翌週、直也のテレビ取材の日がやってきた。
一時限目の講義が終わると、栞はすぐに直也の研究室へ向かう。
愛花は有名菓子店にお茶菓子を買いに行っているので、少し遅れて来る予定だ。
栞は研究室に入ると、直也に言った。
「先生、取材前にお掃除します」
「おお、助かるよ。あれ? 愛花ちゃんは?」
「お茶菓子を買いに行っているので少し遅れます」
「そっか。でも、ちょっと講義内容だけチェックさせてもらってもいい?」
直也はそう言うと、ノートパソコンに向かいながら作業を続けた。
栞は掃除を始め、まずは棚を整理したり観葉植物の手入れをする。それから、テーブルの上を拭いたり椅子を整えた。
掃除の合間に直也をチラリと見ると、彼は忙しそうにパソコンへ集中していた。
大学病院、クリニック、教授職、執筆業、そして今回の取材。
彼の多忙な毎日は、猫の手も借りたいのではないだろうか?
栞がシュガーとミルクをカゴに追加していると、突然直也が口を開いた。
「栞、ありがとうな。本当に助かるよ」
その言葉に、栞は驚いて振り返りこう返事をした。
「いえ……先生はいつもお忙しそうだから、私にできることがあればなんでも言ってください」
「ありがとう! このお礼は、栞の誕生日にたっぷりするからな。サーフィンデビューもその時に!」
「え?」
「サーフィン、やりたいって言ってただろう?」
「そうだけど、いきなり来月?」
「海開きの後だとサーフィン禁止区域が増えるから、できればその前がいいんだよなー」
「わかりました…….」
栞は思っていたよりも早くサーフィンをやると知り少し驚いていたが、直也が自分の誕生日を覚えていてくれたので、胸の奥にじんわりと嬉しさが広がる。
その時、愛花が到着したので、二人でお茶の準備を始めた。
準備が完了すると、愛花が直也に声をかける。
「教授! じゃあ私たちは、先に大教室へ行ってますね」
「ありがとう! 講義後もよろしくね!」
直也は二人に笑顔で言うと、再びパソコンへ向かった。
大教室に向かいながら、愛花が栞に聞いた。
「研究室での取材って、私たちも隅っこで見てていいんだよね?」
「うん、いいって言ってたよ」
「わ~楽しみ! こういうのナマで見るの初めてだから緊張しちゃう! でもさぁ、教授ってまったく緊張してないよね」
「うん。それよりも、講義内容をまとめるのに必死みたいだった」
「ふふっ、さすが精神科医! 教授みたいな人は、きっと緊張なんて簡単にコントロールできちゃうんだろうなぁ」
「その道のプロだもんね」
「だね。あー、逆に私の方が緊張してきたー」
「私もちょっとドキドキしてきたよ」
「栞も? やっぱそうだよねー」
「うん」
そして大教室に到着すると、二人はいつもの左前の席に並んで座った。
席に着いた栞が後ろを振り返ると、華やかな女子学生たちが、いつもよりさらに気合を入れて着飾っていた。テレビ取材が入るので、おめかしをしてきたのだろう。
栞の視線を追った愛花は、ポツリと言った。
「みんな派手な服着てるよね~、まるでタレントみたい」
呆れたような愛花の口調に、栞は思わず頷く。
その時、後方の扉が開き、テレビクルーたちが次々と入ってきた。
「わっ、来た!」
愛花が小さな声を上げた。
スタッフたちは大きな機材を抱えながら、左右と中央にカメラの三脚を固定していく。
「カメラマンが三人に、ディレクターっぽい人が一人? それ以外に数名か……。合計7~8名なら、お茶菓子足りそうだね」
「うん。大丈夫そうだね」
栞は頷きながら、少しホッとした。
大教室にいる学生たちは、興奮気味にクルーたちの動きを追っている。
チャイムが鳴ると、直也が前方の入口から姿を現し、いよいよ撮影がスタートした。
今日の直也の服装は、白シャツにダークグレーの細身のパンツ姿だった。
講義はいつも通りに進んでいった。ときおり、直也のジョークやユーモアが織り交ぜられ、学生たちの笑い声が響く。その度に、カメラの動きが激しくなった。
栞は、いつもと同じように教壇で堂々と講義をしている直也の姿に見入っていた。
(テレビカメラがあっても、全然動じてない……)
栞は密かに尊敬の念を抱いた。
一心に直也を見つめる栞の様子を、右端のカメラがしっかりと捉えていた。
「ちょっと、栞! もしかしたら私たちも映ってるかも! 今、右端のカメラがこっちを撮ってたよ」
「え? 嘘! どうしよう!」
「録画しなくちゃね! 楽しみ~」
愛花が小声ではしゃく横で、栞は再び講義に集中した。
それからしばらくして、講義の終わりを告げるチャイムの音が鳴り響いた。
そこで、講義と撮影は終了した。
栞と愛花は急いで荷物を片付けると、猛スピードで研究室へ向かった。
部屋に入ると、すぐにコーヒーの準備を始める。
十分後、直也が研究室に戻ってきた。彼の後ろには、テレビクルーたちが続いている。
研究室に入った直也は、テレビクルーたちに二人を紹介した。
「こちらは、助手の鈴木さんと竹内さんです。竹内さんはマスコミ志望なので、何か良いアドバイスがあれば、ぜひお願いしますよー」
すると、ディレクターの男性が、笑顔で愛花に言った。
「竹内さんは、マスコミ志望なんですか? それは嬉しいなぁ」
「はい! 今日はこのような場を見学させていただき、とても光栄です」
緊張した様子で愛花が頭を下げると、ディレクターは名刺を取り出し、栞と愛花に一枚ずつ渡した。
「うちのテレビ局では随時バイトを募集していますので、もし興味があるようでしたらメールください。ご紹介しますよ」
「本当ですか? ありがとうございます!」
愛花は満面の笑みで返事をした。
それから二人は、着席したスタッフにコーヒーとお茶菓子を配る。直也とテレビクルーたちはしばらく雑談を交わした後、今度は単独インタビューの打ち合わせが始まった。
栞と愛花は少し離れた場所から静かに見守る。
直也は臆することなく、年上のディレクターに対し堂々と対応していた。
それは、栞が見る直也の新たな一面でもあった。
その様子を見ながら、栞はさらにいっそう直也に対する想いが募るような気がした。
打ち合わせが終わり、いよいよ本番のインタビューが始まった。
「ドキドキするね!」
愛花が小声で言ったので、栞は小さく頷いた。
直也がテレビカメラに向かって堂々と語る姿を見て、栞はこれまで感じたことのない胸の高鳴りを覚えていた。
コメント
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直也先生の栞ちゃんに対する感謝の声掛け、すごく愛が溢れていますね…♡♡♡ そしてテレビ取材が入っていても堂々と受け答えをする直也先生を間近で見て、さらに愛情と尊敬の気持ちを深めていく栞ちゃん… 来月の誕生日が楽しみですね🎂 栞ちゃんのサーフィンデビュー🏄️🌊 そして二人の愛もさらに深まっていくのかな…⁉️👩❤️👨🤭💕💕
ま・さ・に相思相愛💖 キュン🩷キュン💙しちゃう(☞ ͡° ͜ʖ ͡°)☞
TVに映る事を意識した派手なお姉様方ではなく真剣に講義を聴いてる栞ちゃんが映ってたりして🤭 シゴデキ直也さんには魅了されちゃうよね(*ˊ艸ˋ)💕💕 直也さん的には栞ちゃんのお手伝いもきっと嬉しかっただろうな🫶