ。
「それは、ハーブ?」
「はい。ローズマリーとラベンダーですね」
「そういえば、君はハーブの資格も持ってたね」
「はい」
「ずっと聞こうと思ってたんだが、なぜあんなに資格を?」
その問いに、花梨は目をきょとんとさせた後、微笑みを浮かべながらこう言った。
「私、嫌なことがあると資格試験に集中する癖があるんです」
「嫌なことがあると?」
「はい。何もしないでいると、ついいろいろと考えちゃうじゃないですか。でも、資格の勉強に集中していると、嫌なことを考えなくて済むから」
「…………」
柊は驚いていた。
それほどまでに、彼女には嫌なことが続いていたのかと。
「嫌なことは、そんなにたくさんあったのか?」
「ありましたね。次から次へと……」
「そうか。それは、大変だったな……」
柊がなぐさめるように言ったので、花梨はクスッと笑った。
「いえ……。でも、社会人になってからはだいぶ減りましたけどね」
「嫌なことっていうのは、ご両親のこと?」
「まあそうですね。もちろん、両親だけじゃなく、親戚がらみとか、他にもいろいろです」
父親の会社が倒産した後、母親は男を作って家を出ていった。さらに、父親までもが北海道へ逃げるように行ってしまった。
そんな当時の花梨のことを思うと、柊の胸がズキンと痛む。
両親が残していった後始末を、まだ学生だった花梨が一人で対応するのは、相当なストレスだったろう。
それも、一番遊びたい盛りの時期にだ。
花梨の学生時代は、柊が思っていた以上に、苦労が絶えなかったのかもしれない。そんな風に思えた。
「……まあ、これからは、何か悩みがあったらいつでも俺に言え。私生活のことでも構わないから。とにかく、全部一人で抱え込むな」
突然ぽつりと言った柊の言葉に、花梨はふいに涙が溢れそうになる。
(ダメダメ、泣いたらダメよ、花梨!)
花梨はなんとか涙をこらえると、微笑みを浮かべて静かに言った。
「ありがとうございます」
そして、溢れそうな涙をごまかすために再びラベンダーに顔を近づけ、その優しい香りを思い切り嗅いだ。