テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
99件
国雄様忙しい中でもきちんと千代さんに話をして紫野ちゃんを迎えてくれて千代さん安心したと思う それにお父さんの一言があったとしてもお母さんお部屋も整えて紫野ちゃんを迎えてくれて気持ちの優しい家族と出会えて紫野ちゃん良かったね もしかしたら東京土産に美味しいお菓子を持って急いで国雄様帰ってくるのかな?この後優しい家族に包まれて紫野ちゃんが幸せになれますように
国雄さんが居ないのがちょっと心配だけどお母さんのお出迎えと心遣いは嬉しいね💕 千代さんにも優しい国雄さん。 こんなに良くしてもらったら益々惚れちゃうよ( ⸝⸝・໐・⸝⸝ )💕
なんと!出張とは😳 母さまいじめないでくださいね 国雄が出張から帰ってきたら母さまと仲良くなってたりして・・ そうなってことを祈ります🙏
翌日、国雄が千代の家を訪れ、事情を説明してくれた。
「お二人は、12年前にあの棚田でお会いしていたんですね」
千代は驚いた様子だった。
「はい。先日、12年ぶりに彼女を見かけました。その時、お仕事を探しているようだったので声をかけさせてもらったんです」
「まぁ、そうだったんですか……そんな偶然が……。紫野様は、ご両親を亡くされてから、それは本当にご苦労なさいました。でも、村上様のもとなら安心できます。どうか、紫野お嬢様のことをよろしくお願いします」
「千代……」
千代の言葉を聞き、紫野は胸が熱くなるのを感じた。
「きちんとお預かりしますので、ご安心ください。もしよろしければ、千代さんも我が家にも遊びにいらしてください。慣れない環境で彼女も緊張することがあるでしょうから、千代さんが来てくださると安心できると思います」
「まあ! なんともったいないお言葉を。ありがとうございます」
紫野は国雄の言葉に驚きを隠せなかった。使用人として村上家へ向かう自分のところへ、遠慮なく遊びに来るよう千代を誘ってくれたのだ。たとえそれが社交辞令だったとしても、紫野にとってはありがたい言葉だった。
国雄が挨拶を済ませると、紫野は千代の姪夫婦に礼を述べ、村上家へと向かった。
車は走り出すと、すぐに停車した。
紫野が不思議に思っていると、そこは駅前だった。
「悪いけど、これから東京へ行かなくちゃならない。だから、村上の家には進に連れて行ってもらってください」
「分かりました。お忙しい中、ありがとうございました」
「うん。じゃあ進、頼んだぞ!」
「承知!」
進という名の運転手は、そう言って車を発車させた。
ハンドルを握りながら、運転手が紫野に自己紹介を始める。
「私は、国雄様の秘書兼運転手を務めている有島進と申します。どうぞよろしくお願いします」
「大瀬崎紫野です。よろしくお願いいたします」
紫野は後部座席から軽く頭を下げた。
有島進は、国雄と同年代で、背格好も彼に似ていた。
国雄に負けず劣らずの端正な顔立ちで、きちんとスーツを着こなし紳士的だ。
「お屋敷には奥様がいらっしゃいますので、どうぞご安心ください」
「ありがとうございます。それで、一つお伺いしたいのですが……」
「何でしょうか?」
「私のお仕事は、主にどんなことなのでしょうか?」
「あれ? 国雄から具体的に聞いていませんか?」
進が『国雄』と呼び捨てにした瞬間、紫野は驚いた表情を見せた。その気配を察し、彼は一瞬「しまった!」という表情を浮かべた。
「びっくりさせてすみません。実は、私たちは幼馴染で、小さい頃からの知り合いなんです。だから、普段は呼び捨てで気軽に呼び合う仲なんですよ」
その説明を聞いて、紫野は納得した様子だった。
「そうだったんですね」
「はい。だから、何かわからないことがあったら、遠慮なく聞いてくださいね! で、今言ってた仕事の内容だけど、まあ、国雄の衣食住に関わることを少しずつ覚えていけばいいと思いますよ。あとは、たまにパーティーにも同行することもあると思います。彼は仕事上での付き合いが結構ありますからね」
「パーティーですか?」
「そうです。結婚していれば妻を伴って出席するけど、彼はまだ独身だから、紫野さんが妻の代わりの役目をすることになると思います。それは聞いてませんでしたか?」
「一緒に出掛けることがあるかもしれないと仰っていましたが……」
「それがパーティーのことですよ。パーティーは東京で開かれることが多いんです」
「東京で?」
「はい。まあ、でも、まずは家の中のことを少しずつ覚えることから始めたらいいと思いますよ」
「分かりました」
紫野はあまり状況を理解していなかったが、分かったふりをして無難に返事をした。
やがて車は、大きな門をくぐり抜け、村上家の屋敷の前に到着した。
進が車の扉を開けてくれたので、紫野は車から降りた。そして、目の前の大きな屋敷を見て、思わず息をのんだ。
(まぁ、なんて素敵な洋館なの……)
村上家の屋敷は、ところどころ和風建築の趣を残しつつも、全体の印象は洗練された洋風の造りだった。
大瀬崎の純和風の家とは、まったく違う。
その美しさに、紫野は思わずため息を漏らした。
「素敵なお屋敷ですね」
「奥様の趣味なんですよ。では、中に入りましょうか」
進は荷物をいくつか手にすると、紫野を玄関の方へ案内した。
重厚な扉の脇にあるお洒落な呼び鈴を鳴らすと、すぐにドアが開いた。
そこには、50代と思われる美しい着物姿の女性が立っていた。
ぎこちない笑みを浮かべながら、女性は紫野に挨拶をした。
「ようこそいらっしゃいませ。国雄の母の美津と申します。あなたが紫野さんね」
「初めまして、大瀬崎紫野と申します。この度は、雇っていただき感謝しております」
紫野はそう言って、深々と頭を下げた。
思ったよりも質素な身なりで謙虚な態度の紫野を見て、美津は一瞬「あら?」という表情を浮かべる。
「では、さっそくお部屋にご案内しますね」
「よろしくお願いします」
「どうぞ、こちらへ。進さん、荷物を持ってきてちょうだい」
「かしこまりました、奥様」
進は紫野の荷物を抱え、二人の後に続いた。
紫野は、使用人の部屋へ案内されると思っていたが、美津はなぜか階段を上り始めた。
「あの……お部屋は二階なのですか?」
「そうよ。国雄の部屋の隣になります」
「…………」
紫野は驚き、それ以上何も言うことができなかった。
(この家では、お付きの者がご主人の隣に住むのが習わしなの?)
何もかもが、大瀬崎の家とはまったく異なっていたため、紫野は戸惑いを隠せなかった。
二階に上がった美津は、絨毯が敷き詰められた長い廊下を歩き始めた。
足元がふわふわして心地よく、紫野はまるで西洋のお城にいるような気分になる。
(まるでお城みたい……)
紫野は、幼い頃読んだ西洋の物語を思い出し、そんな風に思った。
その時、美津が足を止めた。
「あちらが国雄さんのお部屋。そして、ここがあなたのお部屋です。必要なものはすべて揃えておきましたが、足りないものがあったら遠慮なく知らせてね」
「ありがとうございます」
「では、三時のお茶の時間になったら、一階の階段横の部屋まで来てちょうだい。そこで、いろいろと説明しますから。それまでゆっくり休むといいわ」
「ありがとうございます」
美津は軽く頷くと、階段の方へ戻っていった。
美津の姿が見えなくなると、紫野は不思議そうな顔をして進に尋ねた。
「この家では、使用人にいつもあんなに丁寧に接してくださるのですか?」
紫野の問いを聞き、思わず進は吹き出しそうになったが必死にこらえる。
「紫野さんだから特別なんですよ」
「私だから?」
「はい。まあ、そのうち分かりますよ」
進はそう言って紫野に微笑みかけると、部屋のドアを大きく開けた。
その室内を見た紫野は、思わず声を上げた。
「まあ! なんて素敵なの!」
そこは、まるで西洋のお姫様が暮らしているような、とても豪華な造りだった。
天蓋付きのベッド、モダンな照明器具、花柄のソファ、そしてタンスや机まで揃っている。
「じゃあ私は、残りの荷物を取ってきますね」
「お願いします」
進が立ち去ると、紫野は思わず部屋の中へ駆け込んだ。そして、部屋の中をうっとりと見回した後、今度は白い格子窓のそばへ行った。
窓の外には、棚田から見えた山がそびえ立っていた。
(ここが私の部屋? 夢のようなこのお部屋が……?)
あまりの興奮に、紫野は胸が高鳴るのを感じた。