テラーノベル
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境内でゼナと秘書を出迎えたのは、どこにでもいそうな中年男性だった。
本人には申し訳ないがとても日本で最古の秘密結社のメンバーには見えない。凄みも貫禄もなく、正に普通のおじさんという感じ。
「本当に、本当に申し訳ありませんでしたぁ!」
叫ぶように言って男性は、撥ねるようにしてその場に土下座していた。
禿げあがった額を地面にこすりつけ、しかも泣きじゃくっていた。
ひょっとして私のことを怖がっているのだろうか、とゼナは思ったがどうやらそういうわけでもないらしい。
「まさか、こんな人的被害が出る羽目になるなんて……! 全ては現場責任者の私の失態です! どうか、いかようにも処分してください!」
「んーっ……」
人差し指を形の良い唇に当て、しばらくの間、ゼナは曇った空を見上げていた。
それからおもむろに男性に尋ねる。
「ええっと竹山サイチさん、だったよね? 身分は確か――、監督官だっけ?」
「は、はい……」
土下座したまま答える男性――竹山監督官の声は消え入るように小さかった。
そんな竹山にゼナは笑顔で、まるで悪さをしでかした小学生に相対した教師のような笑顔でこう問い質す。
「あなたは毎日のレギュレーションをきちんと厳守していたんだよね? そして、それを証明するための記録はあるのかな?」
一瞬の沈黙。
「……は、はい。日に三度、玄武機関から派遣された神職の片に礼拝をお願いして……。それも毎日、欠かさずビデオ撮影で記録を」
だけど、と竹山はちらりと視線を背ける。
ゼナもそれにつられ目を転じる。
まるで局地的な台風でも荒れ狂ったかのように――、そこには無残な光景が広がっていた。
粉々に砕かれ、あちこちに散らばる大量の木材。
元はそれなりに大きな社殿だったらしく、古びて文字は読めないが立派な神額が転がっているのが見えた。
そして、それに混じってマネキンの人形の腕や足、頭部のようなものが散らばっているのが見えた。
しかし、それらにはそれぞれ切断面のようなものがあり、黒々とした物がべっとりとこびりついている。
そしてすさまじいまでの腐臭。
それは死の臭いだ。ゼナにとっては同じみの悪臭。
これは、とゼナは思う。
また随分と派手にやってれたねぇ。本当にやりたい放題にやってくれたもんだ。
隣で秘書が口もとを押さえ、小さくうめき声をあげていた・。
「こんな大事になった以上、私は責任を取らなくては……」
「それは貴方の仕事ではないよ」
事も無げに言ってゼナはまたほほ笑んだ。
「竹山さんはここの監督として厳格に規定を守り続けた。その上で問題が起きたのなら責めを負うべきはあなたじゃない。運用ルールを制定した上層部だよ。……そうは思わないかい?」
同意を求めゼナは秘書を振り返る。
秘書のほうも竹山に負けないぐらい蒼白の顔だったが、首を縦に何度も振っていた。
ゼナの意思を汲み、竹山を擁護するなら言葉にして欲しかったが無理だった。目の前で広がる破壊の光景がショック過ぎて思考が追い付かないようだ。
やれやれ、とゼナは内心肩をすくめる。
最近は若い子もおじさんもどっちも軟弱だなぁ。
どういう経緯でこんな組織に身を置いているのかはしらないが、こんなんじゃこれから先が思いやられる。
……いや、それは違うな。
ゼナは思い直す。
二人の反応は人間ならごく真っ当な反応だ。
なにしろ、今、この境内では二十人以上の人が亡くなり――、文字通りあっちこっちに散らばっているのだから。
と言うか私自身、ほんの数年前までの間違いなく卒倒していたはず。
哀しいな。
そんなことにも気がつかないぐらい頭がおかしくなってるなんて。
「じゃ、そういうことで――」
素早く気持ちを切り替え、ゼナはテキパキと言った。
「竹山さんはここから撤収準備をお願いします。と、同時に亡くなった職員たちのご遺体の回収、ご遺族へのお悔やみや保障の手続きも。大変だとは思うけど。それから――」
ゼナは秘書を見た。まだ顔が青い。見れば見るほど普通のお嬢さんだ。
いつまでもこんなものを見せつけるのは酷というものだ。
「……我々は歩きながら話そうか。今後どう動くかよく考えないと」
人差し指をくいっと動かして秘書を誘い、ゼナは境内の奥へと進んでいった。
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