「そこまで拒否されると、逆に止めたくなくなるなぁ」
ニヤッとした意地の悪い顔でそう呟くと、ロイさんは私の胸元にそっと手を当て、「止めてはあげないよ。そんな恍惚とした表情で拒否されても、いまいちピンとこないしね」と言って、トンッと私の体を軽く後ろへ押した。
「『君』は芙弓を押さえてて。逃げられないようにしておかないと。この子はホント、臆病だからね」
暗い影すら感じる表情をするロイさんの側で『彼』は無言のまま頷き、私を拘束する腕の力を強めた。
「……もらうね。芙弓の、『全て』を」
ニコッと一瞬だけ微笑を浮かべたかと思うと、次の瞬間には、私の体のナカにロイさんの熱塊が一気に挿入り込んできた。指や舌で充分にほぐされていたはずなのに、私の秘部は悲鳴でもあげているかのように痛み、ナカから押し出されて零れ落ちた蜜には純潔を示す赤い血が混じっている。
「せ、狭いな。それに、凄く熱い……気持ちいい……」
誰に言うともなく、ロイさんが余裕の無い様子で呟いた。
「う、動くよ。いいよね?まぁ、今更止めるとか、到底無理なんだけどさ」
「だ、ダメッ!無理っ」
私の発した悲痛な声など彼には全く届かず、ロイさんはゆっくりとした動きで、熱く滾る雄を膣の奥へ奥へと押し込んだせいで、全身が焚灼に遭った様な錯覚が走った。
「いっ……痛いっ」
目に涙を浮かべ、うわ言の様な声が出る。
「……こんなに濡れていても、駄目なのかい?」
当然だろ。いったい私達にどれくらいの体格差があると思っているんだ。
軽く湧いた怒りは、ロイさんが熱塊を引き抜く動きで即座に蒸発して消え去る。痛い、痛い痛い!と同じ言葉が頭の中でぐるぐる回っていたはずなのに、抜け去る一瞬だけ、何か痛みとは少し違う感覚が体の奥で仄かに湧き上がった。
「んあぁぁぁ!」
淫猥な声をあげ、とうとう眦に溜まっていた涙がボロボロと零れ落ちる。
「……抜ける感じが気持ちいいんだ?なるほどね、うんうん」
何かを学習でもしているかのように、ロイさんが頷く。
「もう少し脚開いて、胸も触りたい」
『彼』に向かいロイさんはそう指示を出す声が聞こえ、私は「い、いや……」と、か細い声ながらも拒否してみたが当然の様に一蹴された。
「了解っと」
素直に従い、私の背後に居る『彼』が思い切り脚を開脚させる。少し股関節に痛みすら感じる程、卑猥に脚を開かされたせいで羞恥に肌が染まった。
「この体勢だと、胸あるね。なんていうか……可愛い、かな?」
尚も貧相な胸に対し一言多い。そんな文句しか言えないくせに、指先でくにゅくにゅとツンッとする尖りを弄りながら、ロイさんがクスッと笑った。
「う、うるさ……んっぁ……」
こちらが怒りを露にしようろするとロイさんが腰を動かしてくるもんだから上手く言葉に出来ない。動かれるたびにたつ、ぐちゅっくちゅっという卑猥な水音と共に、自分の中で、当たり前だと思っていた平穏と孤独な日常が崩壊していく音が鳴っている様な気がする。
「あはは、かぁーわいぃ」
「そうだね、このカッコよくすらある手とか、ホント食べちゃいたいよ」
楽しそうな『彼』とロイさんの声が耳の奥まで聞えても、すぐに快楽の波の中に消えていく。
「あっ……あぁぁっ」
はしたなく喘ぎ声を発してしまう口の中に『彼』のしなやかな指が入り、歯を撫でる。その指の触れる感触はとても心地いいと感じてしまうのに、卑猥な声をあげてしまう事を邪魔してはくれないのがもどかしい。だが、時折秘部に感じる刺激の強さに私が唇を咬みそうになると、『彼』がすぐにそれを指先で止めさせてくれたのはとても嬉しかった。
水音をたてながら秘部のナカを弄るロイさんの動きはもう随分と長きに亘った気がするが、意外に途中からはとても優しいものだった。私が憎まれ口や文句を言いかけそうになった時だけは少し激しさを増したが、返ってソレがより一層体を刺激し、快楽の淵へ私を追い込む。
だが、私があと少しで何か知らないものへと手が届きそうになると、ロイさんは敏感に察してそれを許さない。ずるっと私のナカから熱い塊を抜き出し、空を掴むしか出来ないでいる私の手を愛おしそうに舐めたり、唇に優しいキスをし始めるのだから本当にタチの悪い男だ。
腕を舐め、乱れた髪を二人が優しく梳いてくれる手の動きには、酒酔いにも似たふんわりとした心地よさがあった。体中につけられていく赤い刻印はまるで、裸体の上に桜が舞い落ちたかのように美しく、自らの白い肌に映えて見える気までしてくるからのだから恐ろしい。
それらの愛撫を受け入れ、こちらの熱が少しでも落ち着くと、何度も私の最奥に彼が舞い戻って来る。話でしか聞いた事の無い、いわゆる『絶頂』というものの寸前で全てを止められ、そこには届かず、まるで飼い殺しの様な時間が暫く続いた。
「……もぅ、やめ………」
気絶寸前とも言える程に体力も限界に近づき、手に入らぬ絶頂を求める事に疲れた私がボソッと呟くと、「観念した?」とロイさんが訊いてきた。
(何の事だろう?『観念』って、何か根競べでもしていただろうか?)
今さっきまた、直前で引き抜かれてしまったばかりなせいで上手く回らない頭で彼の方を見ると、なんだかロイさんが少し悔しそうな顔をしているのが目に入った。
「全然言ってくれないから、悔しくて苛め過ぎちゃったね。でも、芙弓が悪いんだよ?」
(『言う』って、何か卑猥な単語でも言えってんだろうか?『ちゃんとシテ』だ、『ちょうだい』だなんだって……流石に言いたくないんだけど——)
声には出せないまま、ちょっとそんな事を考えていると、ロイさんがねっとりと濡れる熱塊を私の秘裂に押し当ててくる。ぬっとりとしたモノで一番敏感な箇所をただ擦られるだけでも甘い声がこぼれるが、どうも彼の欲しいものとは違うみたいだ。
「……ねぇ、名前を呼んでよ。気が付いていたかい?芙弓は一度も、僕を名前では呼んでいないって」
「な……なま……?」
「あ、うん。確かに『生』ではしてるけど、そっちじゃなくてね?」
口が上手く回らずに呟いた言葉を聞き違えたのか、ロイさんが苦笑する。
「ば、馬鹿じゃなぃろ!?」
一気に崩れた場の雰囲気に声を荒げたが、『彼』が私の背中を舐め始め、再び淫靡な気分に引き戻された。
「ねぇ、贅沢は言っていないよね?ただ呼んで欲しいんだ、『ロイ』って……」
(そしたら、くれるの?)
恥かしさで言えない言葉をゴクッと呑み込むと、自然と視線が下へいく。最初以降出来るだけ目を背けていた彼の重たそうな陰茎がしっかりと目に入り、こんな凶器をずっと呑み込んでいたのかという怖さを感じる所か、己の秘部がキュッと収縮するのを感じた。敏感にその動きを察し、ロイさんが蜜の絡む熱塊を淫口に擦りつけてくる。その動きに感じる快楽で息があがり、高揚感で心がいっぱいになっていると、私の濡れ光る唇が自然と「ロイ……さ、んっ」と呟いた。
途端、ズクッと最奥まで熱い塊が舞い戻り、私の子宮をこれでもかという程に押し上げてきた。
「んああああっ!」
気持ちいいとも痛いとも言える程の激しい突き上げに、白い喉を反らせ、私の額からは汗が流れ落ちる。長過ぎるとも言えた優しい動きで充分膣内は解されていたとはいえ、質量のある熱塊は私では荷が重過ぎ、全てを受け入れるには無理があるように感じられた。
「んあっ……いぃ、芙弓っ」
ロイさんが恍惚とした表情で呟く。彼の顔には余裕などなく、ただ目の前の快楽を貪っているのがハッキリと見て取れる。『名前で呼んでもらえたってだけで、何故そんなに?』と少しだけ思ったが、私も苗字よりはずっと下の名前で呼ばれている今の状態を嬉しく感じているので、すぐに納得出来た。
激しく動かれるのは正直苦しいが、快楽に酔いしれるロイさんの姿がとても淫靡で痛みを忘れさせてくれる。
「ロイさ……ロイさんっ!んくっ!あっぁぁっ」
名前を呼び、少しだけ腕を前の方へやると、私の体をずっと押さえ続けていた人形の『彼』が拘束する手を離してくれた。振り返る事無く私はロイさん本人に抱き付くと、彼は即座に私の背に腕を回し、キツく抱き締めてくれた。
「芙弓……可愛い、可愛いね、芙弓……」
うわ言の様な声で呟くロイさんの低めの声が耳に心地いい。一生コイツが私に向かって言う訳が無いと思っていた単語なので、余計に。
彼が体勢を変え、座る様な体位になってこちらの脇に手を回し、私の体を上下にと揺さぶり始めた。快楽が脊髄を走り、羞恥心を完全に忘れさせる。
『こんな行為は嫌いだ』『私達の関係性は?』だなんだといった考えの全てが私の中から消え去り、自らも呼応する様に体を動かすと、ロイさんが嬉しそうに微笑んだ。その笑みが私の快楽を加速させ、膣壁や蜜壺を弄られる事で感じる快楽が私のナカで大きな波をどんどんと引き寄せているのを感じる。
「あ、あぁっ!」
恥じらいもなく獣の様な声をあげて快楽を貪っていると、ロイさんの指が紅い実の様な肉芽を摘む様に触ってきた。
「だ、駄目!——んぐっ!!」
声をあげると同時にビクビクッと私の体が震え、空白の時間が私の全てを包む。何も考えられず、ただただ震える体をロイさんの方へ預けると、彼は私の顔を上に向けさせ唇に吸い付いてきた。
「初めてでイっちゃうなんてね。素質あるんじゃないかい?」
意地悪くそう言うと、繋がったままの状態で体位をまた変え、私の体をそっとベッドに寝かせた。
「……なんの?」と返す間もなく、寝そべる私の肌をロイさんは愛おしそうな表情で舐めると、秘部に入ったままであるモノを動かし始めた。
初めてだとはいえ、焦らされ続けた上に、達したばかりの体は即座にその動きに反応し高揚する肌に涙の粒と汗とを滴らせ、はしたなく開かれた口からは甘い声が何度もあがった。
涎までもが肌を滑り落ちる程に我を忘れていると、抜き差しされる動きが少し早くなり、ロイさんから漏れ聞える声も甘美な色が強くなってくる。肩で息をし、屈強な身体を支えている腕を汗が流れ落ちている。そんな彼の姿がとても綺麗に見えて、私は恐る恐る手を伸ばし、彼の頬に触れると——今の私達の情事が脳裏の中に直接届いてきた。
視覚、聴覚、触覚だけでなく、脳髄までもを同時に犯されている様な錯覚は体を快楽にうち震わせ、二度目の絶頂の波がいとも容易く私の体を包み込む。
「あ……あぁ……」
震える体は膣壁を痙攣させ、ロイさんの熱塊を容赦なく強く締め付ける。するとその動きのせいで彼もたちまち絶頂へと上り詰め、白濁とした熱い欲望を私の最奥にたっぷりと注ぎ込んだ。射精によりびくっびくっと膣内で熱いモノが動く度に体中に何か満ち足りた心地いい感覚が広がっていった。
甘い痺れのせいで動けず、恍惚とした表情のままベッドの天蓋を見上げていると、ゆっくりとロイさんの熱塊が私のナカから抜け出て、彼が私の体の上に覆い被さってきた。 相変わらず体重はかけないでくれているので重くはないが、全然動く事が出来ない。
「……流石に疲れたね。ははは、もう僕も年だなぁ」
顔を少し上げ、私の目をちゃんと見詰めながらロイさんが微笑みを浮かべている。
どこかさっぱりとした感もある表情に、何故か複雑な気分になりながら私は「……当然じゃないですか。そっちはとっくに三十を余裕で超えてるんですから」と答え、視線を反らした。
「つれないなぁ。あんまりそっけなくされると、逆に燃えてくるんだけど、知ってた?」
「ア、アンタの性癖なんか知らないって前にも言ったよね!?」
「あ、ほら。そんな声出すから、もう」
ロイさんが溜息雑じりにそう呟いたと同時に、脚に違和感を覚えた。何かデジャブに近いものを感じ、まだ少し高揚感の抜けていなかった顔が一気に青くなっていく。
「む、無理!もうヤダ!」
涙目になりつつ逃げ腰になる。なのに、ロイさんが満面の笑みで私の手をギュッと握ってきた瞬間、彼が抱いている卑猥なイメージに脳髄を一気に犯され、全身から力が抜けてしまった。
『助けて!』と人形の『彼』に視線をやっても、肌に覆われているせいで目が見えない身では気が付いてくれるはずも無く。 後はもうなし崩し的に彼の意のままに全てが流れていったのだった——